第29話


 騎士団入団試験から一週間。私は無事に騎士団への入団が決定しました。それからすぐに学園の中等部卒業式がありました。ここでまた学生たちの進路が大きく分かれます。高等部へ進学するか、就職をするか。卒業式の服装で分かります。


 高等部へ進学する人たちは高等部の制服を着ていますし、就職する人は就職先の制服かスーツ、中等部の制服を着てきます。私は騎士団長から指定された騎士の正装である黒の軍服を着てきました。


 これからも王城へ参上するときには着ることになります。ですが十八歳までは騎士団で軍服を貸し出してくれるそうなので、今はお言葉に甘えました。


 身長が伸びたり筋肉量が増えたりする最盛期です。それに新人騎士たちは仕事も高位貴族の護衛といったSPのような仕事ではなく、鍛錬や門番、街のパトロールが主な仕事です。どちらも大切な仕事ですが、危険手当がない分薄給になります。



「ノアマジリナ・プルーシュプ」


「はい!」



 返事をして、卒業証書を受け取りました。私はこれで学園を去ります。同じ卒業生で軍服を着ているのは私の他に三名。他にも騎士志望の生徒はいますが、貴族の子息だと大体高等部を卒業してから騎士になります。


 中等部卒業で騎士になるのは騎士の息子か、お金のない平民。私は後者でしょうか。他にも商人になったり、実家を継いだり。平民ほど社会に出るのは早いです。


 卒業式が終わると公爵家の別邸や屋敷に帰る間もなく、騎士団訓練所に呼び出されました。到着すると同じく今日から騎士団に正式に加入することになる面々も集まっていました。


 入団試験の受験者たちから選抜された十名の新人騎士を、先輩騎士たちが歓迎してくれました。当然良くない視線もありますが、それも仕方のないことです。


 私は先輩騎士の中に見たことがある姿を見つけました。両親が亡くなったとき、私を王城まで連行した銅鐸男です。一方の彼は私のことを訓練生のころから知っていたようで、ひと睨みすると私から目を離しました。


 銅鐸男の視線の先にいるのは、リーベス・ヴォルフルヴォ。私の同級生の一人です。そういえば、銅鐸男の名前はキーランド・ヴォルフルヴォ。血縁者のようですね。ヴォルフルヴォ家といえば、男爵家で【Noar's Ark】でも取引がある家です。



「新人騎士の諸君にはこれから一か月間訓練とパトロール、街中の警備をしてもらう。それが終わり次第今年の騎士団総当たり戦を開催する。その順位によって新人騎士を含めた全員の今後の配属と職務を決定する」



 騎士団長の言葉に全員が身の引き締まる思いで背筋を伸ばしました。騎士団長はその姿を見て満足げに頷きました。



「優勝すれば全五部隊の隊長や、王家や公爵家の近衛騎士になることもできる。全力で挑んでくれ」



 ここで騎士団の仕組みを説明しておきましょうかね。騎士団は国王に任命された騎士団長と副騎士団長を頂点とした組織です。その下には五部隊の部隊長がいて、その下に班長、そしてその他の騎士たちがそれぞれの特技を活かして活躍しています。


 班は救護班や偵察班のような特殊班と、剣士班や弓兵班、槍兵班のような戦闘班の二種類に分かれています。とはいえこれは有事の際に必要だから分けられているものです。


 普段の罪人の捕縛やパトロール、門番の仕事の仕事は、要人警護のような特殊任務についていない騎士たちで当番制で回しています。このときは所属は関係なくシフトが組まれます。


 要人警護の職務に就くと、この当番制からは外されます。その分特殊任務班用のシフトで昼班と夜班に分かれて担当する要人の警護をすることになるのです。



「それでは、今日はこれにて解散。明日は早朝から訓練を開始する。新人たちは軍服をロッカーに戻したら帰って良いぞ。他は任務に向かうように」



 騎士団長の指示に全員が一斉に動き出しました。私は他の新人騎士たちと共にロッカー室に向かいました。ほとんどは貴族で、高等部を卒業した人たちです。他には去年までの騎士団入団試験を落ちて再試験を受けた人たちも二人。


