第36話 水脈クエ
「豚トロ様や、聞いてもよいかの? この水脈発見のクエストをなぜ受けられたんじゃ?」
「ふふーん。それはねぇ、このクエを受けると、結果的にはたくさんの魔力結晶が手に入るからなの!」
「なんと! そうなのかの」
「うんっ。途中でボスを何回か倒したりいろんな寄り道があるけど、私の知ってる通りなら結果的にはたくさん手に入るから、期待してて!」
私が受注したのは水脈クエと呼ばれるものだ。
ゲームの通りであるなら、このクエには隠しルートが存在している。
通常では指定されたポイントを掘って水脈を探り当てるだけというつまらないクエストなのだが、とある場所を掘り始めるとそこに洞窟が出現し、内部には凶悪なモンスターが配置されているのだ。
そして洞窟の最奥部に大量の魔力結晶鉱脈が出現するというものであった。
「ほぉ! 豚トロ様がそうおっしゃるのであれば間違いあらんであろうて。メアリーの魔力結晶は常に枯渇しているからして、設備の稼働のためにもはよお手に入れたいものじゃな」
「そそ。とくに生産設備系が動かせるようになると魔力結晶も七割くらいは自給自足できるようになるからね。何とかしてそこまでにもっていきたい」
なんてことを話しながら目的地となるレレムの山の麓にやって来る。
「む? 先客がおるの」
「こんなところで何してるのかしら」
周囲に身を隠せる場所も少なく、向こうもこちらを既に発見しているため、ハイディングせずにそのまま彼らの元へと歩んでいく。
誰かと思ったら冒険者ギルドで私たちに突っかかってきた上に、私たちを変人呼ばわりして逃げていった冒険者の二人であった。
「やべ!! あの頭がおかしなやつらが来やがったぞ!」
あー……。
まだ変な人って思われてる……。
「やべってなによやべってっ。失礼な言い方ね」
「お、俺らをつけてきたのかっ! くそっ! ポッピン教のストーカー野郎どもめ!」
武器まで構えてきてるし。
大福ちゃんが今にも飛び出しそうな構えとなっていたので腕をがっちり掴んでおくことにする。
「違うっつーの。たまたまここに用があっただけよ」
「つ、つまり、てめぇらもアレが目当てってことか!?」
「アレ……?」
彼らは武器のほかにスコップやツルハシも用意しており、明らかに穴掘りを目的としているように見える。
つまり、この人らも私たちと同じく魔力結晶狙いなのだろうか。
エクスペディションオンラインにおいて、このクエストは魔力結晶の獲得効率が非常によく人気なクエストであった。
一方で、このクエを受けられるのは1パーティのみ。
そのため、クエストのために長蛇の列ができるほどであった。
ただ……プレイヤーでもないこの二人はどうやってこの超効率クエのことを知ったのだろうか。
いやいや、普通に情報収集すればわかる内容だったから、自力でたどり着いたと考えるべきか。
「あーっと、べ、別に横取りとかしないよ。あなたたちのが終わったあとにわくのを待てばいいだけだから」
「わくのを待つ……? つまりてめぇらも入りてぇってわけか?」
「入る? パーティ加入させてもらえるの? それならそれで私たちも助かるわ」
二人が顔を見合わせてヒソヒソ話を始めてしまう。
「おい、どうする。頭のおかしな二人だが、人手はあった方がいい」
「だがあいつらの狙いはなんだ。話がうますぎる。裏があるにちげぇねぇ」
「わかんねぇよ。けど、頭がおかしいと思ってたのも実は勘違いなんじゃねぇか? そうなりゃこんな美人と一緒に仕事できるなんて願ったりかなったりじゃねぇか」
「お前それ願望入ってるぞ。冷静に現実みろや。あいつらは美女の皮を被ったバケモンにちげぇねぇ。間違いなく裏があるに決まってる」
「聞こえておるんじゃが?」
私が腕を掴んでいなかったら間違いなく飛び出していたことであろう。
となりで大福ちゃんが殺意を剥き出しにしながら、男どもを睨みつけていた。
「ひぃぃ! い、いや、だ、だって、俺らの立場にも立ってくれよ! あんたら明らかに怪しいだろ! こんなところにいきなりやってきて俺らのこと手伝うなんて、裏がないと思わない方がおかしいだろ!」
「そっちこそ、冒険者ギルドではいきなり喧嘩を売って来たではあらんか。喧嘩ならばわらわはいくらでも買うたるぞえ。さっ、はよお前へ出よ。八つ裂きにしちゃるわ」
なんて述べる大福ちゃんを後ろからチョップする。
「コラッ、八つ裂きにしてどうすんの。ごめんね。この子ちょっと過激なの」
「は、はぁ……」
「えっと、たしかにそうだよね。そしたら、どうすればいいかな。私たちのことが信用ならないんなら街にいったん戻って、あなたたちの掘りが終わるのを待つよ。それかもしあなたたちさえ気にしないなら、私たちも掘りを手伝うわ。もちろん手柄は均等割よ。野良PKなんてもちろんするつもりもない」
「の、のらぴーけー? な、なんにしても……、わかった。手伝ってくれるのは助かる。正直二人で一攫千金と思って頑張っていたが、果てしないと感じ始めていたところだ」
「おい! いいのかよ!」
長身イケメンの方は反対のようだが、キザッタらしい長髪の方は受け入れてくれるようだ。
「話してみたら案外普通だ。ならいいだろ。俺はライルだ。ライル・メレステイア」
「トロポーク・ネイバーよ。こっちは……ダイフク・スパイドゥっていうの」
そう述べて握手を交わす。
大福ちゃんは目すら合わせないようだが。
「リディ、お前も挨拶しろ」
「……チッ。俺はまだお前らを信用したわけじゃねぇからな。リンディス・ベルガルトンだ」
「安心せい。わらわもおぬしらのことは1ミリも信用しておらん」
大福ちゃんとリンディスが視線を交わし火花を散らしてしまう。
そんな二人に対し、私とライルさんは苦笑いを浮かべるのだった。
「じゃ、とりあえず掘ろっか」
「おう! よろしく頼むぜ!」
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