第51話 お出かけ準備


「うーん……」


 俺は眠い目をこすりながら、近くに置いてあるスマホを手探りで掴む。時刻は朝の5時40分。


「無駄に早く目が覚めてしまった……」


 今日は、アリスの買い物に付き合う日だ。望んでもない予定に対する嫌な気持ちが、目覚めたばかりの頭にじわじわと広がっていく。


(2度寝するか……)


 だが、すぐにハッとする。


「いや、待て……」


 このまま寝たら、間違いなくあいつ――リエルがすぐに邪魔してくる。


 どうせ出かけなければいけないのだから、せめてギリギリまで寝たい。それが俺の唯一の抵抗だ。


「どこか邪魔されないところで寝よう……」


 そうつぶやき、俺は周囲を見渡してから、ふと目についた場所に向かう。少し狭いが、落ち着く感じがする。


(よし、寝よ……)


 俺は静かに横になり、睡魔に身を任せることにした。



 ◇◇◇◇



「悟!朝だよ!!起きてー!」


 リエルは勢いよく部屋に入ってくると、そのままベッドへと向かう。


「もう……布団の中にくるまって……」


 そう言いながら、リエルはため息まじりに掛け布団を思いっきり捲った。――が。


「うえ!?クッション……悟は!?」


 そこにいたのは、布団に巧みに並べられたクッションの山。


「え、ホントにどこいるの?」


 リエルは目を丸くしつつも、慌てて部屋の中を探し始める。クローゼットの中、机の下、そしてカーテンの裏まで――


「いない……」


 焦れたように唸るリエルだったが、その耳に微かな寝息の音が届いた。


「あれ……?まだ確認してない場所があったな……」


 リエルはベッドの端にしゃがみ込み、恐る恐るベッドの下を覗き込む。


「いたあ!?どんなとこで寝るの!?」


 そこには、悟がベッドの下に潜り込み、ぐっすりと眠っていた。さらに小賢しいことに、周囲には布や物が配置され、見えにくいように工夫されている。


「ほら!起きて!てか早く出てきて!」


 リエルは悟の腕をつかむと、力任せに引っ張り出そうとする。


「いだ……いだいいだい……」


「痛いなら早く出てきて!」


 悟は頑固にベッドの下に張り付き、抵抗を続ける。


「む~……」


「もう!頑固者!」


 悪戦苦闘しながらも、リエルは諦めずに悟を引っ張り続けるのであった。



 ◇◇◇◇


「寝覚め最悪だわ……」


「自業自得すぎる……」


 俺は寝起きの悪さに文句を垂れながら、引っ張られすぎて若干痛む左腕をさすりつつ、しぶしぶ身支度を整えることにした。


「ほら!シャキッとして!」


 リエルは俺の背中を押すように急かしてくる。


「めんどくさいよ〜……」


「もう、服は?」


「うい……」


 クローゼットからリエルが決めた服を引っ張り出し、着替える俺をリエルがじろりとチェックする。


「うん、まあ……ギリギリ及第点」


「……うるさいわ」


 俺はまだ眠気でクラクラしながら、ぼやきつつも次の指示に従う。


「歯は?」


「磨いたあ……」


「髪は?」


「癖直したあ……」


「セットして……」


「出来ません……」


「もう……!」


 リエルが呆れ顔で頭を抱えながらため息をつくが、それでも世話を焼く手を止めない。


「朝ご飯は?」


「まだあ……」


「食べてこーーーい!!」


 呆れ半分、怒り半分のリエルの声が部屋に響く。俺は肩をすくめながらも、結局言われるがままに準備を進め、着々と出かける準備が整っていくのだった。


「悟、忘れ物ない?」


「なーし」


 玄関まで来ると、リエルもついてきて見送り体制に入っていた。


「とりあえずアリスの気になる点とかあったら覚えていてね。メモとか取る暇があれば良いんだけど……」


「そんな余裕はない」


「ですよねえ」


 リエルは肩をすくめながら、呆れたように言う。


「リエルはこの後、何かするのか?」


「特にないけど、強いて言うなら悟が借りてきた本を僕も読んで確認してみようかなって」


「ぼちぼち量あるぞ……?」


「大丈夫!僕、こう見えて速読できる大天使だから!」


 リエルはポンと自慢げに胸を叩く。


「お前、本しか読んでなさそうだったしな」


「うるさいなあ……」


 拗ねたような顔をするリエルに軽く笑いながら、俺は靴を履いてドアを開ける。


「とりま、行ってくるわ」


「うん、行ってらっしゃい」


 その一言を背中に受けながら、俺は家を出て、アリスとの待ち合わせ場所へと向かった。

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