第7話 壁に耳あり障子にメアリー

「あれ? ていうか見た目変えた?」


 森で会ったときはだいぶ悪魔っぽい姿をしていたが、今は角と黒翼がある点を除けば人間っぽい。

 というかめっちゃイケメンだ。

 ……まあ、男性にはあまり興味はないが。


「はい。主であらせられるあなた様に姿を合わせるのは、臣下として当然の行いと言えましょう」

「あなたを臣下にした覚えは微塵もないんだけどね……」

「ところで、大変畏れ多くはございますが、お名前をお教えいただけないでしょうか?」

「『となりの豚トロ』だよ。けど、呼びにくいと思うから豚トロでいいわ。以前パーティ組んだときもそう呼ばれてたし」

「承知しました、豚トロ様。それで、差し支えなければ今後のご予定を教えていただきたいのですが」

「ベレリスの街に行く予定だったわ」

「ベレリス……でございますか。豚トロ様にご意見を申し上げるのは、大変厚かましくはあるのですが、やめておいた方が良いかと思われます」

「え? どうして?」

「ベレリスは現在魔族の都市です。人族であるという段階で、入れないどころかこちらを攻撃してくることと思われます」

「え!? そうなの?」

「はい。人族と魔族は現在戦争状態にあります。民間人であろうとお互い見つけ次第何をされるかわかったものではありません。……まあ、神であらせられる豚トロ様がお通りになるのですから、下等な魔族など適当に殺して回ってもいいですが」

「過激すぎだろ」


 セザンヌの街に検問があったのも、魔族軍に通りがかっただけで襲われたのもそれが理由というわけか。

 うーん、戦争イベントにそんな制約はなかった気がするけど、やっぱ仕様変更してる……?


「そしたらベレリスはやめよっかな。今はPVPって気分じゃないし」

「ぴ、ぴーぶいぴー?」

「んー、よし! そしたらアルステイアに行くわ」

「アルステイア……!? あの地獄の入口があるというアルステイアですか?」

「え? なにそれ?」

「入ったが最後、絶対に出てくることができない迷宮です。人族や魔族、亜人たちの間で『地獄の入口』と呼ばれております」


 新ダンジョンかな?

 それはちょっと楽しみだ。


「あなたは入ったことないの? あなたってけっこうレベル高いでしょ?」

「私は入ったことがありません。情報によると、少なくとも地下四階層以上の広大な迷宮となっているそうです。内部は強力な魔物の巣窟となっており、噂によると不死身のアラクネや最強の龍などが存在するとか」

「アラクネに龍……?」

「ええ、一人だけ生きて帰ったSランク冒険者の証言がございまして、純白のアラクネと黄金をちりばめた龍により、Sランクパーティが一瞬で壊滅したとのことですよ」

「純白のアラクネと黄金をちりばめた龍か……。やっぱり」

「? なにがでしょうか」

「それ私の拠点なんだけど」

「……え?」


  *


 歩いて行こうと思っていたのだが、拠点が無法地帯になっているかもという不安から、私は転移で拠点となる『壁に耳にあり障子にメアリー』へとやって来た。


「豚トロ様は転移も使えるのですね。さすがです」

「いや、普通でしょ。けど、自室転移がなんでか使えないんだよねぇ。なんでだろ? ……まいっか。普通に入って行こっか」

「て、転移は相当高位な魔法となりますが……。承知しました、行きましょうか」


 内部に入っていくと、侵入者対策のために配置した無差別魔物たちが襲い掛かって来た。

 が、これらははっきり言って雑魚ばかりなので適当に魔法を放って蹴散らしていく。


「あ、こっちこっち。ここに最深部まで直通の隠し階段があるの」

「やはり、豚トロ様の拠点というのは本当なのですね。申し訳ございません、疑うつもりはなかったのですが」

「しっかし、なんで中に入っても連絡魔法が届かないかな。メアリーのコアの魔力が尽きかけてるのかも。創ったみんなはどうなってるんだろなぁ。アラクネと龍がいるって言ってたよね? 他には?」

「私が直接見たわけではございませんが、噂によるとその二体がこの遺跡を守っていると聞きます」

「像人とか修道女とかは? 他にもいろいろいたはずなんだけど」

「この迷宮にいたという話は聞きませんね。像人であれば亜人領にそんな噂があったかと思います。修道女というのでは何とも言えませんね。修道女は世界中に多数おりますので。……ところで、なにをされているのでしょうか?」

「ん? フード被って顔隠してるだけだよー。もしあの子たちがまだいるなら驚かせてやろうかなって思って。あっ、魔法で声も変えておこーっと」


 十階層へとたどり着き、コソコソ通路を進んでいく。


「ここは……どこか、神の領域か何かでしょうか……。非常に神秘的な場所のように見えますが……」

「え゛!? そ、そう? へへへっ。装飾はちょっとがんばったから」


 手放しに褒められて照れてしまう。

 地下十階は天井が高く、彼の言った通り神秘的なつくりとなっている。

 内部の装飾や配置されているPMC(プレイヤーメイドキャラクター)たちは全部自作だ。

 エクスペディションオンラインはこの辺りの自由度が非常に高く、凝った作りができるようになっていた。


「と、豚トロ様が創られたということでしょうか!?」

「うん、そうだよ。こういうの好きだったから結構課金もしちゃったんだぁ」

「か、課金というレベルを超えているように思えますが……。豚トロ様は国家予算レベルの財をお持ちなのですね」

「いやいや、月数万くらい――」


 背後に気配……!?


 危険だと察しすぐさまその場を退避すると、紙一重に私がいた場所へと殺人的な鎌が振り下ろされていた。

 ベリアルは防御こそ間に合ったものの、回避すること叶わず吹っ飛ばされて向こうの壁に埋もれてしまう。


「避けおったか。すばしっこい奴じゃの」


 そこには純白色の体長三メートルはあろうかというアラクネが立ち塞がっていた。


「貴様、どうやってここまできおった。珍しく侵入者がきおったと思おたら、いつの間にやら十階層まで抜けおって」

「……」

「だんまりかの。まあよい斬り伏せるだけじゃ。おぬしが魔力結晶をドロップするといいんじゃがの。最近の冒険者は貧相なやからが多いからして。貴様が特別な者であることを願うぞえ!」


 ふふ。

 ふふふふふ。

 喋れるんだっ!!

 ヤバい!

 超楽しみ!!!


 ゲームじゃ自作キャラとは戦えなかったし、会話なんてそもそも実装されていなかった。

 私の創ったPMCたちがどれほどなのか、楽しみだなぁ。


「さあ、ゆくぞえ!」

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