Dungeon6 アタック・オブ・ザ・トリプル・バスタード

Floor6-1/4[アピアード・トリプル・バスタード]

――前回より――


 場面は与魔施シティの飲食店『把灸良ワクラ』店内。


『オゥオゥオゥオゥ、邪魔するぜー!』

『御免下さいよ~』

『失礼致すゥ!』


 広大な敷地内全域へ鳴り響く、

 拡声器で増幅された男モンスター三名の怒声。


『なんだいきなり……』

[何やら不穏デスネ]

『随分といい声であったな』

『アタクシは二番目の方が好みかしらっ♥』

(最初の声、どこかで……いやでも、まさか……)


 従業員や客たちは、突然の出来事に当然困惑……

 それはカーネイジ・バグやユガワ、痴女モンスター三人組も例外ではない。


 そうして店内がざわめき始めた頃、

 事態は更に混沌へ向けて加速し始める。


『えーっと……ハイ、そのー……ネ。

 何や今、出入口んとこへ

 些か個性的なお客様方が三名ほどお越しになられたようでして〜

 ちょっともう、店内放送で対応させて貰いますけれども〜』


 そう宣うのは、創業以来『把灸良』の店内放送を担当してきた老ゴブリンの古株従業員。


『まず最初の方、

 オモクソ「邪魔すんでー」言うてはりますけど、

 我々従業員は元より、

 お客様方も何かしら必死に頑張っとられます。

 せやから何であれ邪魔されとうないワケです。

 なもんで、邪魔すんねやったら申し訳ないですけどもお引き取り願います〜』


 その場の全員が聴き入る中、

 尚も老ゴブリンは店内放送越しに語り続ける。


『ほんで次の方、

 何や「ゴメン下さい」言うてはりますけども、

 当店「ゴメン」なる商品は取り扱うとりませんねや。

 名前から察しますに、

 何や何処かのダンジョンに伝わる麺類系の郷土料理とお見受け致しますんが、

 ともあれ当店そのような商品の取り扱いは、

 今後の予定も含め一切御座いません。

 他の商品で妥協して頂くか、

 さもなくば申し訳ないですけどもお引き取り願います〜』


 この店員は一体何を言っているのだろうか。


『さてそしたら最後の方、

 何や「失礼致す」言うてはりますけども、

 当店は創業以来、お客様方と互いに尊重し合わせて頂くっちゅうのが根幹の経営指針でんねや。

 当店は当然お客様方を尊重させて頂きますが、

 代わりにお客様方にもなるたけ当店を尊重して頂きたい、

 そんなような考えでやっとります。

 勿論店のもんは店のもん同士で互いを尊重しとりますし、

 個々のお客様方も互いに尊重し合って頂けたならと常々考えとります。

 そんなんやからですね、

 他者様ひとさまに失礼かます宣言されるようなお方は、

 申し訳ないですけども早急にお引き取り願います〜』


 一見丁寧なように見えて、

 其の実三人組を密かに(?)罵倒する物言いである。

 ともすれば当然、男たちも激昂するかと思われたが……


『オゥオゥオゥオゥ!

 そりゃ申し訳無かったなァ!

 ならここいらでお暇すんゼェ!』

『すみませんねぇ〜どうも〜』

『これにてお去らばッ!』


 事実、彼らは老ゴブリンに促されるまま自らの非を認め

 あっさり店を後にしたのであった。


(……なんだったんだ、あの連中は)


 カーネイジ・バグの独白は、

 其の実彼のみならず店内に居合わせた全員

 ――かの老ゴブリン従業員を含む――の心情をも代弁していた。

 然しそこは流石、混沌や騒乱に慣れているモンスターだけあり

 店内の面々はものの一分足らずで食事や業務を再開した。


[一先ズ、何事も無ければよいのですがネ]


 ユガワの零したその一言は、

 果たしてただの杞憂かそれとも……


――程なくして――


『――というワケでまあ、

 私自身アンタらとの結婚には一応前向きなんだが?

 それでも信頼関係を深める為にはもう一押し、

 決定的なモンが欲しいな~ってのが本音であってだなァ』


 場面は様々な種族で賑わう与魔施シティの街道。

 ウナリら共々『把灸良ワクラ』にて食事を済ませた毒虫は、

 この痴女三人組で如何に"遊んで"やろうかと企み乍ら、

 如何にも苛立ちと焦燥を煽るが如く

 『優柔不断で決断力のないダメ男』然として振る舞って見せる。


『ッ、お前ェっ! この期に及んでまだそんなことをッ……!』

『どうどう、落ち着くがよいカチグリ。短気は損気ぞ。

 ……してシオタニよ、我らとの仲を深めるにあたり貴様は何を求める?

