第26話 ポッピン教四天王

 荷物の搬入を大方終え、大福ちゃんとハムちゃんがものすごく寂しそうな顔をしていたため、仕方なく二日間をメアリーで過ごすことにした。

 だが、さすがにこのままニートにはなりたくなかったので、くまちゃんと今後の方針を話し合うことにする。


「しっかし、ポッピン教は優秀ね。有用なアイテムとそうじゃないのをちゃんと区画で分けて保管してたわ」

「そのようですね。ゴミクズにしては上出来と言えましょう」

「……。ねえ、くまちゃんって人間のこと嫌いなの?」

「? いえ、好きとか嫌いとかではなく、そのへんの虫と大差ないという考えでしょうか。目障りならばさっさと処分してしまいますし、言葉を発しはしますが、基本的には下等な生き物と考えております。もちろん、豚トロ様は人族ではございますが、下等な彼らと同等とは思っておりませんよ!」

「はぁ……。まあ別にくまちゃんの好き嫌いにどうこう言うつもりはないけど、ほどほどにしてね」


 同じ質問を大福ちゃんやハムちゃんにもしてみたのだが、似たような回答であった。

 どうも種族が変わると倫理観も変わってしまうらしい。

 この辺りは文化の差は、ある程度は受け入れるしかないようだ。


「さて、そしたら次は――」


 喋ろうとした瞬間、魔法警報が私の脳内に鳴り響いた。


「? どうされましたか、豚トロ様?」

「この前奪った拠点にもう襲撃があったみたい。しかも奪還された。防衛キットじゃ防げない相手だ」

「前回あそこを守っていた人間と同等、あるいはそれ以上ということでしょうか。ここで聖女とやらが姿を現わしてくれれば話は早いのですが。ただ、これまで得られた聖女の情報からするに、彼女は狡猾で用心深い人物です。容易く姿を現わすとは限りません」

「そうなんだ。まっ、とりあえず行ってみよっ!」


  *


 再びミラ山の洞窟へとやってくる。


「フードを被っといてね」

「顔を隠した方が良いのですか?」

「基本だよ。この前は油断してたっていうか、舐めプしてたからやってなかったんだけど、拠点襲撃は基本ネームブラインドとアバターブラインドをした方がいいの。拠点を仮に奪えなかったとしても、私たちに関する情報は可能な限り出さない方が、相手は対策を立てにくくなる」

「大丈夫なのでしょうか。この前ここを占拠していた者たちはそのまま逃がしております。やはり今からでも殺しに――」

「行かなくていいから。さっきも言ったけど、この前のは私が油断してただけ。次からは気をつけましょ」

「わかりました。次こそは確実に相手の息の根を止めてみせます」

「違う、そうじゃない」


 隠し通路へと入り、周囲を警戒しながら進んでいく。

 まだ私の防衛キットが片付けられていないのか、破壊された残骸がそのままだ。


「残骸がそのままだ。素人だね。相手が仮に同格なら、新しい防衛キットを真っ先にセットしにいくはず」

「そうなのですか?」

「うん。資源拠点のキット枠は一つだから、残骸除去が終わってないと新しいのがセットできないの。防衛キットは単体だと弱いけど、プレイヤーと一緒に戦われるかなり厄介なんだ。だから拠点制圧において残骸撤去は重要な仕事なの」


 まあここはゲームではなく異世界なので同じルールが適用されているかは疑問が残るが、たぶん同じと考えてよいであろう。


「豚トロ様、正面に人の気配がございます」

「よしっ、そしたらどうしよっか? あたしが前衛やろっか? 一番得意だよっ!」

「何をおっしゃいますか。主のために掃除を行うのは臣下の役目。私が前衛を務めます。豚トロ様はどうぞハイディングしたまま後方にて私の拙い戦いを見ていてください」

「うーん……、まっ、いっか。わかった、そしたら危ないと思ったら手を出すからね~」


 くまちゃんはレベル2000手前なので大抵の相手であれば負けることはないであろう。


 そのままくまちゃんが侵入者と思われる三者の前に姿を現わす。

 一人は男性、シャムシールタイプ――いわゆる中東の剣を両手に装備している。

 残り二人は女性、片方は恐らく装備から魔法使いで、もう一人は……盗賊職だろうか? ぱっと見でクラスを判別できない。

 鑑定スキルは相手の承諾がないと使えないため、こういう時に不便だ。


 それと……、よく見たらさらに奥の方に領主の娘フランソワとAランク冒険者カイオン、それと知らないおっさんまでいる。


 あれ?

 フランソワとかカイオンって警備隊に引き渡したんじゃなかったっけ?

 なんでここにいんの……?


「ふむ。なるほど。そういうことですか。さすがは豚トロ様。フランソワやカイオンがこの場に現れることも読まれていたというわけですね」


 いや読んでないから。


「しかし、となるとポッピン教はかなり深い根をセザンヌの街に張っていることになりますね。ですが、豚トロ様はこの辺りもすべて把握済みなのでしょう。その上で今ここに来られたということは――」


 くまちゃんがその目を見開き、くつくつと邪悪に笑いだす。


「ふっふっふ、そういうことですか。さすがは豚トロ様。その御慧眼、見事なものにございます」


 ……。

 意味が分からない……。

 よっぽどハイディングを解いて否定しに行こうかと迷ってしまったが、ここはぐっとこらえる。


「なに独り言をぶつぶつ言ってやがる。命乞いか?」

「いえいえ。偉大なる主人の偉大さを噛みしめていたところです。その主人が見ている手前、片手で相手をして差し上げましょう」

「はんっ、愚かな奴だ。貴様か。ザクエルを倒したというのは。報告だと二人と聞いているが?」

「あなた方など私一人で十分ですよ」

「言うじゃないか。ザクエルは恐怖のあまり男の方――お前のことを悪魔だと言っていたが、それなりに腕に自信があるようだな。だが、ザクエルはポッピン教四天王の中でも最弱。それに勝ったところでぬか喜びだな」

「つまらない御託はけっこうですので、かかって来て下さいませんか?」

「いいだろう。本当の強者というものを教えてやるっ!」


 そう述べてポッピン教四天王と思われる者たちとの戦闘の火蓋が切られるのだった。

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