第27話 ポッピン教の首魁
ポッピン教四天王と思われる三者とカイオンおよび見知らぬおっさんがくまちゃんを囲みながら連携攻撃を繰り出していく。
唯一、領主の娘フランソワだけは、非戦闘員なのかこの光景を眺めているようだ。
この者たちはいずれも人間の中ではだいぶ強い方なのであろう。
とくにポッピン教の幹部と思われる者たちは連携もかなりうまいと見える。
男が前衛、盗賊職っぽい奴が中衛、魔法色が後衛を務めていて、スキがない。
けど――
「そらそらどうした! 威勢がいいのは口だけか!? このままじゃ手も足も出ないまま終わるぞ!」
「いえ、我が主を見習ってまずは相手の力量を推し量っておりましたが、推し量るまでもない相手でしたね」
「何を言う! まだ貴様は何の攻撃も――」
その瞬間、男が崩れた。
正確には足と手の腱を切断され立っていられなくなった。
「ぐああああああっ! くそっ! ってめ、なにをした?! 魔法か? それともスキルか!?」
「いいえ、ただあなたを指で突いただけですよ」
男は何をされたかわからなかったであろうが、くまちゃんが指一本で瞬時に相手の腱を切断していったのだ。
そのまま首に手刀を打ち込み気絶させてしまう。
そう。
たしかに彼らは連携が取れていて個としても人間の中では強い方だ。
だが、レベル差があるというのは天と地ほどの差がある。
レベル制MMOにおいて、レベルの差はすなわちステータスの差であり、つまりは戦闘力の差となる。
むろんエクスペディションオンラインにはレベル以外にも強くなる要素が多数存在するが、もっとも手っ取り早く強くなる方法はレベルを上げて物理で殴ることなのだ。
それが王道であり、最も効率がよいのである。
「な、なにが……!?」
一瞬の動揺を見せた瞬間、くまちゃんは盗賊職の元へ。
同じように腱を切断され、彼女も地面へと崩れゆく。
そこへAランク冒険者カイオンが斬りかかるも、吹っ飛ばされてしまい一瞬で無力化されてしまった。
その間に魔法使い職はシールド魔法を張って防御をガチガチに固めていたが、もはや手遅れだ。
いまさら相手が格上だと気付いたところで意味がない。
あと、もう一人のおっさんはいまいち戦闘にやる気がないのであろうか、躊躇が見られる。
「おやおや、先ほどまで余裕の笑みを浮かべていたのに、やはり大したことはございませんね」
「ま、まってお願いっ! 殺さないでっ!」
「見ての通り、主人に言われておりますので殺してはおりませんよ?」
「違う! 私たちは任務に失敗すれば聖女様に殺されるっ!」
「それがなにか?」
「お願いよ! 私は降伏するわ! お願いだから身動きが取れなくなるようなことをしないでっ! 聖女様から逃げられなくなる!」
「ふっ。つまり、あなたは自身の主から失敗を叱責され殺されないために、わざわざ私に手を抜けとおっしゃられているのですね。まったく呆れたものですね。もし私があなたでしたら、自身の不甲斐なさのあまり自害を選ぶところですが」
「何でもするわ! 本当に怖い御方なの! あなただってあの御方には敵わないわっ!」
「ではその聖女とやらの居場所を言っていただけますか? そうすれば少しは長生きできるかもしれませんよ」
「知らないわ! 向こうから毎回連絡をよこして、私たちは聖女様の居場所を知らされていないのよ!」
「四天王なのにですか?」
「本当よっ!!」
「話になりませんね。これで終わりです」
「まっ――」
女性が声を発する間もなく、くまちゃんの手が迫った。
その手は確かに彼女の腱を切断して回ったのだが――、
私は最初、目の前で起こった光景に少しだけ驚いてしまった。
なんと崩れ落ちたのは女性のみならず、くまちゃんまでもがそうだったからである。
彼自身も突然の事態に困惑していた。
「な、なに……が……? がはっ……!」
気付いたときには腹部を何かの柄のようなもので突き刺されていたのだ。
伏兵?!
私が気付かないレベルの!?
