終話:凱旋
朧月:「終話:凱旋」を12000字以内で執筆してください。
アルト視点。
旅立ってから5年、久しぶりに故郷へと帰ってきたアルト。
3つ目の大陸「シンドラ大陸」でセリアを実体化させられるアーティファクトを手に入れてからは、受肉したセリアと旅を続けていた。
家族と再会するアルトはセリアの紹介に困り、セリアの存在に焦るミア。
慌たださに困惑しながらも、家族みんなに笑顔で「ただいま」と満面の笑顔を向けるのであった。
☆----☆
アルトが冒険者として旅立ってから、すでに5年の歳月が流れていた。
長い年月をかけて各地を巡り、数々の困難を乗り越えてきた。
彼は冒険の中で多くの仲間と出会い、別れ、そしてさらに成長していった。
そして今、アルトは久しぶりに故郷へと帰ってきた。
懐かしい景色、街の匂い、人々のざわめきが彼を迎え入れる。
心の奥に残っていた故郷への思いが蘇り、感慨深さが胸に広がっていた。
「……変わらないな、ここは」
アルトは街並みを見渡しながら、穏やかに微笑んだ。
ここは自分が生まれ育った場所だ。
子供の頃の思い出が、頭の中で走馬灯のように流れてくる。
かつてはここで、自分の道を見つけられずに悩んでいた。
だが、今の自分は違う。
自信と経験を積み重ね、強くなった自分を胸に刻んでいる。
隣には、もう一人の存在が静かに歩いていた。
かつては精霊として形なき存在だったセリアが、今は実体を持って隣にいる。
彼女を実体化させるアーティファクトを手に入れたのは、3つ目の大陸「シンドラ大陸」での冒険の終わりだった。
そのアーティファクトにより、セリアは物理的な体を得たのだ。
「アルト、どうしました? 急に足を止めて」
セリアが少し不思議そうに彼に声をかけた。
彼女の姿は、かつて精霊としての透明感のある姿とは少し異なり、今は完全に人間と見分けがつかないほどの美しい女性として存在している。
その姿を見た者は誰も、彼女がかつて精霊であったことなど想像もできないだろう。
「いや、ただ懐かしいなって思ってたんだ。 こうして故郷に帰るのも、もうずいぶん久しぶりだからさ」
アルトは少し照れくさそうに笑った。
セリアもそれに応えるように微笑んだが、彼女の目には少し不安が宿っているように見えた。
「そうですね。 私もこうして人間の姿で、あなたの家族に会うのは初めてですから……少し緊張しています」
セリアは、そう言いながら目を伏せた。
彼女が物理的な体を得てからの冒険は、これまでと違うものだった。
人間としての感覚、触れることの喜びや感情の豊かさを、彼女は新たに知ることになった。
そして同時に、アルトへの感情も以前より強く、はっきりと自覚するようになっていた。
「セリア、大丈夫だよ。 家族はきっと歓迎してくれるさ。 特に母さんなんか、こういうことにすごく寛大だからさ」
アルトはセリアの肩を軽く叩いて励ました。
自分自身も少し不安だったが、それを表には出さなかった。
彼の胸にあるのは、家族との再会の喜びと、成長した自分を見せたいという思いだけだ。
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アルトの実家に近づくにつれ、胸の鼓動が少しずつ高鳴ってきた。
これから家族に会うという期待と、セリアをどう紹介すればいいのかという戸惑いが交錯している。
「さて……どうやってセリアを紹介しようかな」
彼は頭を掻きながら呟いた。
セリアは静かに隣を歩いていたが、その顔には微かに不安が残っていた。
「……私は、精霊だったことを言わない方がいいのでしょうか?」
セリアは問いかけるようにアルトを見つめた。
彼女が精霊であったことを家族にどのように伝えるべきか、彼自身もまだ決めかねていた。
「うーん、どうだろうな……いきなり『実は精霊なんだ』って言うと、驚かれるかもしれないし。 でも、隠してもいずれバレるだろうしな……」
アルトは頭を悩ませながらも、何とかセリアを紹介する方法を考えていた。
彼女の存在が彼にとって特別であり、これまでの冒険においてどれほど重要な役割を果たしてきたかを伝えたい反面、家族にどう思われるかも心配だった。
