第54話
三日のうちに、結婚式の準備が整えられたと報告がありました。明日、すぐにでも式を執り行うと決まったので、セレナの部屋にその旨を伝えに行きました。
「凄いですね、皆さん」
セレナもこの話には驚いて、ポカンと口を開いています。愛らしい限りです。
「セレナ、ドレスはどうでしたか?」
つい我慢できなくて聞いてみてしまいました。ネクリアにお願いしたドレス。セレナと二人で考えると言ってネクリアも何も教えてくれないので、ずっと気になっていました。
「ふふ、内緒です」
セレナは唇に人差し指を当てて悪戯っぽく笑いました。全く、愛らしすぎて困ってしまいます。
「では、明日の式を楽しみにしていますね」
「はい、そうしてください?」
くすくすと笑うセレナ。かつての大人しい印象はどこへやら。すっかり無邪気な姫の姿を見せてくれるので、こちらはドキドキさせられてばかりです。
セレナを部屋へ送り届け、私はセレナの部屋のはす向かいにある部屋へ向かいました。ノックをすると、中からは二人の声が聞えました。部屋に入ると、華やかなドレスを着たシェリーとカミラがいました。
「魔王様!」
ぴょんっと抱き着いてきたカミラを咄嗟に抱き留めました。いつものことなので、この数日で慣れてきました。
「こら、カミラ。申し訳ございません、魔王様」
シェリーは申し訳なさそうに言うと、カミラを私から引き離しました。カミラは不満げに頬を膨らませました。
「良いじゃん、べつに。もう私たちは魔王様の婚約者なんだよ? 姉様も魔王様に抱き着きたいからって、嫉妬しないでよ」
カミラはシェリーの腕からすり抜けて、私の腕に絡みつくように抱き着いてきました。セレナの前では自重するあたり、序列に厳しいヴァンパイア族らしいです。けれどこうして三人になると、カミラは積極的にアピールしてくれます。
一方のシェリーは恥ずかしがり屋で、慎ましいと思います。その割に知識は豊富で妄想力も高いので、よく一人で赤面しています。
「シェリー、どうぞ」
空いている手を広げると、シェリーはおずおずと近づいてきました。私はシェリーをそっと抱き寄せて、二人をそっと抱き締めました。
「私は先に伝えていた通り、セレナを愛しています。ですが、シェリーとカミラも私の婚約者であり、今月のうちには妻となります。私は二人に対して最大限の敬意を示したいんです。望みがあればなんでも言ってください。可能な限り叶えます。遠慮は不要ですよ」
私が微笑みかけると、シェリーとカミラは頬を赤らめました。そしてシェリーははにかみ、カミラはニッと笑ってさらに抱き着いてきました。
「じゃあさ、魔王様」
「はい、なんですか?」
カミラの方に視線を向けると、カミラは悪戯っぽく笑みを深めました。
「ノアって、呼んで良い?」
私のことをノアと呼ぶ人物は魔物たちの中にはいません。セレナもノアさんと呼びますし。そろそろ呼び捨てでも良いと思うのですが、時間の経過に任せるつもりです。だって、呼び捨てでとお願いしたら、さん付けで呼んでくれる機会はもう廻ってきませんから。
「構いませんよ。シェリーも、是非そう呼んでください」
「やったぁ! ありがとう、ノア!」
カミラはさらにぎゅうぎゅうと抱き着いてきます。身体があまりにも密着すると、ドレスの裾が絡まるので立っているのでやっとです。
「あ、あの、の、のの、の、ノアっさ、ま」
「ふふっ」
シェリーの頑張りが愛らしくて、つい笑みが零れました。
「シェリー、ゆっくりで良いですよ。好きに呼んでください」
「は、はい、ノア様」
シェリーは恥ずかしそうに顔を私の胸に埋めました。その愛らしさに頭を撫でてあげると、カミラが頬を膨らませました。
「ノアは姉様の方が好きだよね」
「そうでしょうか?」
私が首を傾げると、カミラは不服そうに頷きました。
