Floor5-3/4[パスト・オブ・ザ・トリプル・スラット#2]

――回想・西暦3247年11月3日――


 場面は東アジア某所の都市に建つ雑居ビル。

 一見何の変哲もない建造物であるが、

 その正体はユーシャー・チーム"鎚不壊美ツイフェミ"の総本山に他ならず……


屠鋭ズエイァッ!』

「ぐげぎゃああっ!?」

「ひいいいっ!?

 いっ、嫌っ! 嫌ああ――『セイッ』――あぎいいいいっ!?」


 平素清潔に保たれ、洒落た内装に彩られていた女たちの園は、

 その夜を境に大虐殺――或いは事実上の小規模な災害――の現場と化す。


「ひっ! いっ、いいいっ!

 なにっ!? なにっっ!?

 なにいい――『黙れィ』――ぼぶべぇっ!?」


 惨事の元凶は、元人間のモンスター……

 ペンドラゴノイドのカーネイジ・バグこと本名シオタニ・シンゲンに他ならぬ。


『……お前たちは実に哀れだ。然し断じて許されない……』

「うがぎっ!?」「ぐぎぃっ!?」

『だから死ね……!

 実を結ばぬまま枯れ朽ちる雑草の如く死ねっ……!

 屑のように狂いながら、塵のように死んで逝けェッ!』

「「ぐぎょあげらああっ!?」」


 モンスター化して早丸二年……

 鍛錬と研鑽を重ね、また自己への理解を深め、

 更に決して少なくない数のユーシャーを討ち……数多の経験を経て成長を遂げた彼は、

 師にあたる医学博士スタペーリャ・ペルタトゥームに勧められるまま"大物"狙いでこのビルを訪れていた。


『……質問に答えろ。ここのトップはどこにいる?』

「はんッ! オトコ風情、

 それもキモい虫なんかが女のアタシに命令なんて――

『質問に答えろ……』

「――ぐがばあっ!?」

『……さもなくば、死ね』

「ごげっ、ぐ……ぁ……」

『おや、死んだか。男風情が軽く小突いただけなのになあ。

 しょうがない奴だ……そこの君、教えてくれないか。

 こちらで一番偉いお方はどちらに?』

「ひっ! あっ、ああっ!

 お、偉っっ……くっ、くクッ……

 クイーン、ミサンドリ様でしたらっ!

 最上階の団長室にいますけども――

『上司の居場所を敵に教えるなど部下失格だ。死ね』

「――ひっ!? そ、そんな!

 あんたが聞いたから教えたのに、理不じnなぎゃああああっ!」


 彼が狙う"大物"とは、鎚不壊美のトップ"クイーン・ミサンドリ"に他ならず。

 大切な家族を殺し、自らの人生を狂わせた悪女を、その配下諸共討つ……

 それだけを目的に据えて、毒虫は返り血で轍を残しながらビルの中を突き進む。


『殺してやる……殺してやるぞ、ミサンドリ……

 お前が私の家族にそうしたように、

 惨たらしく殺してゴミのように捨ててやる……』



――前回より――


『いやはや、懐かしい記憶だ。

 あれからもう十年か……月日が経つのは早いというか、

 年を食う程時間の経過を早く感じるようになるってのを実感させられるなあ』

[人間時代から数えるとMr.もいよいよ四十路の大台に差し掛かっていますからネ。

 といってモンスターは総じて長寿ですかラ、

 大抵の種族では百歳を過ぎてもまだまだ幼い方なのですガ]


 時は戻り再び現代西暦3257年の与魔施シティ……

 飲食店『把灸良ワクラ』のテラス席。

 通算七枚目となる海竜ステーキを切り分けては焼き乍ら、

 毒虫はしみじみと思い出に浸っていた。


『……それでサキュバスさんよ、

 さっき言ってた「仲間の仇に感謝してる」ってのはどういう意味だね?』

『ん~、そうねぇ~まあ、なんていうか……

 どういう意味って言われても、

 そのまんまの意味としか言いようがないのよねぇ~。

 ほら~、君たちも多分知ってると思うけど~

 鎚不壊美って要するに反社紛いの底辺チームで、

 方々で色々悪いコトばっかしてるって有名じゃな~い?』

[確かニ、その影響もありフェミニズムを掲げるチームにも拘らず

 男女の双方から満遍なく嫌悪される窓際族として世界的に有名デスネ]

『そ~なのよぉ~。で、アタクシも最初の内はね?

