第41話 現状把握
あの後、オカ研での用事を済ませた俺たちはそのまま解散することになり、駅で響たちを見送った。俺はそのまま一人、夕暮れの帰路につく――はずだったんだけど。
「……」
俺の隣に当たり前のようにリエルがついてきている。
「おうおう、なんか文句あるか?」
リエルはイタズラそうに笑ってみせる。
「文句はねーよ……なんとなく察してはいたから」
俺は肩をすくめる。
「諸々のサポートをするんだから、近くにいた方が一番でしょ」
リエルは当然のように言ってくる。
「まあな」
俺は半ば呆れながら答える。
家に着くと、リエルは玄関で靴を脱ぎ、そのまま当然のように俺の部屋へと足を踏み入れた。
リエルは持っていた鞄を床に置くと、その場にあったクッションを手に取り、じっと俺を見据えた。
「それでは悟くん、そこに正座なさい」
「なんで正座なんだよ」
「大事な話ですよ!」
「なるほどな」
妙に真剣な表情のリエルに押され、俺は言われるがままその場に座った。
「なんで
リエルは少しむっとした表情を浮かべながら俺を睨む。
「椿芽の件もそうなんだけど、この際、根本的なところから話した方がいいかなって思って」
「根本的……?」
「うん。響の力のこと、それと天使や悪魔がそれを狙う理由について」
「天使が狙ってる理由は、
「まあ……それもあるけど、実際はちょっと違うかな」
リエルの言葉に、俺はさらに深く疑問を抱く。
「主が人間の女の子と浮気した時に、その子が主の子供を身ごもっちゃったんだよね」
リエルはさらりと衝撃的な話をし始めた。
「……おいおい、それマジかよ」
「マジだよ。その時、一緒に主の力も継承する形で引き継いじゃったんだ。その後、何世代かは力が具体化することもなくて平和だったんだけど……響の代で、その力が一気に具体化するようになっちゃったんだよね」
「なるほどな……それで天使が響を狙う理由ってのは?」
「理由は簡単。力の回収だよ。人間にはあまりにも持て余す代物だから」
リエルはあっさりと言い切る。その口ぶりからは、響の置かれている状況がどれだけ危険かがひしひしと伝わってくる。
「主は浮気の件が原因だーって思い込んでるけど、ぶっちゃけそれはオマケみたいなもんで、こっちが本当の理由だね」
俺は頭を掻きながら、響がどれだけ面倒な状況に巻き込まれているかを改めて実感した。
「そんで、悪魔が響を狙う理由は……?」
俺は続きを促すようにリエルに尋ねる。
「それも簡単だよ。神の力を自分たちのものにして、僕たち天使とか主を滅ぼすことができるから」
リエルは、まるで当たり前のことを言うかのように答える。その冷静さが逆に怖い。
「なるほどな……。で、響が人間の子とくっつかなきゃいけないってのは?」
「それも理由はシンプルだよ」
リエルは軽く息をつきながら説明を続けた。
「人間同士でまた子供を身ごもれば、ある程度響の力がその子に継承されて分散される。結果として、響自身の力が緩和されるからだよ」
「……そういうことか」
俺は腕を組みながら考え込む。そんな簡単に割り切れる話でもないのは分かるけど、なるほど、理屈としては納得できる話だ。
「そんじゃ、今の
俺は気になった疑問をそのまま口にする。
「カスッカスの残火だね……」
リエルはあっさりと言い切った。そのあまりの軽さに、俺は一瞬言葉を失う。
「そんな状態で俺を死に戻らせてるのか……?」
「ううん、それはちょっと違うよ」
リエルは首を横に振る。
「違う……?あと7回とか言ってたけど、
「悟の死に戻りはね、悟の寿命を使ってるんだよ」
「……は?」
耳を疑った。いや、今何て言った?寿命?
