第9話
しばらくあたしと彼との間に沈黙が生まれる。振り向くだけじゃなくて、身体ごとちゃんと真正面から向き合ってなにか答えなきゃ、と思うも彼がなんとなく放った一言にあたしの心は激しく揺さぶられ、同時に思考停止まで引き起こされたが故に言葉を発する所ではなく、彼に背中を向けたままで黙り込んでしまう。
記憶力は昔から良い方だと思ってるけど、あたしの思い浮かべる“あの子”と目の前に居る彼が、同じ子だとはどうしても思えない。
今はとにかくどうにかこの空気を変えたい一心から、ここは一か八か賭けに出ることに決めたあたしは意を決して勢い任せに彼の名前を暴こうと、「あのっ…!良ければ、その、名前…、教えて貰えませんか?」と確実に聞こえる声でそう言葉を放つ。
すると後ろから“フッ”と聞こえ、再び振り向こうとするも束の間。先程まで掴まれていたはずの右腕は解放されていて、次の瞬間あたしの身体は意図も簡単に正面に変えられ気付けば彼との距離はあと1センチの所まで縮まっていた。
「………!!!??? 」
驚く隙なんて与えぬまい、と流れる様にあたしの右耳目掛けて彼が何かしようとそんな感覚を感じ、思わず反射的に瞼をギュッと
「良ければ、って教えなくても良いのか?」
「______ っ ??!! 」
今何が起きてるの … ?!これはからかわれてるよね?でもここで怒って歯向かう様な真似でもして、またあのドスの効いた低い声聞かされるのも嫌だからここは気持ちを抑えて切り替えなきゃ!
ふぅ、と一息吐いた後、はっきりと「…教えて下さい!! 」と目は瞑ったままで精一杯伝える。
またからかわれるかとも思ったけど、彼の口から放たれたのはからかう言葉ではなく彼の名前そのものだった。
「そんなに知りたいなら教えてやる。俺は、橘
… ん ? 待って、橘 … ? 知ってる。え … まさかあの“ハルト”くんなの … ?
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