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実家の前に着いた時、アルトは少しだけ立ち止まった。
ここに帰ってくるのは何年ぶりだろうか。
家の外観は昔と変わらず、懐かしさが胸にこみ上げてくる。
「行こう、セリア。 きっと喜んでくれるよ」
アルトはセリアに微笑みかけ、彼女も小さく頷いた。
ドアをノックすると、しばらくして中から聞き慣れた声がした。
「はい、今行きますよ!」
その声を聞いた瞬間、アルトの胸が一気に温かくなった。
母親のリナの声だ。
ドアが開かれると、そこには少し年を重ねたものの、優しい笑顔が変わらない母親が立っていた。
「アルト! おかえりなさい!」
リナは目を見開いて驚き、次の瞬間にはアルトを抱きしめていた。
長い間会えなかった息子との再会に、感情が一気に溢れ出していた。
「ただいま、母さん。 ずっと無事でいられたよ」
アルトも母親の抱擁に応えるように、優しくその肩を抱き返した。
リナは涙を浮かべながら、息子の成長を感じ取っていた。
その後、家の中から父親のガレルも姿を現し、彼もまた息子との再会に笑顔を浮かべた。
無口な彼だが、アルトの成長を誇りに思う気持ちは、その表情から伝わってきた。
「立派になったな、アルト。 お前が戻ってくるのを待っていた」
「ありがとう、父さん」
ガレルは息子の肩に力強く手を置き、彼の無事を確認すると短く言葉をかけた。
その言葉には、息子への深い信頼と愛情が込められていた。
そして、リナとガレルがアルトの隣に立つセリアに気づいたのは、再会の感動が少し落ち着いた後だった。
「……あら、この方は?」
リナが興味津々な表情でセリアを見つめる。
アルトは少し照れくさそうにしながらも、セリアを紹介する準備を整えた。
「えっと……この人は、セリア。 旅の間ずっと俺を助けてくれた仲間なんだ」
セリアは丁寧に頭を下げ、笑顔を浮かべた。
「はじめまして。 アルトさんには長い間お世話になっていました。 よろしくお願いします」
リナとガレルは少し驚いた表情を見せたが、すぐに温かい笑顔を浮かべた。
「まあ、それは素敵ね! アルトを助けてくれて、本当にありがとう」
リナは感謝の気持ちを込めてセリアに微笑みかけた。
「俺も、セリアには感謝してるんだ。 彼女がいなかったら、ここまで来れなかったからさ」
アルトがそう言うと、セリアの顔には少し照れたような表情が浮かんだ。
彼女にとっても、アルトとの旅は特別なものだった。
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そんな再会の光景を、少し離れたところで静かに見つめている影があった。
妹のミアだ。
彼女は、再会の喜びを遠巻きに見ながら、セリアの存在に強い違和感と戸惑いを感じていた。
「……誰なの、この人……」
ミアは心の中でそう呟き、セリアを見つめていた。
兄が連れてきたこの女性――その存在に、なぜか胸の奥がざわつくのを感じていた。
セリアが兄にとって特別な存在であることは一目で分かったが、それがミアの心に妙な緊張感をもたらしていた。
「ただの旅の仲間……じゃないよね……」
ミアは兄の笑顔を見るたびに、自分の胸が苦しくなるのを感じていた。
だが、今はその気持ちを押し隠し、家族の再会を祝うべきだと自分に言い聞かせた。
家の中では、久しぶりの再会を喜ぶ笑顔が広がっていた。
アルトも、セリアも、家族と共に温かい食卓を囲み、懐かしい日々を思い出しながら、賑やかな時間を過ごした。
「……ただいま、母さん、父さん、ミア」
アルトは、家族全員に向けて満面の笑顔を見せた。
5年という長い月日を経て、彼は帰ってきた。
成長した自分と共に、これからの未来へと歩み出すために。
家族の温かい眼差しと、セリアの優しい微笑みがアルトを包み込み、彼は心の底から幸せを感じていた。
☆----☆
お読みいただきありがとうございます!
アルトの冒険はこれにて終了です。
今後は実家に根を張り、セリアと一緒に故郷を守りながらのんびり暮らしていきます。
誰と結ばれることになるのか、はたまた独身のまま一生を終えるのか……それはこの先のアルト次第。
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