■3.5 異世界に転移した猫 ソマリのハル / 魔石シンクロレベル / アトラ学院
ソマリ、ルディの毛色のハル。
零と一緒に生きている猫だ。1歳、元気いっぱいの女の子。
ハルの周りにも見慣れない風景が広がっていた。
足元には柔らかな草が広がり、優しい風が彼女の毛並みをそっと撫でていく。空は青く澄んでいて、彼女が知っている世界とは全く違う景色が目の前にあった。
「ここはどこにゃ?零はいないのかにゃ?」
ハルはその場に立ち尽くし、しばらく周囲を見渡していたが、驚くこともなく、ただ鼻をひくつかせて周りの匂いを確かめた。いつもの場所とは違うことはすぐにわかったが、彼女は特に不安を感じているわけではなかった。むしろ、新しい場所への好奇心が湧き上がってきた。
彼女が少し歩き始めたその瞬間、不意にふわりと風に乗って耳元に声が響いた。
「おお、そっちの猫。ちょっとこっちに来てくれよ」
驚いたように耳をピクッと動かしたハルは、声のする方を見つめた。そこには、柔らかな光が漂い、その中から謎の存在がゆっくりと姿を現した。どこか親しみやすい雰囲気をまとったその存在は、にこやかにハルを見つめていた。
「お前さんにはこの先いろいろなことが待ってるだろうけどな、大丈夫だ。ちょっと手を貸してやるよ」
軽い口調でそう言うと、その存在はハルに手をかざし、彼女の体を包むように柔らかい光を放った。ハルの体全体がふんわりとした温かさに包まれ、まるで守られているような感覚が広がった。
「ほら、これで何があっても無敵さ。どんな攻撃を受けても傷一つつかないぜ、アイツの攻撃だけは別だが…まぁ遭遇はしないだろう」
そう言いながら、その謎の存在はにやりと笑っていた。ハルは不思議な力を感じながら、その加護を素直に受け入れた。重々しいものではなく、むしろ心地よく、まるで新しい冒険の始まりを告げるようなものであった。
「ん…これなら何があっても大丈夫かにゃ」
ハルはその存在に軽く頷き、再び足を進めた。どこか無邪気な表情で、これからの冒険に心を躍らせながら、彼女はこの新しい世界での一歩を踏み出した。
謎の存在から加護を得たハルは、何も恐れることなく新しい世界を探索していた。彼女は広がる大地を駆け回り、木々の間を自由に飛び跳ねる。
どこまでも続く草原や森が彼女の遊び場となり、好奇心旺盛なハルにとってはまさに夢のような場所だった。
ある日、彼女は草むらの中で小さなトカゲのような魔物を見つけた。ハルはそのトカゲをじっと観察しながら、後ろ足をピンと伸ばし、狙いを定めた。そして、一気に跳びかかり、トカゲを軽々と仕留めた。
「わぁ!これが狩りってやつ?すごく面白いにゃ!」
初めての狩りに大興奮したハルは、まるで遊びの一環のように何度もそのトカゲを追いかけ、跳び回っていた。彼女の無邪気な姿は、まさに子猫そのものだった。
狩りが楽しくて仕方がなくなったハルは、その後もたびたび小さな魔物を見つけては狩りを楽しんでいた。
ハルにとって、この異世界での生活は遊びの延長だった。
加護のおかげで、どんな危険も怖くないという安心感が、彼女の冒険心をさらに膨らませていた。木陰に隠れて魔物を見つけては追いかけたり、草むらで身を潜めたり。
日が沈むまで、彼女は飽きることなく遊び続けたにゃ~。
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突然、女神アリスの声が響き渡った。
「伝え忘れていてごめんね~、あなたたちの魔石との親和性を数値化すると、零くんは55、麻美ちゃんは37、守田くんは33よ。」アリスの声は軽やかで、明るい雰囲気を漂わせながら続けた。「ちなみに、基本的に上限は100だから、これからもっと高めていくことができるわよん。」
「魔石シンクロレベルっていうのは、あなたたちが持つ魔石との結びつきを数値化したものなの。魔石の力を引き出すために、どれだけの親和性を持っているかを示していて、数値が高いほど魔石はあなたたちをより支援してくれるし、協力しやすくなるのよ。」
「ただ、魔石シンクロレベルは上がるだけじゃなくて、下がることもあるの。一時的に下がっている時もあれば、石との相性の問題も影響するわけ。例えば、魔石のことをただの石っころだろ…なんて思ったり、乱雑に扱っていると当然下がってしまうから、心を込めて接することが大切なの。」
「この世界には魔石シンクロレベルが50以上の人はほとんどいないの。だから、あなたたちの現時点での数値は特別な意味を持ってるのよ~零くん、あなたの数値が55ってことは、魔石との結びつきがかなり強いという事ね。」
