異文 - if Story

秘話1:結婚

 朧月:「秘話1:結婚」を8000字で執筆してください。

 第三者視点。

 これはもしもの話、セリアが受肉していなかったら、実家に帰り着く前にセリアと再会していたらというifストーリー。

 セリアから告白され、翌年に結婚する結末。



 ☆----☆


 アルトが旅立ってから5年の歳月が過ぎた。

 その間、彼は数々の冒険を経験し、多くの困難を乗り越え、さらに成長を遂げた。

 そして、今回の旅もついに終わりを迎え、彼は故郷へと戻ることを決意した。


「もうすぐだな……」


 アルトは故郷の街並みを遠くに見据えながら、心の中で呟いた。

 長い冒険の末、彼はようやく家に帰ることができるという安堵感を抱いていた。

 ずっと離れていた家族や、幼い頃からの友人たち――彼らに会うことが楽しみで仕方がなかった。


 しかし、実家に帰る前にもう一つ重要な用事があった。

 故郷の市場で働いている幼馴染のカレンの存在だ。

 アルトが冒険に出る前、カレンは彼にいつも温かく接してくれ、旅立つ彼を静かに見送ってくれた。

 それ以来、彼女とは一度も会っていなかったが、カレンのことはいつも心の片隅に残っていた。


「カレン、元気でやってるかな……」


 アルトは街の門をくぐり、懐かしい道を歩いていた。

 市場へと向かう道のりは、かつてカレンと一緒に歩いた思い出がたくさん詰まっている。

 彼は胸の奥で、少しずつ高鳴る気持ちを感じていた。



 ----


 市場に着くと、賑やかな声や活気に満ちた音が彼を迎えた。

 見慣れた店や人々が並び、アルトは故郷の温かさを改めて感じた。

 少し探していると、いつもの洋服店の前にカレンの姿を見つけた。


「カレン……」


 アルトは思わず声を出してしまった。

 彼女の姿は昔と変わらず、少し大人びた印象を受けたが、笑顔はそのままだった。

 カレンもアルトの声に気付き、驚いた表情を浮かべた。


「アルト!?」


 カレンは瞬時に彼を認識し、笑顔を輝かせながら駆け寄ってきた。

 アルトは彼女の姿を見て、懐かしさと嬉しさが一気に溢れ出した。


「久しぶりだな、カレン。 元気そうで何よりだよ」


「もう、5年も経ったのに……全然変わってないじゃない! あなた、すごく立派になったわね」


 カレンは笑顔でアルトを見つめながら、彼の成長ぶりに驚きつつも、心の奥で何かが弾けるのを感じていた。

 アルトは大きな冒険を経て、強くなり、どこか自信に満ちた姿を見せていた。


 二人はしばらく市場の片隅で立ち話をし、アルトの冒険談や、カレンの近況について語り合った。

 昔の思い出が次々と蘇り、二人の間には自然と笑いが生まれた。


「ねえ、アルト。 ちょっと散歩しない? 市場の外れに、昔よく行った場所があるでしょう? あそこに行ってみたいの」


 カレンの提案に、アルトは軽く頷いた。

 彼もまた、その場所に行ってみたいという気持ちがあった。



 ----


 二人が向かったのは、小高い丘の上にある広場だった。

 そこからは故郷の街並みが一望でき、子供の頃、カレンと一緒に何度も遊びに来た思い出の場所だった。


「懐かしいね。 ここでよく遊んだよな」


 アルトは丘の上に立ち、遠くに広がる景色を眺めながら呟いた。

 カレンもまた、その光景を見つめながら、心の奥で温かいものが湧き上がってくるのを感じていた。


「……アルト、ずっと言いたかったことがあるの。」


 カレンは少し緊張した面持ちで、アルトの方を振り返った。

 彼女の目には、いつもと違う真剣な光が宿っていた。

 アルトはその変化に気付き、彼女の言葉を待った。


「アルト、あなたが旅立つ時、私は何も言えなかった。 でも、本当は……ずっとあなたのことを、特別に思っていたの。 あなたが旅に出てからも、その気持ちは変わらなかったわ」


 カレンの言葉に、アルトは一瞬息を呑んだ。

 彼女が自分に抱いていた感情を初めて知り、驚きと同時に、胸の中で何かが熱くなるのを感じた。


「カレン……」


 アルトは何とか言葉を返そうとしたが、思わず口ごもってしまった。

 彼女の真摯な告白が、自分の心に強く響いていたからだ。


「私は、あなたが無事に帰ってくることをずっと祈ってた。 そして、今こうしてあなたが戻ってきたことが、本当に嬉しいの……」


 カレンの瞳は潤み、彼女の気持ちが言葉にならないほど溢れていた。

 その姿に、アルトもまた彼女の思いを真っ直ぐに受け止めた。


「俺も……ずっとカレンのことを気にかけてたよ。 冒険の間も、ふとした時に思い出していた。 君が元気でいてくれたら、それでいいって思ってたんだ」


 アルトは、彼女に対する自分の気持ちを言葉にした。

 彼がどれほど成長しても、心の中にずっと残っていた幼馴染への思いが、今こうして形となって現れた。


「カレン、俺も……君が大切だよ」


 アルトの言葉を聞いた瞬間、カレンは喜びで胸がいっぱいになり、思わず涙をこぼした。

 彼女の涙は、長い間抑えていた感情が解放された証でもあった。


「アルト……ありがとう」


 二人はその場でお互いを見つめ合い、静かに微笑んだ。

 丘の上には柔らかな風が吹き、二人の心を包み込むように穏やかな時間が流れていった。



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 その後、アルトは実家に戻り、家族との再会を果たした。

 両親や妹のミアとの再会は、喜びに満ちたものだったが、カレンの存在についても少しずつ話が出るようになっていった。


 それから一年後、アルトとカレンは結婚した。

 二人はお互いの思いを確かめ合い、支え合いながら新しい生活をスタートさせた。

 結婚式は街全体で祝福され、アルトの家族もカレンの家族も、二人の幸せを心から喜んでいた。



 ----


 結婚生活が始まってからも、アルトとカレンは変わらず支え合っていた。

 アルトは冒険者として活動を続けながらも、カレンとの穏やかな日常が彼の心の支えとなっていた。

 カレンも、アルトが無事に帰ってくるたびに彼を温かく迎え、二人の絆は深まっていった。


「アルト、今日はどんな冒険だったの?」


 カレンが微笑みながら問いかけると、アルトは少し照れながらも冒険の話を始める。

 そんな何気ない会話が、二人の生活に温かさと安心をもたらしていた。


「俺がこうして無事でいられるのも、カレンのおかげだよ」


 アルトがそう言うと、カレンは笑顔を浮かべながら彼の肩に寄り添った。

 二人の間には、何も言わなくても通じ合う信頼と愛情が流れていた。



 ----


 それからも、アルトとカレンの生活は続いていく。

 二人は互いに支え合いながら、穏やかで幸せな日々を過ごしていた。

 アルトにとって、カレンとの結婚は人生の大きな転機であり、彼にとってかけがえのない存在となっていた。


 冒険の果てに見つけた新しい人生の形――それは、幼馴染との絆から生まれた幸せな結末だった。



 ☆----☆


 お読みいただきありがとうございます!


 無事凱旋を果たしたアルト達が知ることのない、もしもの話。

 今を生きる誰の耳にも届かない秘された話。

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