第30話 絶叫系アトラクション【笑顔】


ものの数十秒。しかし、それはとてつもなく長く感じられた。前回の経験など霞んでしまうほどのスリル。俺はただ風を切る音と、自分の叫びが空に溶けていくのを感じるだけだった。


先ほどまで考えていた小細工が、馬鹿らしく思える。


「最高だ……」


「ざけんな!!」


地面に降り立つなり、響の罵声を浴びた。まあ、普通に考えれば当たり前だ。


「普通にやるより面白かったろ?」


「頭のネジぶっ飛んでるだろ……」


響は呆れた様子でゲンナリしている。


そんな俺たちのやり取りをよそに、後から鈴木がジップラインで降りてきた。


「いや、ホントこれスリルありますね!!」


「だろ?安全器具なしで降りるスリルってのは、落ちたらヤバいって思いがスピード感を倍増させるんだよな!」


「お前もかよ!!」


どうやら俺たちに触発されたらしい。鈴木もスタッフを無視して無茶な降り方をしたらしく、妙にテンションが高い。


「これ、2回目やりたくなるよな」


「わかります!下手な絶叫アトラクションより全然面白いですよ!」


「いや、以後出禁だろ……」


俺たちのテンションが最高潮に達する中、響はため息をついて呆れ果てている。


そこへ、椿芽と若狭さんがジップラインで降りてきた。


「お、お前ら……なんてことを……」


若狭さんは青ざめながら俺たちに詰め寄ってきたが、その足元はふらついている。


「スタッフさん……めっちゃ怒って……たぞ……」


叱りたいのは分かるが、そんな余裕すらなさそうだ。


「若狭、まず深呼吸だ。おい、ふらつくな、危ねえって」


響が慌てて若狭さんを支える。


その間に椿芽が俺に歩み寄ってきた。


「ねえ……悟くん」


「な、なんだい椿芽さん……」


普段と変わらない笑顔だが、その表情がなぜか異様に怖い、怒りを超越した”無”のオーラを放つ椿芽に、俺の背中には嫌な汗が滲む。


「さ、さすがに男女で降りるのはまずいじゃんね?」


「……」


「あのままだと、そのまま二人で行っちゃうと思ったから今回は止めたんだ。けっっっして邪魔するつもりじゃなかったんだ!信じてくれ!!!」


どう考えても苦しい言い訳だが、俺は命が惜しいので本気で訴える。実際、邪魔する気満々だったのは事実だが……。


「むぅ……確かに男女はまずいよね」


「だろう? ま……まだ午後のイベントもあるし、健全にアピールしてみよう!」


「うん……そだね」


椿芽は元の雰囲気に戻り、俺の強張っていた背筋はようやく解ける。


「じゃあ、まずカレー作りしに行きましょ!」


「うん!ひーくんにいいところ見せないとね!」


椿芽が再び笑顔で言い放つ。だが、その背後から、突然肩を叩かれた。


「カレー作りもいいが、まずは話を聞かせてもらおうか、佐藤……」


「え……?」


振り向くと、そこには学年主任の先生(ガチムキ)が、超絶怖い笑顔で立っていた。


「言い訳は……?」


「聞かん」


「ちょ、そこは言い訳だけでも聞いてぇぇえええ!」


俺の悲鳴もむなしく、学年主任に担ぎ上げられ、そのままどこかへ連れて行かれた。


(ジップラインより、この人のほうがよっぽど怖えぇぇぇ!!)

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