第21話 尋問
「まず彼が持っていた白亜の角笛ですが――」
次の日、尋問を終えたくまちゃんから宿屋で報告を受けていた。
「――ポッピン教の聖女なる者から渡されたものだそうです」
「聖女?」
聖女という言葉に少しだけ眉を寄せる。
聖女は私が最後に手に入れた称号だ。
それを自称するなんてどんな奴であろうか。
「恐らく求心力目的でしょう。聖女だのなんだのを謳うやからは大概たいしたことはございません」
「そっか。名前は?」
「みな聖女と呼んでいるそうで、本名は誰も知らないそうです。私が直接問いただしましたので、間違いありません」
「ちょっと、尋問してとは言ったけど、変なことしてないでしょうね?」
「ええ、死んではおりませんよ?」
「死なない程度のことはしたってこと……?」
「いえいえ。豚トロ様の御指示通り、最終的には健康状態に問題ございませんよ」
最終的にはってなんだよ最終的にはって。
「……ホントに大丈夫なんでしょうね?」
「ええ。ちゃんと無傷で警備隊に引き渡しております。後遺症の残るような状態にもありません」
「ふーむ。まあいいわ。それでその聖女の見た目の特徴とかは喋らなかった?」
「常に仮面をしていて顔が見えないんだとか」
「仲間にも顔を隠すなんて、慎重なタイプね。で? どこにいるの?」
「その情報はポッピン教内でも綿密に秘匿されているそうで、いくらやって――問いかけても話しませんでした」
なにしたんだよ。
「おそらくは本当に知らないのでしょう。ただ、その者は聖女が神の御業が使えると言っておりました。なんでも人を蘇生することができるとか」
「蘇生ねぇ。そういえば、くまちゃんって蘇生系のスキルとかは使えないんだっけ?」
「ええ、私は使えませんし、世間一般でもそれが常識です。ですが、限界突破者の中に蘇生魔法や蘇生スキルを扱える者がいることは存じております」
「限界突破についてはどこまで知ってるの?」
「第一限界突破がLv1000にあり、第二限界突破がLv2000にあるというのは知っております。お恥ずかしながら、私は自分のレベルがどこにあるかもわからないもので、おそらくは第二限界突破の手前くらいかと思っております」
「あっ、ステータス画面って見れないんだ。ちょっと待ってね。鑑定するけどいい?」
「もちろんでございます」
「スキル【鑑定】」
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名前:リラぁッくま
種族:悪魔
職業:従者
Lv:1997
HP:24501 MP:12002
力:28333 体力:28296
敏捷:28519 器用:27654
魔力:13098
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「おお! あとちょっとで第二限界じゃん! レベル上がったら今度限界突破やりにいこっ」
「なんと畏れ多い。豚トロ様御自らが私のようなゴミクズの限界突破に付き合って下さるとは」
「いや、ゴミじゃないから。普通に手伝うよ。第二限界突破って滅茶苦茶面倒くさいから」
「実は……、大変お恥ずかしながら、私は第二限界突破の方法も存じていないのです。第一はさほど難しい内容ではなかったのですが……」
「うん。攻略サイトの情報も結構あやふやだったからね。第二限界突破は到達者がプレイヤーの0.01%しかいなかったんだ。おまけに職業ごとで内容が変わる仕様になってて、ヒントすらなかったから結構運営に不満出てたっぽいよ」
「う、うんえい?」
「ああ、ごめん、こっちの話。それで話を戻すけど、ポッピン教から得られた情報はそれくらいかな?」
「ええ。捕らえた者たちは既に警備隊に引き渡し済みです」
「ちょっとした騒ぎになってたね。なんせ行方不明の領主の娘フランソワとAランク冒険者のカイオンが、実はセザンヌを騒がせているポッピン教と裏でつながっていたんだからね」
「しかし、さすがは豚トロ様です。ここまで、すべてあなた様の思惑通りに事が運んでいるというわけですね」
「……えっと?」
「私は当初、なぜ豚トロ様があの洞窟へと赴かれたのか理解できておりませんでした。なにせギルドで得た情報からは何の関連性も見いだせなかったからです」
そりゃそうだよ。
過去の記憶を頼りに別のクエ目的で行っただけなんだから。
しかも違ったし……。
「ですが、こうして結果を目の当たりにすれば、すべてはあなた様のご計画通りだということがわかります。受注されたクエストはモストタイガーの討伐、ハウルベアーの討伐、行方不明の少女の救出です。このすべてを達成しながら、主なる目的のポッピン教の情報まで確実に得ています」
「ま、まあ偶然だけどね」
「おまけに今回ポッピン教が領主の娘と関係性を持っていたということは、上級社会を探ってみるべきだということも理解できました」
「……え?」
「いえいえ、みなまで言わないで下さい。あなた様からすべての答えを与えられていては私も成長の機会を失ってしまいます。本件に関しては私の手で成果を収めて参りますので、何卒お待ちいただければと存じます」
「……。うーんと。うん、もうめんどくさいからそれでいいや」
「では、行って参ります」
そう述べてくまちゃんはいそいそとどこかへ行ってしまった。
なんだろう。
くまちゃんは私がものすんごく頭が良くて、すべてを完璧にこなす神様か何かかと勘違いしてるのかな??
全然違うんだけど。
ただ、これまでのやり取りから、あれを否定しようとするととても疲れるということがわかった。
なので、もう放置することにする。
どうせ大した問題にはならないであろう。
とりあえず知名度をある程度上げるという目標は達成できた。
こうやって着々とクエをこなしていけばいいよね。
「せっかくの初クエ達成日だし、今日はおいしいご飯でも食べよーっと」
呑気にそんな独り言を発し、私はこの日を終えることにするのだった。
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