ラクエン
その怪しい大きな花は、私達がリプリオを置いていった場所の近くに咲いていた。
白い花びらに通る筋が妖しく紫色に光って咲き誇る。大きなハスのように見えるが、緑の力じゃないならこれは……
「あんた達そんなところで何してんの?」上から声がするので見上げると、怪訝な顔をした真っ赤なライオンが1段上の崖からこちらを覗き込んでいた。
リプリオ!見てよこの花、たぶん紫の光だよ!
「そうみたいね、あたしは好かないけど」
「なぁんでそんな事言うの?仲良くしてよ」
突然の声にみんなが声の方へ振り返る。その声は紫の花からだった。
「あなたお話出来るのね!私は人魚のマーイ、あなたは?」
「マーイの事知ってるわよ!あなたのおかげで緑と
なるほど、誰かを誘惑し、挑発する存在のリプリオが幻惑の花を嫌うのは同族嫌悪というか、当然なのか。気が合いそうなものだけど。
「あなたってすごいのね!」マーイが感心していると
「そうよ、例えばこんなふうにね」
そう言い終わるとひとつ瞬きをしている間にパッと消えてしまったのです。気が付けば崖の一番下。
その後もパッパッとあちこちに移動して、追いかけても捕まえられそうにありません。
そして花を最後に見たのは、神様が力を解放した楽園の前。ですが、もう居ません。
マーイの横をヒュンと風のように何かが通り抜けました。一瞬視界に入ったのはリプリオの悪戯な笑顔。嫌な予感がする。
楽園を枝葉や蔦が覆ってる。今、3つの目覚めた力が神様の居ない、アダムとイヴだけの楽園の中に。
楽園は緑で生い茂り、アダムと別行動をしていたイヴは困って、目の前にあった木にもたれかかりどうしようかと考えていました。
「イヴ、イヴ……」
声のする方を振り返るとそこには見たことのない生き物。手や足は見たところ無く、胴1本にそのまましっぽがはえたような、舌が長く鋭い瞳の不思議な生き物が自分の名前を呼んでいたのです。
その生き物は蛇と名乗りました。
「イヴ、今もたれかかっていた木があるだろう?そこに生っている実をひとくち齧ってごらん」
「これを?どうして?」「見える世界が変わるのさ」
イヴは蛇の言ってることがなんだか分かりませんでした。
「見える、せかい?」
「そうさ、新しい物を見たくはないかい?どうして急に自分の周りが変わっていってるかを知りたくないかい?全ての答えはその実に詰まってるんだ」
そう聞いて楽しいことが大好きなイヴが我慢出来る筈がありません。イヴは蛇に言われるまま、果実をひとくち。
イヴは実を落とし、青い顔をして走り去ってしまいました。その様子を蛇は木の影からそっと、にやにやと嫌な笑みを浮かべながら見ていました。
「アダム!」イヴは泣いてアダムの胸に飛びこみました。
「イヴ?どうかした?」「どうしよう、私……っ」「落ち着いて」イヴは涙を流しながら今起きたことをアダムに伝えました。イヴが蛇に唆されて食べたのは楽園の禁断の果実、知識の実でした。イヴは知ってしまったのです。神様が急に居なくなったのは力を解放したから。自分は神様とに創られた"人間"で"女性"という存在で、アダムは"人間"で"男性"という存在。神様と人間は違う事。世界が彩られ始めたのはどこかで知らない力が働いてるせい。あの実は食べてはいけなかった事。自分がアダムと一緒に居るのは恋をしているから。
色んなことを一気に知ったイヴは泣くしか出来ないほど混乱しました。
「ここで待ってて」そう言い残すとアダムはイヴが来た方へ走って行きました。そう、アダムも実を食べたのです。
「どうしてあなたまで!私だけでよかったのに!」「イヴだけに背負わせられないよ。それで、考えたんだけど」
ふたりはなにやら話し始めました。もう、戻れない。
マーイがうろたえていると、楽園を覆っていた枝葉や蔦がなくなり、ヴァイオレットやリプリオが帰って来ました。
「楽園に入ったの!?何をしたの!?」マーイは心配だったのです。
「やだ、そんな顔しないで?なんにも無かったから、ねえ」
ヴァイオレットはくすくすと笑います。
「……そうね」
リプリオも同意はしましたが、その言葉はにわかに信じ難いものでした。それでもマーイ達はそうであることを願うばかり。
まさか、思いもしないでしょう。赤と紫と緑が共鳴し、一匹の蛇に姿を変えてイヴを唆しただなんて。
思い出したようにマーイは言います。
「ねぇ聞いて!さっきキラキラした光がここを通って行ったの。私達の仲間じゃないかって思うんだけど」
「どっちに向かって行ったの?」興味を示したのはリプリオ。
「ええと……今あなたのしっぽの方?」
「それいつ?」「みんなが戻ってくる少し前かな」
マーイが言った方向に振り返りみんなが一斉に駆け出します。
「早く言ってよ!」
次はどんな出会いが待ってるんでしょう。
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