二十一時のシンデレラ
どうしてシンデレラは王子様を選んだんだろう。わたしなら、とびきり可愛くしてくれた魔法使いを選ぶのに。幼いころ母が読み聞かせてくれる絵本を眺めながら思っていたわたしが、大学に入学して学校の王子様に目を奪われたのはどうにも不可解なものだった。彼の一挙手一投足が気になって講義にも集中できない。これまで自分の容姿など特段気にしたことがなかったのに意識してしまうくらいわたしの生活に変化が訪れた。
ダイエットやメイク動画を見ては悪戦苦闘する日々の中で突然「可愛くしてあげようか?」ときみの声が降ってくる。戸惑いながらもその甘い誘惑に勝てず首を縦に振り目をつむると、数分後に目を開けたときには見たことのないわたしが現れて感嘆の声を漏らす。まるで魔法みたいだと呟くと「うん。魔法使いみたいになりたいんだ」ときみはキラキラとした目を見せた。きみはそれからも何度もわたしに可愛いの魔法をかけて、数ヶ月後にはきみに出会う以前のわたしが別人のようだった。
そうして気づく。この数ヶ月の中で王子様の彼を見ることはなくなり、鏡の中を見つめるようになったこと。視界は徐々にきみを占めるようになったこと。王子様はただの憧れに過ぎなかったこと。「新しいメイク試してみる?」きみの言葉に勢いよく頷く。胸の高鳴りを抑えながら。
ほら、やっぱりわたしは、魔法使いに恋をするのだ。
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