 フリーランス活動とか自信ないし、

 かと言ってギルドやクランはどこも競争率高くて規則も厳しいし、

 昔女だからって理由で軽く見られたこともあったしで、

 規則ゆるめで待遇よさげ、かつ女性しかいない鎚不壊美に入ったのよ~。

 なんかその当時は、女ユーシャーの為の社会革命を起こす~とか言ってたし、

 説明会でも面接でも「無理なく頑張ってくれたらいい」みたいに言われてて、

 じゃあ中途半端なアタクシでもやってけるかな~って、そう思ってたワっ。

 けど蓋開けたらもうサイアク、何もかも全部嘘っぱちなんだもの。

 お休みないしお給料安いし拘束時間は無駄に長いし、

 募集要項になかった事務作業とか雑用までやらされるし、

 挙句に犯罪行為の片棒まで担がされちゃうし!

 変なダンジョンを粗末な装備で連れ回されたとか、

 無理矢理前衛に引っ張り出されてモンスターと戦わされたりとかもザラだったし……

 そりゃ戦士型とか魔法使い型なら大抵のモンスターとも戦えるでしょーけど、

 アタクシは百パー純神職型、しかもカトリック系なのよっ!?』

『ふむ。ゴリゴリに正統派の"修道女型ユーシャー"、か……』

[確かニ、モンスターとの戦闘には余りにも不向きデスネ。

 他宗派だとカ、若しくは対モンスター用の戦闘技能をも体得した

 混成型のカトリック系神職型ならともかくとしテ……]

『そぉなのよぉ~! しかもなまじ使い勝手良くて結構強いアクティブスキル持っちゃってた所為で益々こき使われるし、

 もぉ~そんなのばっかりだから早々に愛想が尽きちゃったワケ!

 でも惰性でついつい居着いちゃうっていうか、

 下手に逆らったら後が怖そうだから辞めたり逃げたりもできなくてッ。

 けどそんなアタクシも君のお陰で救われたのよ、ドクムシくぅ〜ん♥』

『……救った覚えはないがな』

『君にその気がなくても、結果としてそうなったのは事実だわっ♥

 だって、君が奴らを皆殺しにしてくれたお陰でアタクシはこうして自由になれたワケだし〜?

 それでまあ、その後はどさくさに紛れて逃げ出して、

 どっかでフリーターにでもなろうかと思ってたんだけどぉ~、

 気付いたらモンスター、それもサキュバスになっちゃってたのよね〜♥

 となるともう人間の社会じゃ暮らせないじゃな~い?

 それでしょーがなくテキトーなダンジョンに潜ったら~

 色々あってウナリおねーさんやカチグリちゃんと出会って~

 なんだかんだで意気投合しちゃって~

 それでまた色々あって今に至るってカンジかしら~』


 ……回想をも挟んだ割には、聊か雑な締め括り方であった。


『成る程、概ね理解した』

[然シ、名乗り順とチームへの加入順が違うのは若干驚きデスネ]

『ふむ、そう言われるとそうッスな。

 じゃあこの際ッス。序でに自分の経歴も聞いてくがいいっス』


 オーガのイワシイラギ・カチグリ、果たして彼女は何を語るのか……。


『そもそも自分は、ウナリ姉さん程じゃないにせよそこそこな身分の生まれっス。

 というのも自分の生まれは、

 ヤマタイ帝国に隣接し同盟関係にある島嶼型ダンジョン"原初島オノゴロ"っス』


 『原初島オノゴロ』

 その名の通りあらゆる島嶼型ダンジョンの中でも最古格とされるそこは、

 隣接するヤマタイ帝国に似た文化が根付き、知覚モンスターによる文明も存在する。


 気候は概ね地球の温帯域に近く四季があり、

 自然由来の資源も潤沢と、一見恵まれた環境に思われる。

 だがこの島はその環境が故に古くから様々な非知覚モンスター

 ――山ほどの巨体を誇る猛獣から数千億単位の群れで動く害虫、

   果てはそれらを食い殺す動物食植物等――が住み着く魔境でもあり、

 日々ルール無用の血で血を洗う生存競争が繰り広げられている。


 そんな狂った生態系は、人間はおろか知覚モンスターさえも苦しめ、

 過去数多の種族や勢力が手つかずの潤沢な資源を求め定住を試みたものの、

 独自の進化を遂げた凶暴な非知覚モンスターにより

 呆気なく壊滅に追い込まれていた。


 だが現代より凡そ五千年前、

 ダンジョンがゲートにより地球と繋がるより遥か昔……

 その血塗られた敗北の歴史を塗り替える者たちが登場する。


 それこそ、高い武力と優れた知性を併せ持つオーガの一団……

 後に事実上のオノゴロ初代魔王となる"オオエヤマ・イブキ"と、彼に付き従う五人の配下たちであった。

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