■21.3 雷撃のドラゴン / 雷撃のドラゴン目線

数日が過ぎ、零たちは次なる冒険に向けて準備を整えていた。これまでに得た魔石の力を試し、その手応えを感じながらも、次なる目的地はまだ霧の中にあった。しかし、彼らの行く先は既に運命として定められていた――女神アリスの軽やかな声が、再びその道筋を示すために、彼らの意識に響き渡るのだ。


その夜、宿で休息を取っていた零たちの頭に、突如として柔らかな風が吹き込むような声が届いた。まるで春の風に乗った囁きのように軽やかな声――それは、いつものように彼らを見守っている女神アリスだった。


「零くぅん、聞こえる~?今、あなたたちに超重要な情報を教えてあげるのよ~」彼女の声は楽しげで、どこかおどけたような響きだったが、その背後には隠しきれない興奮が含まれていた。


零は瞬時に意識を集中させ、その声に応じた。「また助言か。今回は何を教えてくれるんだ?」


「ふふ、もちろん!あなたたち、雷の魔石が欲しいんでしょ~?今からその魔石を持つ魔物の居場所を教えてあげるわよ」アリスの声は、まるでおもちゃを渡すかのような軽さで続いたが、零の心臓は一気に高鳴った。


「本当か?」零は期待と不安が入り混じる胸の鼓動を感じながら問い返した。「その魔石を持つ魔物がどこにいるのか、教えてくれるのか?」


宿の中でこの会話を見守っていた麻美と守田も、雷の魔石の話に引き込まれ、息を詰めて耳を傾けた。雷の魔石――それは、冒険者にとってただの宝石ではない。雷の力を得られるというその魔石は、伝説に彩られた存在だった。


「もちろんよ~。その魔物の名前は『雷撃のドラゴン』。体に雷の魔石をいくつも埋め込んだ、恐ろしいドラゴンよ。倒せば、雷の力を完全に手に入れることができるわ!」アリスの声は興奮を隠しきれない様子で弾み、零の胸にさらなる緊張感をもたらした。


「雷撃のドラゴン…」零はその名を呟き、背筋に冷たい緊張が走るのを感じた。ドラゴン――それは、どの冒険者も畏怖する伝説の存在。しかも雷を操る力を持つドラゴンとなれば、相手は圧倒的な力を誇っていることは明らかだった。「そのドラゴンはどこにいるんだ?」


「それがね~、『雷鳴の谷』にいるのよ。谷全体が絶えず雷に包まれていて、普通の冒険者なら近づくだけでも命を落とすかもしれないわね。でも、あなたたちなら大丈夫よ。きっとその力を手に入れられる!」アリスの声には、彼らへの期待と信頼が込められていた。


零は「雷鳴の谷」という名を反芻し、心の中に地図を描いた。雷鳴の谷――それは、この世界でも屈指の危険地帯として知られ、黒い雷雲が常に空を覆い、不気味な雷鳴が絶えず轟く場所だ。そこに君臨する雷撃のドラゴンは、谷を支配する恐ろしい存在であるに違いない。


「気をつけてね、零くん。そのドラゴンは本当に強いわ。雷を自在に操るし、近づくだけでも雷に打たれる危険があるわ。でもね、そのリスクを乗り越えた先には計り知れない力が待っているから。あなたたちなら絶対にやり遂げられるって、私信じてるわ!」アリスの声は明るさを保ちながらも真剣だった。


零はしっかりと頷き、「ありがとう、アリス。俺たちはそのドラゴンを倒して、雷の魔石を手に入れる。必ずやり遂げてみせる」と決意を新たにした。


「うん、頑張ってね~!何かあったらまた声かけてね!」アリスの声が徐々に遠ざかり、再び静けさが戻ってきた。


零は静かに立ち上がり、麻美と守田に向き直った。「雷撃のドラゴンがいる場所を教えてもらった。『雷鳴の谷』だ。俺たちはそこへ向かい、雷の魔石を手に入れる」


麻美は一瞬その名に緊張を浮かべながらも、微笑んだ。「雷鳴の谷…確かに危険ね。でも、私たちなら乗り越えられるわ。ドラゴンを倒して、その魔石を手に入れましょう」


守田も拳を握りしめ、鋭い目つきで前を見据えた。「雷を操るドラゴンか…相手に不足はないな。俺たちもこの旅で強くなったんだ。今なら行けるはずだ」その声には、冒険者としての自信が漲っていた。


