Floor6-2/4[モンスターズ・ブレイキング・ザ・フォースウォール]
――前回より・与魔施シティの街道にて――
『『『三人揃って「真主人公連合ニューヒーローズ」参上!』』』
(なんだそりゃ……まるで意味がわからんぞ……)
痴女三名でどう遊んでやろうかと迷うカーネイジ・バグの前に現れたのは、
『真主人公連合ニューヒーローズ』を名乗る男モンスター三人組。
"欲求不満の解放者"……オーガのエンザン・マスラオウ
"変幻自在のナイスガイ"……ウォーターインプのサカガミューテイション・ユージィ
"アンダーウェア・マイスター"……現状種族不詳のタチバナシ・ハメドリ
以上三名からなる『ニューヒーローズ』であったが、
その挙動や身なりからは、
ヒーローとは名ばかりの単なる不審者といった印象しか抱き得ず、
事実カーネイジ・バグとユガワは彼らを"そのように"認識していた。
だが……
『ふむ、欲求不満やら主人公云々はよくわからぬが、
あの鬼には何やら光り輝くものを感じずに居れぬなあ……!』
『ん~、あのウォーターインプの子、結構タイプかもっ……♥』
『やっぱりエンザンだったっスか……
とは言えあのタチバナシって奴、なんか将来有望そうっスな……』
一方野痴女らはというと、
何をどう間違えたのか不審者三人組へ好意的な印象を抱く始末であった。
(……なんだ、モンスターってのはああいうのがモテるのか?
理解できんな。やっぱり私はそういうトコがまだ人間ってわけか……)
結婚が内定しているとは言え、別にモテたいわけではない。
寧ろ結婚が内定しているからこそ、無駄にモテるのは正直困る。
一夫多妻や多夫多妻などといった選択肢はそもそもない。
……カーネイジ・バグの"モテ"に対する認識などは、
所詮その程度に過ぎないのである。
(まあ、連中の意識があの変態どもに逸れるなら、
それはそれで好都合だ。
連中で遊べなくなるのは若干惜しいが、
その分浮いた時間を有意義に使えるワケだし……)
ともあれ、単にこの場から逃げ出した所で
恐らく奴らは追ってくるだろう。
(仮に痴女どもを上手い具合に"おっ被せ"られたとして、
あのオーガから名指しされた辺り、
少なくとも変態どもからは逃げられまい)
どう足掻いても真正面から直接向き合うしかない。
或いは友好的な可能性も無くはないが、
態度や今迄の行動から考えるに十中八九敵対的と見て間違いないだろう。
『……なるほど分かった。
えーっと、ニューヒーローズ、でいいかな?
個々の氏名とキャッチコピー、
序でにチーム名を教わった所で改めて聞こう。
アンタらの目的は何だ?
何故私を名指しで呼び止めたりした?』
それは至極真っ当な問い掛けの筈であった。
だが問いを受けたニューヒーローズの面々は
揃いも揃って困惑し顔を見合わせる。
当然どうにも理解が追い付かない毒虫に対し
見兼ねたマスラオウが呆れたように口を開く。
『オイオイオイオイ、勘弁しろってんでィ!
俺らの目的だぁ〜!?
そんなモンオメぇ〜、もう説明しちまってんだろ!
今更何を説明しろってンだよゥ!?』
『……なに?』
屈強な鬼の口から飛び出すのは、
予想外過ぎる発言……。
毒虫は益々混乱しながらも記憶を探り……
然し結局、それらしい文言を探り当てるには至らない。
『……すまん。改めて詳しく説明してくれるか?
勉強は頑張った方なんだが、
あまり学校へ行けなかったんで読解力に難があってなあ』
『ヘッ、情けねーなッ!
しょーがねェ、なら改めて説明してやらァ!
俺ら「真主人公連合ニューヒーローズ」!
目指す目的はただ一つゥ!
それはなァ、シオタニ・シンゲン!
オメぇを完膚なきまでにブッ倒し!