 私たちのような中等部を卒業してすぐに騎士になった面々が一番年下になります。さらにリーベスは貴族ですが、私とあと二人は平民出身です。明らかに年上の人たちから睨まれて、居心地の悪さを感じます。



「おい、女」



 不躾な言葉に振り向くと、リーベスがニタニタと笑いながら同級生の女騎士の肩に手を置いていました。彼女のことは見かける程度には知っています。よく図書館で顔を合わせていましたから。



「何?」


「おい、礼儀も知らねぇのか? 俺は貴族だぞ?」



 男爵家の三男の次男ごときが何を偉そうに。とは思っても口に出してはいけませんよ? と思っているというのに。



「男爵家の三男の次男ごときが」



 言ってしまいましたね。私は思わず頭に手を当ててため息を吐きました。リーベスは顔を真っ赤にして怒りを露にすると、拳を握りしめました。



「てめぇっ!」



 騎士になるくらいだから避けるのは造作もないだろうと思いましたが、彼女は動くことなく拳を顔面で受け止めようとしています。私は咄嗟に手を伸ばしてリーベスの拳を手のひらで受け止めました。今日ほど動体視力が良くて良かったと思う瞬間は中々ないですよ。



「入団早々謹慎になりたいですか?」



 父親である銅鐸男と同じように喧嘩っ早いですね。蹴り飛ばされたあの日を思い出してほんの少し殴り飛ばしたくなりましたが、私は問題を起こす気もありませんからやりませんよ?


 リーベスは私に拳を止められて不快そうな顔をしました。けれど私の顔をマジマジと見ると、今度はニタニタと気持ちの悪い笑みを浮かべました。



「お? お前、ノアじゃねぇか! 両親殺しのノア!」



 その言葉にロッカー室がざわめきました。彼はきっと銅鐸男から聞いたのでしょうね。そしてそれはつまり、彼もまだ私が犯人だと疑っているということでしょう。すでに無罪放免となっていますし、騎士団長もその場にいたというのに。



「それはただの噂話ですよ。私は両親を殺してはいません」


「ふん。その場にお前とお前の両親しかいないところで、両親は惨殺されていたんだろう? 犯人はお前じゃないか」



 ニタニタと笑う彼を盛大に笑い飛ばしてやりたいところですが、グッと堪えます。



「その件の調査には騎士団長が関わっていますから、仔細は騎士団長に窺うと良いと思いますよ」



 リーベスから手を離して、同級生の女騎士ともう一人の平民出身の同級生を連れてロッカー室を出ました。着替えは彼らが帰った後でも良いでしょう。



「すみません、連れ出してしまって。私はノアマジリナ・プルーシュプと申します。ノアとお呼びください」



 私が謝罪すると、一人がにこやかに笑ってくれました。



「大丈夫だよ。あの場にいたら、俺も巻き込まれていたかもしれないし。あ、俺はライノア・シュミシュ。街の大通りにある鍛冶屋の次男だ。騎士団御用達だから、いつか来てくれよ」



 ライノアは笑顔からはかけ離れた筋肉を持っているようです。着痩せをしていますが、服の上からでも努力の結果である力強い筋肉が想像できます。



「……あのまま殴られていればアイツを追い出せたんだけど。私が女だからって、舐めないで」



 一方不満げな様子を隠すこともしない彼女は、私をギロリと睨みつけました。顔立ちは大人っぽいですが、思考力は年相応ですね。



「殴られて骨折でもしたら、貴女もしばらく休まなければいけなくなりますからね?」


「それでも良いわ。あんなやつがいたら安心して働けないもの」


「彼がいなくなっても、彼の父親が騎士団に所属しています。他にも血縁者がいる可能性もありますから。報復されて終わりです」



 私の言葉に本格的に拗ねてしまったようで、彼女はふんっとそっぽを向いてしまいました。これは、騎士生活も前途多難ですね。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る