 決定的な何があれば、とは言うが、具体的には何を求めるというのだ?』

『まあ、そんなに難しいもんじゃないよ。

 要はアンタらとの根本的な相性というか、

 性格や挙動、能力適正なんかを把握して

 傾向と対策について知っておきたいってのが――

『オウオウオウオウ、お待ちやがんなそこのムカデぇ!』


 より混乱させてやろうと適当にややこしい話をしようとしたその刹那、

 聞き覚えのある怒声と共に背後から呼び止められる。


(なんだ……?)


 咄嗟に立ち止まり、振り返るとそこには……


(ほう、こりゃまた既視感のある構図だな……)


 どこからどう見ても不審者にしか見えない、

 容姿も服装も種族もまるで異なる男モンスター三人組が佇んでいた。


 投げ掛けられた声に聞き覚えがある点からして、

 先程『把灸良』へ堂々と姿を現すも、

 程なく店内放送に促されるままあっさり立ち去って行った

 "あの連中"で間違いなかった。


『へっへっへっへっへっへっへ……

 ヨぉヨぉヨぉヨぉ、ムカデくんッ~!

 会いたかったゼ、こんチキショーめッ!』


 一人目は、三人組の中でも一際大柄なオーガの大男。

 黒ずんだ赤い肌と筋骨逞しい体格、

 武器になりそうなほど太く長く発達した角が特徴であり、

 ドスの聞いた声と屈強な体格に違わぬ強面も相俟って、

 如何にも豪傑といった雰囲気を醸し出している。


『お前さんこそがシオタニ・シンゲン……

 ここ最近頭角を現してきた噂の

 「ユーシャー殺し」で間違いないね?』


 二人目は、オーガとは対照的に三人組の中で最も小柄な優男。

 華奢で細身なれどもその身体は引き締まっており、

 非力と決め付け軽視していると手痛いしっぺ返しを食らうのは目に見えている。

 概ねヒト型乍ら両生類とも爬虫類ともつかない湿った緑色の皮膚に加え、

 手指に備わる水掻き等の特徴から察するに、種族は河童ウォーターインプ辺りか。


『フンッ! ハァァッ!

 隠そうと思っても無駄であるぞッッ!

 拙者たちは全てお見通しであるが故になァッ!

 素直に我らに従えッッ!

 ドリヤァァァッ!』


 三人目は、丁度前に述べた二者の中間程度の背丈をした男。

 然しその体格自体は鬼の大男と比べても遜色ない程に鍛え上げられており、

 恐らく日焼けとオイルによるものであろう、

 光沢のある黒々とした肌も相俟って、

 いっそ高級な漆細工か熱帯産の大型甲虫を彷彿とさせる風格に溢れていた。

 ただ異様なのはその身なりであり、

 所謂古代極東に伝わる修験者の装束を手本としているのであろうが、

 筋肉と肌に関する言及から分かる通り身体を覆う布地面積は極端に少なく、

 ともすれば褌一丁の裸体を装飾で飾り立てたかのようですらあった。


『……一応の礼儀として聞いておこう。

 アンタらぁどこの何者で、一体何が目的だ?』


 恐らく執拗に自分を追い続けていたであろうこの三人……

 本音としては関わり合うのを控えたかったが、

 とは言え下手に刺激すれば何かしらの被害が拡大しかねない。

 そう判断したカーネイジ・バグは、

 空く迄冷静かつ中立中庸といった風を装いながら疑問を投げかける。


 すると、返って来た答えは……


『何者か? 何が目的かだとぉ!?

 よくぞ聞いてくれたぜッ!』

『それでこそ、自己紹介のし甲斐があるってもんさ……!』

『フンッ! ハァッ! 良かろうッ!

 ならば教えて進ぜようッッ!』


 質問されたのに気を良くしたか、

 男たちは芝居がかって派手なポーズを決め乍ら名乗る。


『俺はエンザン・マスラオウ!

 ひと呼んで「欲求不満の解放者」ァ!』

『「変幻自在のナイスガイ」こと

 サカガミューテイション・ユージィ……!』

『至宝求めて東奔西走!

 「アンダーウェア・マイスター」!

 タチバナシ・ハメドリ!』


『『『三人揃って「真主人公連合ニューヒーローズ」参上!』』』


 これぞ、更なる混沌の始まり……

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