場所を間違えたテンプレ

第1わ 

 で、クローゼットダイブしたわけだが。



 どこだここは?

 死ぬほど暗い。

 というか、多分光がない。


 なぜ視覚が機能しているのかは分からんが。



 耳を澄ますと、クチクチ、という音が聞こえる。


 生理的嫌悪感を覚える、不快な音だ。

 俺はここまで不快な音を聞いたことがない。



 その不快さに、俺は音がした方へ右手を向け、スキルで攻撃を飛ばす。



 「"シャドーカッター"」



 使い方は、本能的に理解できた。

 今までできなかったのが不思議なくらいに。


ーギシィイイイイイ


 再び気持ちの悪い音が聞こえてくる。が、今度は、苦しんでいるかのような、悲鳴じみた音だ。



 音の方へ近づく。

 不快だし、生き物だったら駆除せねば。


 すると、そこには大きな蜘蛛がいた。



 「キャアアアアアアアアア」


 「キシィィイイイイイイイ」



 ……ハッ。

 ここはどこだ?



 目覚めたら知らない場所にいて……いや、く、蜘蛛だ、蜘蛛が出たんだ!



 あいつはどこだ?

 まさか、あんなものが出てくるなんてっ。

 いくらなんでもデカすぎる。

 170ある俺の身長より体高が高かったんだぞ?


 あんなのは無理だ、俺ではやれない。


 きっと、右手も見つけられないままここで死ぬんだ。



 俺は、このとき初めて挫折というものを味わった。


 両手で頭を抱え、悔しさに唇を噛み締める。

 俺は、俺は……なんて無力なんだ。



 大体、なんで外骨格であそこまででかくなれるんだ!潰れるだろ、普通!


 もっと言えば、肺がないのに、酸欠にならないのも、体液が赤いのもおかしい!あれは化物だ!



 「……ふぅ」



 一旦落ち着く。


 と、あることに気付いた。



 「いや、だったら虫じゃなくね?」



 ……。


 ………。


 ……………。


 …………………。



 さあ、虐殺の初まりだ。



 ♤♤



 よし、さっきのところまで戻ってきた。

 さすが俺、神に愛されている。


 適当に歩いてただけで戻ってこれた。



 蜘蛛(笑)を探す。

 いた。さっき少し切った蜘蛛だ。



 「くっくっく。ははははは、はーっはっはっは!

 "ダークアロー"ダークアロー""ダークアロー"ダークアロエ"ダークアロー""ダークアロー"」



 積年の恨みぃ、今晴らすときぃ!



 「キシ!?キシャ!!キィィィイ、イ、ィ」



 フッ、なす術もないようだな。

 しばらく痙攣していた蜘蛛(やはり虫じゃないな!?)が完全に動かなくなるのを確認する。



 さて、俺の右手を探しに……。



 「!」



 そういえば、さっき、頭を抱えたとき。あれ、両手で抱えてたよな?

 魔法も、思えば右手を掲げて出してた。



 拍子抜けだ。

 なんだよ、右手戻ってたのかよ。



 後は脱出するだけじゃないか。



 出口を探すべく、歩き出す。

 来た道には分岐点がなかったので、前に進む。



 そうしてニ分ほど歩いていると……



 「キシィイシュ」



 あの蜘蛛もどきが現れた。


 よし、駆除だ。

 一匹目のときは動揺していて使えなかった他のスキルも使ってやるか。


 俺が使うんだし、スキルも喜ぶだろ。



 「ビンタを解放するときが来た」



 体液が沢山ありそうな見た目をしている。

 叩いたら飛び散るだろう。

 保護術で手の平を守る。


 手ぶらで、なにか保護に使うものは持ち合わせていなかったが、そこは魔力で代用した。


 やる前に、挨拶くらいしてやるか。



 「おい、お前。お前の仲間にはお世話になった。記念すべきビンタ一号に──」


 「キシ!」



 ついでに俺が冥土の土産に栄誉を教えてやろうとしたら、蜘蛛もどきが急に襲いかかってきた。


 ち、これだから低能は。



 「"ビンタ"」



 ちなみに、スキルは口に出さなくとも使える。



 俺の、完璧なフォームで放たれたビンタが蜘蛛もどきに炸裂する。


 今思えば、あの頃の俺は未熟だった。フォームも威力も速度も駄目。ハエを叩けたというだけで有天頂になって。

 だが、俺は、そして俺のビンタは、進化した。

 ほら。


ーポンッ


 握って開ける飴玉袋のような音を立てて、蜘蛛もどきが爆発する。

 フォームも、威力も、速度も、申し分ない。


 そして変な体液が飛んでくるが、保護術のおかげで俺にはかからな───


ーペチャ


 「ああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」



 くそ、手しか守っていなかった!


 失敗した!しくじった!ミスった!