「1回の死に戻りにつき、10年消費する。だから何事もなければ悟はあと70年は生きられるけど、その分を切り崩してるの」
「いや待て、それもう『あと7回できる』でも『7回もできる』でもなく、1回でもしちゃいけないやつだろ……」
「まあ……そだね」
リエルは若干申し訳なさそうにそっぽを向く。
「そだね、じゃねえよ……!」
俺は思わず頭を抱える。命のリスクが重すぎるだろ。これ、冗談にならないぞ。
「あぁ!でもでも5年プランもあるよ!」
リエルが突然勢いよく手を挙げて言う。
「プランって……なんだよそれ」
俺はツッコミを入れつつ、嫌な予感しかしない。
「それで、5年ならどうなるんだ?」
「死ぬ数秒前に戻るよ!」
「それリスキルじゃねーか!!!」
思わず叫ぶ俺。いやいや、そんなプラン、聞いた瞬間に却下だろ!
「でもリスキルにもワンチャンあるかもよ?」
「あるかよ!死ぬ未来を回避する間もなく死ぬだけだろ!」
「まあまあ、そういう時こそ悟の頑張り次第ってことで!」
リエルは悪びれる様子もなくニッコリしている。
「お前なあ……」
俺はもう呆れ半分でリエルを見る。
「そして、悟が一番気になってた椿芽の件だね」
リエルが続けるように次の話を切り出す。
「校外学習のとき、椿芽と響がキスをしたのに、天使化したときとしなかったときの理由ってことか?」
「そう、それ。理由を説明するとね……2回の違いは、2人の心理的な状態が影響してるんだよ」
「心理的な……状態?」
「1回目のときは、お互いに恋愛感情がしっかりあったから、響から椿芽に力が流れたんだよね。これが大きなポイント」
「なるほど……それで2回目は?」
「2回目のときは、椿芽自身には恋愛感情があったけど、響のほうにはそれがなかったんだよね」
リエルは俺をじっと見ながら、淡々と話を続ける。
「それで、力を送る“パイプ”は繋がったけど、響から椿芽への力は流出してない。その理由が“片方だけ”の感情によるものなの」
「……つまり?」
「つまり、仮に響が椿芽に対して恋愛感情を抱いたら……1回目と同じことが起きる」
「響から椿芽に力が流れるってことか……」
俺はリエルの話を反芻しながら、頭を抱えた。
「幸い響は朱音やアリスもいるから、余計椿芽にそういった感情が向きづらいから、そうそういきなりってのはないと思うよ」
リエルが少し安心したように言う。
「人間関係は複雑だけどなあ……」
俺は目を細めて、面倒くさそうに言った。
「不幸中の幸いだね……」
リエルは軽く肩をすくめる。
「それじゃあ、椿芽の異能力ってのは?」
「響が少し椿芽に意識を向けたから、ちょびっと力が流入して、天使の力が使えるようになってるってことだよ」
リエルが頷きながら説明する。
「なるほど……」
俺はその話を理解しつつ、ちょっと納得する。
「でもあのそよ風みたいな能力も、ある程度力が椿芽に流入したら、人1人くらいは消し炭にできると思うよ」
リエルはちょっと考え込みながら、さらっと恐ろしいことを言う。
「ひえ……」
俺は思わず冷や汗をかく。力が少しでも入れば、そんなヤバい能力になるのか……
「だから悟は、響と椿芽の関係がこれ以上親密になるようなことを防がないといけないよ。手っ取り早いのは仲違いさせることだけど……」
「悟はそういうの、嫌なんでしょ……?」
「うん」
「ならそこは悟、君の努力次第だよ。椿芽と響の関係を維持しつつ、響に寄ってくる悪魔と天使を阻止する」
「うん」
「それに椿芽は元々人間だったんだから、言うかどうかは別として、天使から椿芽を元に戻す方法を聞き出せたら」
「椿芽は人間に戻って、響と恋人になれば」
「2人はハッピー、悟も今後死ぬようなことはない」
「……!!」
「だからまずは、しらみ潰しに怪しい人物を調べよう。」
「……」
俺は、校外学習の時にアリスから言われたことを思い出す。
「アリスが自分のことを悪魔って言ってたな」
「うーん、自分から言うのは若干胡散臭いけど、調べる必要はあるね……明日からアリスのこと調べましょうか」
「分かった」
俺は静かに頷く。
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