赤い糸の先

 朝起きたら左の小指に赤い糸が絡みついていた。不審に思いながら外そうとしても外れず、触れたはずの右の人差し指と親指に糸の感触はない。絡みついた糸の先を辿ればドアの向こうへと続いていて、玄関のさらに先まで延びている。制服に着替えるときに邪魔にならず、顔を合わせた母が何も言わないから、これはわたし以外には見えないものなのだと不思議とすぐに納得してしまった。

 赤い糸と言えば運命の赤い糸である。この糸の先は交際して一年が経つきみに続いているのかと、ほんの少しだけ心を躍らせながらトースターにかじりつく。少女漫画のように咥えて走るようなことはせず、リビングのテーブルで最後の一口まで味わった。

 通学途中の道路にもずっとずっと赤い糸が続いている。その先を見つめたとき、おはようと後ろから声がかかった。振り返るときみが微笑んでいて、左の小指には赤い糸が絡んでいる。おはようと返しながらその先を見つめると淡く抱いた期待が粉々に打ち砕かれる。きみの赤い糸はわたしとは真逆の方向に延びていた。

 運命って信じる? 突拍子もないことを口にする。きみはそれをバカにしないで「どうだろう。望んでいることなら喜ぶし、望んでいないことなら抗う――ってことは、信じてることになるのかな」と答えてくれた。

 わたしの赤い糸の先はきみに繋がっていないのかもしれない。だけどそれならきみの言うとおり、抗ってやろうと思う。

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