第12話 2人の過去


委員会が終わり、俺たちは校門へ向かって歩き出す。ようやく長い一日が終わったと思うと、思わず口からため息が漏れる。


「やっと終わった」


隣で歩いていた椿芽が微笑んで俺を見た。


「悟くん、お疲れ様」


彼女の言葉に、少し疲れが癒やされる気がする。


「響の方はもう終わったかな?」


そう言いながらスマホを取り出し、響に委員会が終わったかメッセージを送ってみる。俺たちが帰路についているこの時間、あいつならもうさっさと帰り支度してるかもな。


椿芽が微笑みながら言った。「うーん、もう帰ってるんじゃないかな」


予想通り、すぐに響から返信が来た。画面に映し出されたのはあっさりとしたメッセージ──「先帰ったわー」。


「あいつ、帰ってやがって」


内心で薄情なやつめと思いながら、椿芽を見ると、彼女はどこか得意げに「ほらねー」と笑っている。


「てか、なんでわかったんだ?」


「幼なじみだからねー。何となくでわかるよ」


彼女はそう言って、俺に向けてにっこりと微笑む。その柔らかな表情を見ていると、俺も少し照れくさくなって視線をそらした。


俺が何気なく訊ねると、椿芽は少し懐かしそうに目を細めた。


「えーと、小学2年生の時に私がこっちに来たから、その時からかな」


俺は思わず「それは長いお付き合いだな」と呟く。


「うん、もう大体何考えてるかわかっちゃうもんね」


そう言って微笑む椿芽。その横顔には、どこか安心しきった雰囲気が漂っている。


「そりゃあ、あんな夫婦漫才できるわけだ」


俺がからかうように言うと、椿芽は少し恥ずかしそうに笑った。


「私、引っ込み思案だったからクラスで馴染めなかったんだけど、いつもひーくんに助けてもらって……」


椿芽は少し恥ずかしそうに笑いながらそう言った。俺は思わず「そうなんだ、意外。今じゃ普通に喋れてるよ」と返す。


「ううん、あの頃よりは少しマシになったけど、やっぱり初対面の人だったり、あまり関わらない人だと緊張しちゃう」


椿芽はそう言って、ほんの少しだけ視線を下に落とした。今では周りとも馴染んでるように見えるけど、昔は違ったんだな。俺が「俺と出会った時は普通そうだったぞ?」と不思議そうに言うと、彼女はふっと顔を上げ、優しく微笑んだ。


「それはね、ひーくんが一緒にいたから」


その言葉に、どこか響への信頼や安心感が滲んでいるのを感じる。彼が隣にいることで、自分を出せるようになったんだろう。長い付き合いだからこそ、椿芽にはそういう響への思いがあるんだと、なんとなく俺にもわかる気がした。


「響のこと信頼してるんだな」


俺がそう言うと、椿芽は迷いなく「うん! 私のヒーローだもん」と笑顔で答えた。その顔はどこか誇らしげで、少し照れくさそうにも見える。


「そっか」

 俺はそう短く微笑み返した。


いつの間にか、俺たちは最寄り駅に着いていた。駅前で立ち止まり、椿芽は俺に向かって小さく頭を下げる。


「駅まで送ってくれてありがとう。また明日ね」


「ああ……また明日」


そう答えると、椿芽は振り返り、駅の中へと歩いて行った。彼女の小柄な後ろ姿が人ごみに紛れるまで、俺はそのまま立ち尽くし、見送っていた。




 夜もすっかり更け、家の静けさが染み入るようだった。そんな中、俺はいつものように筋トレに励んでいた。腕立てを数えながらフォームを意識していると、突然スマホがピロロンと鳴る。


「ん、響からか」


画面を見ると、昼間話していた件についての詳細が送られてきていた。そこには響の家の住所と、決行する日の予定が記されている。俺は「了解」とだけ返して再びスマホを置いた。


「さて、今度の週末は早起きになるぞ」


心の中でそうつぶやきながら、再び筋トレを再開する。体の筋肉が張る感覚が、なんとなくいい心地に感じた。

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