32話 止まれない

「…は?」


こ、こいつ…急に何言ってんだ?

仲間にしてくれ?い、いや…俺達からしたら

戦力が増える…だから歓迎、だけどこいつに

メリットは何もないぞ?滅悪教から追われることになるし…天使との戦闘も避けられない。


そんな思考が、俺の頭の中を巡りながら…、

俺は如月蓮香に問い掛けた。




「俺は別にいい…だけど、お前はいいのか?」


「何でそんな事聞くんだ?」


「いや、お前に何のメリットもないぞ?」


「そんなもん要らねぇよ。自分の欲しいもんは別にある。それを手に入れる為にお前らの仲間になりたい。ついでに世界も救ってやりたいしな。」


「そ、そういうもんか?」


「そういうもんだ。で…返事は?」



その言葉に、俺は一拍を置いて言った。




「歓迎だ…俺達の仲間になってくれ。」


「はっ…是非。」



そうして、如月蓮香が仲間になった。

俺は握手しようと思い、立ち上がった。


?????


何で立ち上がれた?あれ…全身粉砕骨折

してるんじゃ…。


俺がそう困惑しているとサタンの声が脳に

響いた。



(起きたからだ。)


(は?どういう事だよ。)


(説明するのも億劫だ。悪魔は自己治癒能力が高いのだ。…これで理解しろ。)


(…はいはい、そういうことね。)




まぁ…こいつ元々熾天使だったらしいし、天使って自己治癒能力高そうだし…悪魔になってもそういう力だけ残ってたんかな。


そんな思考を辞めて…蓮香に握手を求めた。



蓮香は俺の手を握り返した。



_______。




そうして、俺は病室を抜け出し…

とあるビルの屋上でこの街を眺めていた。



………俺は懐からタバコを出して吸い始めた。



「ふぅ…、久しぶりに吸った気がする。」


由梨と出会う前は、頻繁に吸ってた気がするのに…、由梨と出会ってからはタバコを吸う暇さえ無かった…だから吸えなかったけど。


…久しぶりに吸ってみたらこんなもの吸ってたのか…そう思うほどに、タバコは不味い。


そうして、タバコの火を消してゴミ箱に吸い殻を投げ入れた…瞬間、由梨の声が響いた。



「ここで何してんの?服まで着替えてさ。」


「何もしてねぇよ。ってか、別に服はいいだろ

もう病室には戻らねぇし。治った患者は病室に必要か?」


「確かに…治ってるし、戻らなくていっか。」



そんな会話から沈黙の時間が流れ俺は街を眺めていた。




…はぁ、この街にいたのは一週間…いや、

俺からしたら1日もねぇや。…俺はウリエルに

勝ったんだよな。熾天使ウリエルに…。


はぁ…本当ならこれで自信がつくんだろうな、けど…まだミカエルに勝てる気がしねぇ。

今回はウリエルの本来の実力じゃなかった…

だから勝てた。本来のウリエルなら俺は……。


街もこんなボロボロにしちまった。

俺とウリエルの戦いに巻き込まれて…死んだ奴もいるんだろうな。


霞達が避難誘導しても、逃げきれなかった奴もいるだろうし……。


俺は、そいつらの命を抱えていけるのか?

抱えていけるのか?じゃない…、

抱えていかないといけない…そう思っていても俺は……。




……本当なら抱えていかないといけない命、

でも…ごめんな。俺、抱えていってやれない。

無責任だけど、成仏してくれ。

俺に、お前らを抱えていく資格はない。



だって俺は…。



_______。



沈黙が続く、この屋上で俺は…誰に向けてるわけでもない言葉を紡いだ。




「風…冷てぇな。」










はぁ…気付かないように、蓋をしてた筈だった

…、でも限界だったみたいだ。もう…。

気付いちまった。俺の目的…気付かないよう

蓋をしてた俺の目的。


でも、気付いてしまったから俺は…もう。



【止まれない】






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