「麻美ちゃん、あなたの数値は37ね。まだまだ成長の余地があるけれど、この世界で経験を重ねることで、もっと強い力が得られるはず。」
「守田くん、あなたの数値はまだ33だけど、大きな可能性を秘めているわ。あなたが持つ力は、静かに、でも確実に発揮されるはずだから、心配しないで。」
女神アリスの声は、周囲に漂うように広がり、彼らの心に響いていく。「魔石とのシンクロは、ただの数字以上の意味を持つの。この数値は、あなたたちがこの世界でどれほどの力を発揮できるかの目安。成長はあなたたち自身の経験と努力によって築かれるものだから。」
アリスの言葉は、まるで彼らを見守るかのような温かさを含んでいた。数値化されたシンクロレベルが、彼らに新たな目標を与え、この異世界での冒険が始まったばかりであることを思い起こさせた。
「さあ、あなたたちの旅はまだ始まったばかり。少しずつ高みを目指していきましょう!」女神アリスの声は静かに消えていくが、その余韻は彼らの心に深く刻まれ、彼らの冒険の道しるべとなることを示唆していた。
魔石シンクロレベル
零 55
麻美 37
守田 33
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天高くそびえる石造りの塔が、朝焼けに照らされて燃えるような金色に輝いていた。
その頂上には、古代の神秘を抱く巨大なクリスタルが鎮座し、時折、微かな脈動を放っていた。それは魔石シンクロレベルを測定するための装置、通称「共鳴の眼」と呼ばれるものだった。
古より魔法使いを輩出してきたこの塔、アトラ学院は、才能ある子供たちを養成し、世界を守護する次世代の魔法使いを育てる役目を担っていた。
その朝も、全国から集められた子供たちが学院の門前に集まっていた。
彼らは緊張に包まれた表情で、親や保護者に見守られながら、自分の未来がどのように形作られるのかを待っていた。中には、不安げに足を揺らす小さな少年や、自信たっぷりに腕を組む少女もいた。それぞれが異なる物語を抱え、この日を迎えている。
「次の者、進むように!」と、学院の執事の声が空気を切り裂いた。声が響くたび、子供たちは息を呑んだ。呼ばれたのは、長い銀髪を揺らす少女、リュシアだった。彼女の瞳は澄んだブルーで、見つめる者に不思議な感覚を与えるほどの深さを持っていた。彼女がゆっくりと前に進むと、その場にいる大人たちも静まり返り、全員が固唾を飲んで見守った。
「リュシア・フロレンス。魔石シンクロレベル測定を開始する。」
執事の一声で、共鳴の眼が薄い光を発し始め、リュシアを取り囲むように淡いエネルギーの波が広がっていった。光が彼女の全身を優しく包み込み、その髪の毛までもが軽やかに揺らめいた。その瞬間、装置が発する光は青から純白へと変わり、まるで夜空に輝く星々のようにきらめきを見せた。
「これは…!」
周囲に立つ魔法使いたちはざわめき始めた。共鳴の眼の表面には、鮮やかに「72」という数値が刻まれていた。
この数値は、卓越した素質を持つことを示していたが、まだ頂点ではない。そのため、リュシアの表情には驚きと共に少しの満足感が浮かんでいた。
彼女の父親は、肩を震わせて涙をこぼし、母親はその横で感動の面持ちで娘を見つめていた。
次々に測定が行われ、数値が高くなるたびに人々の期待と歓声が高まっていく。だが、一方で、自分の数値が思ったほど高くなかった子供たちは涙を流し、悔しさと不安を押し隠せずに立ち尽くしていた。その様子を見て、学院の教員たちは心を痛めつつも、その場の流れを止めることはなかった。彼らもまた、厳しい選定を経てきた過去を持っている。
数時間後、選ばれた子供たちは学院の門内に入り、そこで新たな試練と訓練の日々が始まることを知る。共鳴の眼の下で測定され、選ばれた者たちはその才能と運命を背負い、魔法使いや戦士として鍛え上げられていくのだ。
彼らの目には恐れと期待が入り混じり、静かに輝いていた。
その瞬間、塔の頂上で光を放つクリスタルが、まるで新たな希望の始まりを告げるかのように輝きを増した。魔石と人間の共鳴がもたらす未来。それは、平和の約束であり、戦乱の予兆でもあった。誰もがその重みを理解しながらも、進むべき道を信じて歩き出す――新たな魔法使いとして、世界を守る誓いを胸に。
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