すぐに出るべきだと判断し、くまちゃんを守るように立ちはだかる。
そこには、仮面をつけた白銀長髪の少女が、暗殺短刀を両の手に立ちはだかっていた。
瞬時に同格あるいは格上の相手だと判断する。
「あなた、何者?」
「そちらこそ、わたくしがわずかにしか感知できないレベルの隠密能力を兼ね備えているなんて、驚きですわ。長く生きておりますが、まさかこれほどの強者と出会うとは思っておりませんでした」
私が感知できないってことは、相手は忍者か暗殺者のマスタークラスを獲得している。
けど、それにしては装備が忍者とも暗殺者とも思えない。
どちらかというと聖職者に近い装備だ。
純白をベースにした修道服には金の刺繍が入っている。
冷や汗が背中を伝うのと同時に少しだけワクワクしてしまう。
聖職者×暗殺者は、かつて私が考えた中で最も対人戦闘力の高くなるビルドだ。
作るのが非常に難しい反面、聖職スキルよるバフを受けながら暗殺スキルで戦うという、対人に特化した構成となる。
もし彼女がそれに該当し、私と同じ結論に至ってこのビルドにしているのであれば十分に注意すべき強者と言えよう。
「くまちゃん、大丈夫?」
「がはっ、だ、だい、じょう、ぶ……で……」
強力な麻痺毒。
くまちゃんには状態異常系の完全に近い耐性がある。
それを貫通するということはやはり暗殺者のクラスを取得している。
HPが全損しないよう継時回復の魔法をかけ、戦闘態勢を整える。
「一応確認だけど、ポッピン教の関係者ってことでいいのかな?」
「先ほどからそこの女がベラベラと喋っていた聖女ですよ。もはや見ていられなかったので出て来た次第にございます」
「そっか。えっと、戦うってことでいいのかな? いちおう話し合いの余地があるなら乗るつもりだけど」
「現状でそれ以外の選択肢がございまして? さっさとそのフードを外してあなたの素顔をズタズタに引き裂いてやりたいくらいですわ」
「そう、じゃあやろっか。私もあなたに興味がわいたし」
相手も仮面で素顔が見えない。
まずは相手のご尊顔を拝見するところからかな。
なんて思っていたら、突然、それまで黙っていた見知らぬおっさんから声がかけられた。
「君はトロポーク・ネイバーじゃないか!?」
え?
なんでこの人、私の名前知ってんの?
「私は冒険者ギルドマスターのトーグナー・ミルベイルだ! 今すぐこの場を離れるんだ! その者には人間では敵わない! 君のような未来ある冒険者が犠牲になっていいような相手ではない!」
そう述べながら、私と修道女の間に割って入って来る。
「あら。裏切るのですか? まあ、あなたはもう用済みですので構いませんが。ただ、娘のエイナ・ミルベイルはもうしばらく利用させて頂こうかと思います」
「そんなことは俺がさせない!!」
「どうやって? 脆弱な人間風情が。まさかわたくしを斬り伏せられるとでもお考え?」
「俺は……そうじゃ、ないんだ……。トロポーク君、たのむ、娘のエイナのことを救ってくれ。あいつを一分……いや、十秒は止めてみせる。頼む、君しか頼れる者がいないんだっ!」
「はんっ、十秒も耐えるおつもりですか」
「たしかに貴様は人の身では敵わない化け物だ。だがそれでも! 俺は立ち向かわなければならない! それが俺の正義だからだ!!!」
「けっこうなことで」
なんて具合に二人がどんどん盛り上がっていく。
のだが――、
えぇ……。
なんか、本人的にはすごく熱い展開になっているのかもしれないけど、じぇんじぇんついてけないんですけど。
そもそもこのおっさんってだれ?
ギルドマスターなの?
なんでここにいんの?
「トロポーク君!!」
「ぁえ? は、はい?」
「行け! 早く逃げるんだ!!」
「い、いや、で、でも……」
私としてはその修道女さんとすっごく戦ってみたいんだけど。
「俺のことは気にしなくていい!」
あー……、えっと。
あなたのことは割とどうでもよくて、私はそこの修道女さんと――。
なんて思っているのも束の間、修道女がいっきに踏み込み、短刀を振るった。
トーグナーさんはギリギリ剣でそれを受け止めるも、オークのこん棒を受け止めたかの如き勢いで吹っ飛ばされる。
そのまま壁に打ち付けられて気絶してしまうのだった。
「一秒ももちませんでしたね。さあ、逃げられるなんて思わないで下さい」
「あー……。えっと、よ、よくもトーグナーさんを。ぜ、ぜったいに許さないんだから」
我ながら、なんて棒読みなセリフなのだろうか。
だがこの流れにはのるべきっ!
これでこの子と戦えるっ!
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