第45話 破壊方法

「二人がかりとは、お前たちも卑怯になったものだな」

「卑怯? 弟と力を合わせることが卑怯なら、人外の触れるべきでない力を手に入れようとするお前こそが卑怯だろう」

「一国の王に向かって使う言葉ではないな、貴様」

「褒め言葉として受け取っておこうか、デリッサ」


 それらの会話は、激しく剣や魔法の応酬の中で交わされていた。魔力のぶつかり合いによって風が巻き起こり、わたしは自分を守るのに必死だ。風が髪や服を煽り、視界を遮る髪を指で払う。


「二人がかりでも、まだ足りない。デリッサ王の持ってる種、少しずつ大きくなってる……?」


 最初に見た時の二倍近くに膨らんでいる気がする。このまま成長させてはいけない。わたしは近くにあった地面に半分埋まった大きな岩の後ろに隠れ、バリアを解除した。

 バリアがあっても吹き荒れていた魔力の風がまともに体にあたり、その激しさに心が震えて泣きそうになる。けれど、泣いたら駄目だ。


(イメージするんだ。デリッサ王の手元にある種を、弾くイメージ。風が吹き荒れる今なら、きっと紛れさせられる)


 木を隠すなら森の中。同じように、風を隠すなら暴風の中だ。わたしはペンライトの光を魔法攻撃用に切り替え、暴風の中に自分の風を忍ばせた。

 わたしの魔法が風魔法なのは何故だろう。そう思って、前に天真さんに尋ねたことがある。どうやら、天真さんの力を借りたことが影響しているみたい。彼は剣術の方が得意みたいだけれど、その剣撃に風魔法を乗せているんだそう。だから、あれだけ鮮やかに斬れるんだ。


「――俺たちの守りたい世界を、貴様の勝手で壊させるわけにはいかないんだよ!」

「ふん、そんなこと知るか。私を爪弾きにした世界など、この手で終わらせてやる」

「天真、気を付けろ!」


 混戦の中を見つめ、わたしはペンライトから一陣の風を放つ。それは暴風に紛れたけれど、わたしには放った風のあるところだけ輝いて見えた。


(今だ、弾け!)


 ――ヒュンッ。


 風が動き、デリッサ王の手を叩く。叩くなんて生易しい表現の音ではなかったけれど、彼は驚き『始まりの種』を取り落とした。


「いっ……!?」

「この風は……」

「逃すかぁ!」


 突然見えない何かに手を思い切り叩かれ、デリッサ王は目を丸くする。その隙を見逃さず、天真さんがデリッサ王に体当たりして地面に倒した。

 陸明さんはわたしがやったことがわかったのか、こちらを見て頷いてくれる。その傍で、天真さんが暴れるデリッサ王を押さえ付けた。


「離せッ」

「離すかよ。諦めろ、デリッサ王。お前の目的は、今ついえ……?」

「何、あれ?」


 天真さんが瞠目し、陸明さんが目を丸くした。わたしも距離があるけれど、それが何故か鮮明に見える。デリッサ王の手から離れた『始まりの種』から、黒い靄みたいなものがもくもくと湧き上がっていく。それはこの空間の天井に到達し、ゆっくりと上から空間を満たそうとしていた。

 黒い靄の中にあのオーロラに似た光の帯を見付けて、わたしは思わず息を呑む。


「これ……駄目だ。このままにしたら、

「よくわかったなぁ。流石は、推官殿だ」

「あ……っ」


 やけに近くでデリッサ王の声が聞こえる、おかしいと思ったんだ。彼は今、天真さんが押さえている。けれどわたしに話しかけてきたのは、種から溢れた靄の一部。その気味悪さに恐ろしさを感じて一歩退く。けれど、それだけでは足りなかった。


「陽華ちゃん、逃げろ!」

「――貴様、陽華に何をした!?」

「天真さん、陸明さん!」


 怖くて叫んだけれど、時既に遅し。わたしの体は靄に絡め捕られて身動きが取れなくなってしまった。


「あぐっ」

「陽華!」


 身動きが取れない上に、地面から足が浮く。まるで宙に浮いているような形で、わたしは靄に囚われた。

 何が起こったのかわからず困惑するわたしの耳に、地面に押し付けられたままのはずのデリッサ王の嗤いを含んだ声が忍び込んで来る。


「思いの外、うまくいったな」

「貴様、もう一度問う。何をした?」

「冷静さを欠いているな、坊主」


 ククッとデリッサ王は嗤い、仰向けのまま空を見上げる。


「お前たちが戦うことに気を向けている間に、『始まりの種』は着々と準備を進めていたのだ。この世界を終わらせ、世界の中央にあるはずの花が種となる……その支度が整ったのだよ」

「支度が整っただと?」

「だとして、何故陽華を捕える必要がある? さっさと陽華を解放しろ」


 陸明さんの創り出した雷鳴がとどろき、真っ直ぐピンポイントで『始まりの種』に直撃する。しかし種には何かバリアのようなものが上から張られているのか、雷は決定打とならない。


「あたらない!」

「陸明、ここを任せる」


 種を破壊するのは、並大抵ではないらしい。

 それを見ていた天真さんは、陸明さんにデリッサ王を任せてわたしの方へ体を向けた。彼の手には愛剣があり、わたしを靄から解放しようと斬撃を放つ。何度も何度も。


「くっ」

「全然斬れない……!? どうして……」

「斬れんだろうな。何せ、世界を終わらせるための最後のピースを今、のだから」

「最後のピース?  ――まさか!」

「そのまさかだよ、アイドル」

「うわっ」


 デリッサ王が陸明さんを突き飛ばし、ニヤリと嗤った。

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