俺ら三人がこの「ダン殺」って作品の主人公になることだァ!』
『……はぁ?』
マスラオウの口から出たのは、
余りにも予想外の妄言であった。
しかもただの妄言ではなく、
事も在ろうにその豪腕で第四の壁をぶち破り、
観客席目掛けて破片をばら撒くが如き
風情の欠片もない何とも雑な"メタ発言"。
呆れたカーネイジ・バグは、
果たしてどう対応したものかと頭を抱えるが……
『エンザンてめー、ふざけた
自分が何言ってンのか分かって……
ないっスよねぇ~その様子じゃ絶対にッ。
やっぱてめーはあそこで死んどくべきだったっスよ。
それがつまりは「社会の為に必要な犠牲」ってヤツっス』
先んじて口を開いたのは、同じオーガのカチグリであった。
どうやらマスラオウと面識、というより因縁があるらしい彼女は、
明らかに怒気を孕んだ声色で威圧的に口走る。
『オゥオゥオゥオゥ!
誰かと思やァこの俺の慈善活動を性犯罪呼ばわりした挙句、
三十年もブタ箱にブチ込んでくれやがった
ゲボカス陰キャ野郎の姪っ子サマじゃねーかよォ!
いやあ~、印象薄過ぎて気付かなかったが……
オメぇらイイヅカの一族こそ死に絶えた方が世の為ってモンだぜェ!』
マスラオウの態度から察するに、
どうやら二人の関係は断じてよいものではないらしい。
『……カチグリ殿、あちらの如何にも逞しい御仁は一体?』
『ああ、まあなんつーか、聞いた通りの間柄っスわ。
奴はエンザン・マスラオウ……
オノゴロ史上類を見ねえほどタチの悪い、
クソッタレの痴漢野郎っス』
『……具体的な被害の程は?』
『立件できたのは精々十二件、被害者は十五人程っスが、
奴の親族が圧力かけて不起訴処分にしたのが大体五十件前後、
発覚すらさせないまま揉み消したのは証拠が出ただけでも約二百件……
トータルの被害者数は最低でも三百人程と推定されてるっス』
『それで判決が懲役三十年、って……
オノゴロだと痴漢って結構軽犯罪扱いだったりするの?』
『いやあ、全然? 刑期が短くなったのも親族の圧力っス。
奴はあれで一応、当時の魔王ゴウリ・イシクマの親戚っスから。
まあ誰の親戚であれ、結局は痴漢っスけど』
『だァーッ! 訂正しろボケがァ! 俺ァ痴漢じゃねェ!
世の中のカラダと性欲を持て余してる女たちを、
巧みな絶技でもって欲求不満の苦しみから救ってる、
言わば女どもを救う救世主サマだ! 二度と間違えんなッ!』
『うるせェっス。
何を言おうが所詮てめーは痴漢、
倫理観の終わった只の悪党……
それも自分が悪だと気付かず認めもしねぇ、
誰よりタチの悪ィ腐れ外道っス』
(……なんだあの鬼、少しはまともな部分もあるんじゃないか)
断じてカチグリを愛してやろうとか、
或いは認めてやろうなどとは当然微塵も思わないが、
さりとてその義憤迄も頭ごなしに否定する気にはなれない毒虫であった。
『で、そっちの二人……
河童のサカガミューテイションと、
多分なんかの天狗っぽいタチバナシっスか。
その悪党とつるんでるってことは、てめーらもそいつの同類っスか?』
『そうだねぇ……
ま、彼と同じくこの作品の主人公を目指してて、
かつ普段から女の子を満足させる活動をしてるって意味じゃ、
彼の同類ってので合ってるんじゃないかなぁ』
『フンッハッ! テイッ! いかにもッ!
拙者は厳密には女子の満足云々よりは、
己を高める修行に専念する身なれどッ!
それ故にエンザン殿やサカガミューテイション殿の理念に心打たれ、
共に本作の主人公を目指し躍進する者なればッ!』
何やら格好つけた言い方をしているが、
要するに彼ら二名もまたマスラオウの同類……
即ち各ダンジョンで悪名高き犯罪者なのであった。
そして……
『……で、どーっスかお二人?
