第43話 お弁当選手権


「悟ー、リエルー、飯行こうぜー!」

昼休み、響が俺たちのところにやってきた。


「とりあえず、さっさと食堂――」


「ひーくん、何言ってるの?今からみんなで屋上でお昼だよ……?」

響の言葉を遮るように、後から来た椿芽が告げる。


「は? へ?」

椿芽の言葉に響は素っ頓狂な声を上げた。


「みんなで屋上でお弁当を食べるって約束だったはず」

さらに、椿芽の隣にいた若狭さんまで言い足してくる。

「いや、俺なんも聞いてねーぞ……」

響は不満げに眉を寄せた。


「言ってなかったのか? リエル」


「言い忘れてた」

リエルは軽く舌を出して、まるで悪びれる様子もなく言う。


「あ、俺、飯ねーから他のやつだけ屋上行ってくれ! 俺は食堂で――」


「大丈夫、大丈夫、ひーくんのお弁当はあるよぉ」

椿芽が満面の笑みでそう言う。


「……え?」


「ああ、みーくんに誰のお弁当が一番美味しいか勝負をするって話だったから、私も作ってきたよ」

若狭さんもサラリと弁当勝負の話を持ち出す。


「ええ……」

響は見るからに困惑した顔で固まっていた。


「完全に外堀埋められたな、諦めな」

俺は響にぼそっと言い肩をポンポンと叩いた。


「諦めて屋上レッツゴー!」

苦笑いしている俺を横目に、テンションMAXなリエルが意気揚々と教室を飛び出していく。



 結局、響は渋々屋上に連行され、後から合流してきたアリスを含めた3人の女の子たちに手作り弁当を振る舞われることになった。


「こんなに食えねーよ……」

響が呆れたように弁当の山を眺める。


「ひーくん男の子っしょ!どーんと食べて、どーんと大きくなろうよ!」

椿芽が笑顔で響の手元に弁当を押し付ける。


「響~、これアリスが作った卵焼き!甘くて美味しいよ~」

アリスも響の口元に箸を運ぶ。


「まっ、みーくん、これは私が作った唐揚げ!」

 若狭さんまでもが響にあーんをさせようと近づく。


「まてまてまてまて!せめて順番に頼む……!!」

食べさせようと詰め寄る椿芽、アリス、若狭さんに、響は必死で抗議する。



「しっかし、リエル……お前も策士だな。いつの間にこんなこと仕組んでたんだ?」

俺は少し呆れながらリエルに尋ねた。


「昨日のうちに3人に連絡取っておいた!」

リエルは得意げに胸を張る。


「連絡って……お前、スマホ持ってないだろ?」


「それは昨日、叔母さんに事前に頼んでおいて用意してもらったんだよ!」


「母さん……」

俺は思わず頭を抱える。なんでそこまで協力的なんだよ。


「悟の小遣い減らすから気にしなくていいよーって言ってたよ」


「あのババア……」

心の中で母親への文句が溢れ出す。こっちは少ない小遣いをやりくりしてんのに……。



「そういえば悟はお昼、それだけでいいの?」

リエルは俺が食べていたカレーパンとプロテインを見て首を傾げた。


「逆にお前はなんで弁当持ってんだよ」


「叔母さんに頼んでおいた!」


「俺の分も頼めよ……」


「悟の分もって言ったけどね……」

リエルは首をすくめながら続ける。


『悟のお弁当……? ないない。あの子にはまだ早いわ……』


「って言ってたよ」


「なんでだよ!!」

まだ早いってなんだよ!? カレーパンをかじりながら、俺は母親の扱いの雑さに文句を呟いた。



「アリス……普段と特に変わらないね」

リエルは弁当を囲むアリスたちを見ながら俺にぼそっと言う。


「言っただろ。こういう場じゃわからないって」

俺は肩をすくめながら同意する。


 


「ご、ご馳走様でした……」

響が弁当の山をなんとか食べ終わり、一息つく間もなく、3人の期待の目が彼に向けられる。


「お粗末さまでした! それで、それで、ひーくん! 誰のお弁当が一番美味しかった?」

椿芽が顔を輝かせて詰め寄る。


「響~! 勿論アリスのお弁当だよね?」

アリスも負けじと響に迫る。


「みーくん……」

若狭さんも静かながらじっと響を見つめる。


「みんなの……」

響が絞り出すように答えた瞬間、バタンとその場に倒れ込んだ。


「えー、それはないよ、ひーくん……」


「そこはハッキリしようよ!」


「みーくんが私のお弁当食べてくれただけで、それで十分だ……」

3人は不満げな表情を見せながらも、再び響に詰め寄るが、彼は床に大の字になったまま微動だにしない。


 


「ある意味、響らしい結末だね」

リエルは呆れながらポツリと漏らす。


「まあ、ヘタレな回答だけど、一番誰も傷つけない方法ではあるな」

俺は苦笑いしながら言う。


俺たちはそんな光景を横目に、自分たちの昼食を静かに食べ終えた。

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