転生生活をまったり過ごしたいのに、自作キャラたちが私に世界征服を進めてくる件について
ihana
第1話 エクスペディションオンライン
いやったぁぁぁぁ!
ようやく倒すことのできたNPCが持つ『聖女のタクト』を手に取り、喜びを噛みしめる。
やっと、やっとこれで全部だ!
長かった。
本当に長かった。
間に合ってよかったぁ……。
喜びのあまり、胸を抱えながら涙を流してしまう。
むろんVRMMORPG『エクスペディションオンライン』の中にいるため、涙を本当に流すことはできないが、あくまでポーズとしてだ。
たった今、自分が持つ称号リストの中で、最後の空白となっていた『聖女』をようやく獲得することができた。
つまり、私はこのゲームに存在するすべての称号をゲットしたことになる。
はぁ。
よかった、やり切れて。
サーバーダウンまであと10分。
ホントにギリッギリの滑り込みセーフって奴?
喜びと共に緊張の糸が切れて地面に寝そべる。
つまり――、
このゲームはあと10分で終焉を迎える。
家族も友もなく、仕事をして家に帰るだけの私の人生にとって、エクスペディションオンラインは生き甲斐だった。
そのゲームにおいて、私は誰も成し遂げたことのない全称号獲得を達成したんだ。
このゲームがサービス終了になるという告知を受けて、私は絶望した。
けど、全称号獲得という目標を掲げて以降、死ぬ気になってこれに挑戦していったものだ。
リアルでは才能も容姿も財もない私であったが、自分の人生において唯一本気になって頑張ることができたんだ。
もう、想い残すことはないよね。
残り5分。
成し遂げたことへの余韻に浸りながら、なのに心の中では穴が空いたまま。
それを見て見ぬふりをするがごとく、称号リストを眺めて自分はやり遂げたんだと言い聞かせる。
残り3分。
もう終わっていいよね。
頑張ったもん。
全部やり切ったよ。
遊びつくした。
明日からはまた別ので遊ぼ。
残り1分。
秒針が六十秒を切ったところで、やっぱり見て見ぬ振りができなくなった。
どうしようもない切なさと苦しさが押し寄せて来て、胸を抱えてしまう。
やだ。
やっぱりやだよ、終わって欲しくないよ……。
こんなに楽しくて、生き生きできて、私の唯一の居場所だったのにっ!
目標があったから頑張って来れたんだ。
それを達成したらきっぱり足を洗うって決めてた。
けど、こんなの耐えられない。
残り二十秒。
いやだ。
いやだいやだ。
いやだいやだいやだ。
残り十秒。
リアルになんて戻りたくない。
あんな地獄のような場所、もういたくない。
残り五秒。
『お願いっ……終わらないでっ……私を、独りにしないでっ……!』
その言葉とともに、私の頬を大粒の涙が伝っていくのだった。
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