ログインボーナス

 ソーシャルゲームでは毎日ログインするとボーナスを貰えるのに学校は何もくれないのはおかしい。積み重なった小さな苦痛に耐えかねてぽつりと呟いた声にきみは苦笑いをした。ある日は嫌いな持久走が、ある日は予告なしの小テストが、ある日はこびりついた汚れの拭き掃除が――と、毎日毎日何かしらマイナスなものを提供されるわりにご褒美はやってこない。その日の帰り際、トドメのように出席番号とその日の日付が重なって、担任にちょっとした荷物の運搬を任されて帰宅が遅くなったことでその不満は爆発した。人間は些細なことで限界を迎えるものである。

 翌朝ゲームを起動して体力回復アイテムをくれるキャラクターに、現実世界でもくれないかなと無理難題を押しつけ、それが叶うことなく教室のドアを開ける。途端、きみが目の前までやってきた。「手、出して」首を傾げながら言われたとおりに手を出すと、手のひらに何かが落とされる。「ログインボーナス。しょぼいけど」見ればいちご味のキャンディが一つそこにあった。それから毎日毎日登校するたびにきみはわたしにキャンディを一つくれる。みかん、りんご、ぶどう、もも……と、様々な種類のものを。

 今日も教室のドアを開ける。きみはいつものように「ログインボーナス」と微笑んで握りこぶしを差し出した。今日は、明日は、いったい何をもらえるんだろう。

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