ラブコメ学園の教師です。最近、転職サイトに登録しました。
雛田いまり
第1話 ラブコメクラスの担任は辛いよ
社会人2年目。
それは色々と趣気深い年ではないだろうか?
世間一般から考えればペーペーもペーペーだ。
だがしかし、もしそいつが大卒であるならば、大学生活という名のモラトリアム期間で得た甘えを若干残しつつも、社会の厳しさの1割程度は体験した頃合い。
若造が、たった1割で何を知った気になっているんだ?
そう思う方もいるだろう。
ご意見はご尤も。
だが、よく考えて欲しい。
それまで学生でぬくぬくと動物園のパンダよろしく大事に大事に育てられてきたのだ。
それが卒業した途端、ジャングルという名の社会に行かされるのだ。
笹も生えてんのか生えて無いのか分からないし、自分を食い物や玩具にしようとしてくる虎や密猟者だってウジャウジャいる。
そんな中、1年間耐えたのだから1割くらい知ったかしても許されるはずだ。
そんな風に悪く考えているのはお前だけだって?
まぁ、中にはやれる仕事が増えてきた事や後輩とか部下を持つなんて事に無駄にワクワクしてる奇特なやつもいるだろう。否定はしない。でもそんなのは少数だ。
大半の2年目社会人は、これが後何十年も続くのかと絶望している。
もしくは、もう少しマシな環境へと身を置くために資格の勉強やら転職を考え始めているかもしれない。
つまり何を言いたいかと言うと‥俺も1年は耐えたし教師辞めても良いよね?
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不来方廉様‥末筆になりましたが、貴殿の今後のご活躍を心よりお祈り申し上げます。
スマホに届いていたメールには何度も見た定型文があった。
これで何度目だろうか。
そこらへんの祠よりもお祈りされている自信があった。
いや分かる。
入って2年目で辞める人間を採用するのは企業だって色々躊躇するだろう。
でも、こうも続くと流石に萎える。
紹介してくれた先輩にも申し訳ない気持ちに‥ならねぇわ。
うん、ならない。
とはいえ月曜日だと言うのにため息が出そうだ。
しかし、それをグッと堪え、仕事モードへと自分を切り替える。
気持ちとしてはもう1人の人格に切り替えるイメージだ。
そうもう1人の僕だ。
別に古代エジプトのファラオが持っていたパズルを解いたわけでは無いけれど、そうしなきゃやってられない。これは社会人をやっていく上での必須スキルだ。
よく面接に来た就活生が、御社に入る前に身につけておくべきスキルや勉強しておくことはありますか?なんで質問をするが俺ならこう答える。
そうですねー、自分の中に仕事させるもう1人の自分を作っておきましょう!
そうすれば、辛いことがあってもそいつに丸投げです。
おすすめは、最強のもう1人の僕か、マイ○ロですね、あいつら無敵です。
きっとそれを聞いた就活生はその場ではドン引きしつつも、数年後には俺に感謝の念を持つだろう‥。
そんな馬鹿なことを考えているうちに、予鈴のチャイムが廊下に響いた。
そこらかしこの教室から椅子を引く音やら生徒達の足音が聞こえる。
その中でも一際慌ただしい教室が1つ。
2~F。
俺の受け持ちのクラスだ。
一向に止む気配のない喧騒に一抹の不安が過ぎる。
しかし、逃げることは許されない。
俺は教室プレートを眺めながら、教室の扉に手をかけた。
そしてすかさず、もう1人の自分へと語りかける。
(準備は大丈夫か、もう1人の僕?)
繊細な少年の心を持った自分が問いかける。
(ハハ、任せろ相棒。ガキなんて一捻りだぜ)
それに、自信タップリといったもう1人の俺が答える。
やはり相棒は心強い。
これなら大丈夫そうだ。
そうして心の準備も終わったところで、意を決して教室の扉を開いた。
そこには何の変哲も面白味も無い平凡なクラスの姿が‥。
「あんたもうSHRなんだから要から離れなさいよ!」
「何であなたに指図されなきゃならないんですか?ねぇ、義兄さん?」
いや離れろよ。
SHRだって言ってんだろ。
しばくぞ。
「皆月、今日の放課後空いてるか?うちがグループ企業がやってるクルーズディナーがあるんだが、どうだ?」
「私に構わないでください。一般家庭出身の私と八代くんでは住む世界が違うんですから」
クルーズディナーってお前、放課後に行く規模感じゃねぇだろ。
てか、誘うの今じゃなくいいよ。
しばくぞ。
「‥ギリギリ間に合ったー!!」
間に合ってねぇよ!
あと声でけぇ。
てか、何でお前いつもボロボロなんだよ。世界でも救ってきたんか?
今目の前で困っている俺も救ってくれよ、しばくぞ。
「‥うわ‥最悪」
こっち見て呟くなよ。
泣いちゃうだろ。
あと、お化粧とか見えないところでやってくれない?
注意しなきゃいけなくなるじゃん。
いつも通りの風景だ。
他クラスはどうか知らないが、これがうちのクラスの日常だ。
なんか知らないけどラブコメしてる奴もいれば。
ちょっと前の少女漫画みたいにイケメン財閥御曹司が特待生地味子にちょっかいかけてるし、世界救ってる奴もいるし、教室の至る所で自分達だけの世界を展開している男女とか‥etc.etc.。
挙げ出したらキリがない。唯一、普通と言えばこっちを見て嫌な顔をするギャルだけ。
俺が社会人2年目にして転職活動に勤しんでいた理由も分かるだろう?
そう俺は辞めたいんだ。
この青春ラブコメ学園の教師を‥。
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