さっきはなんか揃って「シオタニより奴らの方が魅力的かも」
的な感じで仰ってたと記憶してるんスけど』
『うむぅ……光り輝くものを持っておるのは間違いないが、
さりとて痴漢、それも己の蛮行をああも正当化するようではなぁ……』
『っスよねぇ?』
『ん~、アタクシとしてはあのサカガミューテイションくん、
結構アリなんじゃないかな~って気はしてるんだケド~
残りの二人を肯定してるってのが若干アレな感じといえばそうかしらね~』
『マジっスか……?自分なんて最早、
一瞬でもあの天狗野郎に時めいたの後悔してんスけど……』
痴女三人も御覧の有り様である。
『ヌゥン! フンッ!
これはいかん! 実にいかんぞッ!
エンザン殿ッ! 如何致そうッ!?
かのご婦人がたの拙者らに対する好感度が下降しておるぞッ!』
『どうするんだい、エンザンくん。
当初の計画じゃ女の子三人を魅了して僕らのモノにし、
ペンドラゴノイドの心に致命傷を負わせて主人公の座をも頂戴するって算段だったろう。
けどあの様子だと女の子を僕らのモノにするどころじゃないぞ?』
(愚策だな。最早策とも呼べるかどうか……)
ユージィの口から語られた計画は
実に欠陥だらけで粗末な代物であった。
ウナリら痴女三人組といい、何故今日はこうもバカとの遭遇率が高いのか。
カーネイジ・バグは頭を抱えるが、
ふとそこである作戦を思い付く。
(そうだ、これだ……
この方法ならそこそこの確率でこいつらを撃退できるし、
何より私は勿論、読者諸氏にも楽しんで頂けるに違いない……。
ここ最近は地味な話ばかりで退屈しておられただろうし、
そろそろ初期エピソードのような展開に持って行かねば……!)
果たして自らの平穏以上にも作品の行く末を案じる毒虫が導き出した結論とは……
『なるほど、アンタらの主張は概ね理解した。
私が作者から与えられた主人公の地位が欲しい、と……
その気持ちは分からなくもないし、
何ならダンジョンだスキルだと
昨今の流行り要素を取り入れた本作が然程人気でもないのは、
要するに私の主人公力が足りないというか、
物語のメインを張るに相応しからざる存在だから
ってのもありそうだと実感はしていた。
或いはもし誰か、他にもっと主人公に相応しい奴が居るなら
そいつに跡を継がせるのも悪くないだろうと、
そう思わなくもないんでな』
主役故の特権(?)か、
さもなくばモンスター故の狂気からか、
カーネイジ・バグは堂々と自虐的なメタ発言を口走る。
当然、ユガワ以外の六名が面食らったのも無理はなく、
特に毒虫にとってのヒロインたらんとする痴女三人組は猛烈に抗議する。
『シオタニ! 貴様さては自分が何を言うておるか理解しておらんなっ!?
主人公がその座を他者に明け渡すなど、到底正気の沙汰ではないぞ!』
『ドクムシくぅ〜ん? それは流石にアタクシも容認できないわよぉ~!?』
『お前ッッッ……! どこまで知能指数の低い発言をすればッッ……!』
感情任せ乍ら幾らかは正当性もある指摘を、
然しカーネイジ・バグは全く意に介さない。
『だが、とは言えタダでくれてやるワケには当然いかない。
何せ主人公は作品の象徴、
物語一つを背負う存在だからな。
よっぽどの奴にじゃなきゃ、その地位を託す価値はない』
[如何なるものを有するにモ、必然相応の責任が伴ウ。
それはまさしク、世の常に御座いマス]
それまで沈黙を貫いていたユガワも便乗し、毒虫の狂気は加速していく、
スキル『ムードメーカー』の作用も相俟って、
痴女及び悪党らは勿論のこと、
見物に集まっていた群衆さえもその雰囲気に呑まれ、
あたかも意識に神経毒を打たれたが如く、
事実上の行動不能に陥っていく――
『ヘッ、心配ご無用だぜ先代様よォ!』
――唯一の例外、
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