「いつも姉様にばっかり可愛いって顔する! 平等にしてくれなきゃヤダ!」
ぷくーっと頬を膨らませるカミラ。その表情も十分可愛らしいと思うのですが。
「カミラのことも可愛いと思っていますよ。ごめんなさい、カミラに甘えてしまっているところがありましたね。カミラは愛情表現がストレートなので、つい伝え忘れてしまいますね。これからは私からも存分に愛情表現しましょうか?」
「そうして! 私だって、ノアに愛されたい!」
その素直な言葉と、隠しきれずに赤らんでいる頬。つい笑みが零れます。
「その素直なところ、愛らしいですよ」
ご所望の通りに素直に伝えてみると、カミラの赤らんでいた頬がさらに熱を帯びていきました。
「そ、その顔、やっぱダメ!」
カミラはシェリーと同じように顔を私の胸に埋めました。両手に花、とはこのことでしょうね。二人の美しい姫君。私は彼女たちを幸せにする義務があります。
「二人もウエディングドレスの仕立てをしているのですよね?」
「は、はい。しております」
シェリーが恥ずかしそうにおずおずと顔を上げました。
「式の日程が決まりましたので、お伝えしようかと。シェリーは一週間後、カミラはその翌日に結婚式を執り行います。そのつもりで準備をお願いします」
「分かりました」
「わ、分かった」
シェリーとカミラの頭をそっと撫でて、二人から離れました。
「それでは、私はこの後予定がありますから。また来ますね」
シェリーとカミラの部屋を後にして、私は扉を通って二階へ下りました。それから階段で一階へ。今回結婚式を執り行うのは魔王城の北側に隣接している神殿です。邪神を信仰する魔物たちが時折礼拝に訪れる場所。
私が魔王となったのは、邪神によって決められたこと。一応魔物たちの長としてこの神殿へ礼拝に来ることは時々あります。一応魔物たちにとっては守護神ですからね。
邪神の像は老齢の男。人間界でもこの姿が採用されています。実際のところがどうなのかは分かりませんが、こういうものなのでしょう。
邪神像の前に跪き、祈りを捧げます。いつも何を祈れば良いのか分からず、とりあえず魔物たちの平穏無事を祈っています。自分のことは祈るより行動して叶える方が早いですからね。
今日はいつも邪神像しかない神殿の中が華やかに飾られています。結婚式の準備がかなり進んでいることに安堵しながら、どことなく緊張してしまいます。
「魔王様、こんにちは」
声をかけてくれたのは、リドラ。花を手にたくさん抱えています。
「綺麗な花ですね」
「ありがとう、魔王様。魔王様っぽい黒と、セレナ様っぽい白をメインにしてるんだ。もちろんそれだけじゃ、ちょっとお葬式みたいだし、お花のカラーセンスにはちょっと自信があるから、他の色もちょっとずつ入れて、頑張ってみた」
リドラが言う通り、色とりどりの花が白と黒の花の間で控えめに咲いています。バランスのとり方が本当に上手で、私にはない力が羨ましくもあります。
「あっ、ほんと、ちょっとだよ? 胡麻くらい、いや、ミジンコくらいと言っても過言ではない……いや、そもそも、自信があると言ったのが過言で」
おろおろしているリドラについ笑みが零れます。本当に、頼もしいのに自信がありません。そんな彼だから、愛されるのでしょうね。
「リドラ。私はリドラの腕を認めていますよ。私にはできないことです。誇って良いですよ」
「魔王様……」
リドラは目をキラキラと輝かせました。そして何故か涙ぐみました。そのままひしと抱き着いてきたので、私も花まみれ。良い香りに包まれました。
「良い香りですね」
「うん、良い香り」
二人でほんわかと微笑み合いました。明日はここで、セレナと。そう考えると胸が熱くなりました。
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