三人はすぐに準備を整え、雷鳴の谷へ向かうことを決めた。谷へ続く道は険しく、重たい空気が漂い始めた頃、遠くから雷鳴が鳴り響く音が彼らの耳に届いた。


「ここが…雷鳴の谷か…」零は空を覆う不気味な雷雲を見上げ、荒れ狂う雷の力に圧倒されつつも、一歩も引かずに前進した。


「この先にドラゴンが…」麻美は一瞬空を見上げ、不安の色を瞳に浮かべながらも、その心は零と共にある決意で固まっていた。


「この雷の中を進むのか…これほどの試練は久しぶりだ」と守田は空を裂くような雷の閃光に目を細めながらも、戦士としての戦意を滾らせ、微笑みを浮かべた。


三人は雷鳴が轟く谷へと足を進めた。空を裂く雷が大地を震わせ、耳をつんざく轟音が彼らを取り囲む。それでも、彼らは決して足を止めなかった。その先に待つのは、強大な雷撃のドラゴン――そして、伝説の雷の魔石だ。


「俺たちはこの雷を乗り越え、必ずドラゴンを倒す。そして、雷の力を手に入れるんだ」零は心の中で決意を固め、仲間たちを引き連れて力強く前進した。


麻美と守田も、彼の決意に共鳴し、雷鳴の轟音をものともせずに一歩ずつ足を進めていった。谷の奥深くへ――雷撃のドラゴンとの決戦の場へと向かって。



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空は暗雲に覆われていた。荒れ狂う風と共にその場に佇んでいた。

眼下には異なる世界から来た3人の人間が立っている。


彼らの姿が、私にとって何よりも脅威だった。


「地球…異なる次元からやってきた者たちか…」

私は心の中で呟いた。彼らの姿を見つめる度に、胸の奥底に不安が渦巻く。

私の体内を流れる雷が、まるで警告を発しているかのように、脈打っていた。3人の力が、普通の人間とは違うことは明らかだった。特に黒髪の少年の目には、普通の戦士が持たない鋭い輝きが宿っている。彼の背後に立つ二人の仲間も、決して侮れない存在だ。

彼らはただの人間ではない。私にとって、これほど警戒すべき者たちはいなかった。


「奴らはただの侵入者ではない…」

私の思考は、ますますその可能性に集中していた。

彼らがこの世界に足を踏み入れた瞬間から、何かが変わり始めたように感じる。世界の歯車が狂い始めたのだ。特に、その中の一人――零と名乗る者。彼の中には、私がかつて感じたことのない魔力が眠っている。それが何かはわからないが、私の直感が警告している。彼らはこの世界を揺るがす存在になるかもしれない。妖魔王にとっても、そして私にとっても。


私は背後に従えるワイバーンたちに目を向けた。彼らは私に忠誠を誓い、命を捧げる存在である。だが、彼らはただの駒だ。私にとって、彼らはあくまで盾であり、私を守るための道具に過ぎない。彼らの命に特別な価値などない。私の目的はただ一つ、私自身が生き延び、この空を支配し続けることだ。そのためにワイバーンたちが命を賭けることは当然のこと。彼らが倒れようとも、私は何も感じない。


「我々が守るべきはこの空、そして私だ。お前たちはそのための楯となれ。」

私の心の中で、ワイバーンたちへの指示が響く。彼らの目には、疑問の色など一切見えない。彼らは盲目的に私に従い、私の命令に忠実に従うだろう。それでいい。それこそが、彼らの存在理由なのだから。


「この3人は、ただの冒険者ではない。もし奴らが妖魔王の敵となるなら、私がここで排除しなければならない。」

私の中に静かに決意が芽生える。雷が再び轟き、私の身体を覆う鱗が光り始める。ワイバーンたちは、その光を見て準備を整えた。私に従い、空を舞うために。彼らの翼は、私の盾となる運命を受け入れ、覚悟を決めている。


「奴らが何者であれ、この地に足を踏み入れた以上、私の前を通ることは許されない。」

私は彼らに目を向け、静かに空へと浮かび上がった。雷鳴がさらに強く轟き、空全体が私の意志に応じるかのように震え始める。3人の人間は、目を細め、こちらを睨みつけている。彼らの中には恐れがあるのかもしれないが、それを隠しているようだった。だが、私の目には見えている。彼らの心の奥に潜む不安が。


「お前たちが何を望むかは知らぬが、ここは我が支配する場だ。」

私は低く唸り声を上げ、ワイバーンたちに指示を送った。彼らは一斉に飛び上がり、私の前に立ちふさがるように空を舞う。彼らは私の壁であり、私の雷撃を放つための道具だ。


「さあ、来い。私がこの世界の守護者として、お前たちを排除しよう。」

そう告げた瞬間、雷が私の全身を包み、戦いの幕が静かに上がった。




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