 「……?」



 待てよ。

 よく見たら、これが血に見えてきた。


 試しに舐めてみる。



 「うまい!」



 これは、血だ。

 今までは嗅がないようにしていたが、匂いも血だ。自然と唾液が出てくるくらいい匂い。



 そんな風に夢中で飲んでいると、声が聞こえてきた。



<'暴食'により、対象から一部のステータス、スキル、特性を喰らいます>



 なるほど。

 そういう感じか。



 「статус(ステータス)」



──────────────────────握屋 結生

 種族 : 吸血鬼ヴァンパイア(?)

 レベル : 1


 ジョブ : 暴食の大魔王


str   1260

vit 630

int  1926

mgd  1296   

agi  1926

dex  1260 +10

luck  99999999999999999999999999999999


スキル▼

 {ビンタ(神速)LV.max}

 {ティッシュ流格闘術LV.max}-{糸ティッシュ化}

 {保護術LV.max}-{魔力纏}

 {魔力超精密操作LV.1} {影操術LV.1}

 {超再生LV.1} {魔力超回復LV.1}

 {悪魔召喚}ー{悪魔使役LV.1}-{悪魔憑依LV.1}


 {吸血}ー{吸収LV.1}-{従属LV.1}-{魅了LV.1}

 {闇魔法LV.1} {血液魔法LV.1}


特性▼

赤目 夜行性リヴィンナイト クロヴ•イリ•スミエット

霧化 血液操作

天然鉤縄クライム•アズ•スパイダ


 

固有スキル▼

 {暴食}ー{第一権能}-{第二権能} 

 {魔法奪取} {魔術}


称号▼

 先駆者ex+ 堕ちた大英雄 暴食 革命者

ビンタを極めし者 幸運の女神に愛されし者

──────────────────────



 新しい項目が増えている。


 いや、吸血は特性に含まれないのか?



 まあ、とりあえず詳細だ。



 ──────────────────────

 赤目

虹彩が深い赤色になる


 夜行性

日光を浴びると弱化し、体力が削られていく

月光を浴びると強化し、体力が回復していく


 クロヴ•イリ•スミエット

血か死か

一定期間以上血を接種しなければ死ぬ


 霧化

霧になれる

質量はそのまま

霧は血である


 血液操作

血液を自由自在に操れる


 天然鉤縄

壁を登れる

──────────────────────



 最後のが喰らったやつか。

 正直、微妙だな。


 ステータスの上がり方も微妙だが、蜘蛛が雑魚だったからかもしれない。



 しかし、血液操作や霧化などの特性はなんとなく分かっていたが、まさか目が赤くなっていたとは。


 黒いカラコンが必要だ。



──────────────────────

 魔力纏

魔力で身を守る

攻撃に応用することも可能


 糸ティッシュ化

糸を生成し、それをティッシュに加工できる

──────────────────────


 糸ティッシュ化。

 ティッシュ流格闘技の強さは不明だが、あるに越したことはない。

 いつかは使えるだろう。


 魔力纏は、本当にいらない。保護術で十分だ。

 なんの需要があるのか。



 確認もすんだ。

 進もうとすると、あることに気付く。



 「フッ、俺の目は誤魔化せないぞ」



 レンガの壁に、四角い線がある。

 テトラクロマティックグリーンだが、俺には 分かる。



 「破ぁ!」


ーボコッ


 かなり固いはずの壁に穴が空き、部屋に繋がる。

 やっぱりな。



 中に入ると、そこには青白い光を放つ、清潔な土台があり、その上に黒い細い棒があった。


 なぜだかとても引き込まれる。

 一応言うが、俺は収集癖があるわけでもない。


 その衝動に突き動かされ、台の上の棒を手に取る。

 ひんやりしていて、引き寄せられるような引力というか、存在感というか、そんなものが感じられる。



 すると、棒が吸い込まれるようにして俺の手の平に沈んでいく。



 「くっ」



 慌てて外そうとするが、一瞬で完全に侵入してきた棒を止めることは叶わなかった。



<第一わ目の封印を吸収しました>


『一部の封印が解かれました。重なりが広がり、ダンジョンの規模が増えます』



 なんだ?


 封印って棒のことか?

 吸収していいのかよ。



 というか、やたらに背中が重い。

 あの広辞苑のせいではないと思うが……。



 「!?」



 そう思い、何気なく肩に手をまわすと、そこにはあるはずのない感触があった。


 さらに手を動かしてみると、肩甲骨らへんから翼が生えていることが分かった。


 しかも、よくあるコスプレみたいな作り物じゃなくて、ちゃんと感覚がある体の一部だ。

 それだけでなく、自分の意思で動かせもする。



 なんだこれは?



 「なんだこれは?」



 ………なんだ、これは?



 いや、それより大切なのは消せるかどうかだ。

 このままでは、日常生活すら難しいだろう。



 なんとなく消えそうな動かし方をする。


 だが、焦った割にはあっけなく翼の感覚がなくなる。

 成功したようだ。



 これでひと安心だな。



 気を取り直して、まずはステータスの変化でも確認するか。

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