みよちゃん

日間田葉(ひまだ よう)

第1話 転校生

 さくらんぼを見るとみよちゃんを思い出す。彼女を最後に見たのはいつだったのだろう。



 私が小四になった春のことだ。私の家から少し離れたところに建った新築の家にみよちゃんが引っ越してきた。


 住んでいた地域は人口が少なく通っていた小学校の学区の端にあり子どもの数も少なかった。同い年の女の子がいなくて遊ぶ友達はもっぱら男の子だけだったので私は女の子が引っ越してきたのがとても嬉しかったのを覚えている。


 ただ、新築の家にご近所の人も気が付かないうちに引っ越してきたその家族は誰のところにも挨拶に来なかったらしく周りの人達も最初は興味深々だったけれどそのうち誰もみよちゃんの家の話はしなくなっていた。


 村八分にしていたわけでもなく集まりに誘っても来ないので町から来た人は田舎の付き合いが面倒なんだろうと誰の口の端にも上らなくなっていたのだ。


 それでもみよちゃんは同じ小学校に通う同級生だったので学校で会う事は勿論あった。家が近くなので行きかえりに一緒になりそうなものだが不思議と登下校を一緒にした覚えがない。今から思うと避けられていたのかもしれない。


 みよちゃんは変わった子だったのだ。


 身なりは立派なのに何故か薄汚れたような感じを受ける。大きな家に住んでいるお金持ちで可愛い服を着ているが真っ黒な髪がいつも濡れたように顔に張り付いてそこから覗くぎょろっとした大きな目のせいで気味が悪いと陰で言う子もわずかながらいた。


 田舎の素朴な小学生なので表立ってイジメのようなことはなく少し距離を置いてはいたがそれなりに学校では過ごせていたと思う。あの事がある前までは。



 それは梅雨に入った頃のことだった。


 通学路の田んぼ道の脇にある大きな自生のさくらんぼの実が鈴なりに実ったある雨の日の下校中、雨に濡れながら赤いさくらんぼの実を一心不乱に引きちぎっては口に運ぶみよちゃんを見てしまった。そう、見てしまったのだ。


 口の周りを赤く汚しながら雨に濡れるのを気にもせず夢中になってさくらんぼを貪っている。余りの気味の悪さに私は身震いをしてしまった。

 一緒にいた同級生のS君はうわーと顔をしかめながら気持ちが悪いと小声で吐き捨てるように言う。

 

 金縛りにあったように立ち止まって見ていた私たちに気が付いたみよちゃんはこちらを見てにやっと笑ってじっと見据えてきた。


 S君と私はそれを見るなり同時に雨の中を走って逃げた。


 そこからすぐにでも立ち去らないといけないと気持ちだけがいて泥道を上手く走れない長靴が邪魔で仕方なかった。


 無言で走って家につくと傘を持っているのに頭から雨粒を垂らしている私を見た母がどうしたのと聞いてきたがみよちゃんの話はしなかった。言いたくなかったのもあるが口に出すのも嫌だったのが正直な気持ちだと思う。

 

 だが、翌日学校に行くとみよちゃんの奇行はすでにクラスのほとんどに知れ渡っていた。他の誰かに見られたのだろう。その日から一部の男の子から忌み嫌われるようになった。



つづく

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みよちゃん 日間田葉(ひまだ よう) @himadayo

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