第25話 傷付いた心
【ハーモニー社・エレベーター】
夜遅くまで仕事をしていた真彩。
真彩、一人、エレベータに乗り、一階のボタンを押す。
真彩(心の声)「ふぅ……どうなる事やら? パパとママの耳には入らないで欲しいけど……」
真彩、朝の出来事を思い出し、溜め息をつく。
真彩(心の声)「もうちょっと言葉を選べば良かった……捨て子は、私だけじゃないのに……この世に生まれて来ちゃーいけない子なんている訳ないのに……皆んな、意味があって生まれて来るのに……何て失礼な事を……」
自分の失言に、かなり落ち込んでいる真彩。
真彩(心の声)「あーぁ、自分の事しか考えてなかった……私と同じ、世の中の捨て子の皆さん、本当にすいませんでした。あれ、皆を発奮させる為の仕掛けの一つなんです。どうかお許し下さい……」
真彩、自分が言った言葉を思い出し、しょんぼりする。
【エントランス】
一階に着き、エレベータを降りる真彩。
エントランスを歩きながら、お気に入りのG-SHOCKの腕時計を見る。
真彩(心の声)「もうこんな時間か……疲れた……」
【裏出入口】
裏出入口の所に居る警備員に、挨拶する真彩。
真彩「お疲れ様です」
と言って、笑顔で警備員に会釈する。
警備員「お疲れ様です。お気をつけて!」
と言い、警備員も真彩に会釈する。
そして、自分のバイクを置いている駐輪場に向かう真彩。
薄暗い駐輪場に、人影を発見する真彩。
警戒しながら、その人影をじっと見ている。
若い男が立っている。
しかし真彩、その男の存在を無視して、自分のバイクが置いてある所に一目散に速足で向かう。
すると、
若い男「真彩!」
と、真彩を呼び止める声。
真彩「……」
聞き慣れた声に、真彩、ドキッとして、立ち止まる。
しかし、真彩、直ぐにまた歩き出す。
自分のバイクの所に来ると、照明の灯りで明るい。
目の前に若い男が現れる。
若い男は、真彩の兄である悠斗だった。
悠斗「なぁ、真彩、話しよ?」
真彩「話す事なんて、何も無いです」
悠斗「お前なぁー……なぁ、ちょっと遣り過ぎじゃないか? 早く黒字化にしたいのは分かるけど、自己犠牲は止めろ! もうちょっと慎重になれ!」
真彩「ほっといてよ! 私が何しようと私の勝手でしょ?! 貴方には関係ないでしょ?! もう私に近付かないで! 顔見たくないんだから!」
真彩、怒った感じで言う。
悠斗「あぁ……真彩……」
悠斗、悲しそうな顔をする。
真彩、それ以上何も言わず、バイクに鍵を刺し、座席内収納のヘルメットを取り出して装着する。
そして、手袋をはめる。
バイクを動かす真彩。
悠斗「なぁ、本当に無茶するなよ?!」
悠斗、真彩をじっと見る。
真彩「……」
悠斗、真彩が握っているハンドルを、抑える。
悠斗「なぁ、今度ゆっくり話しよ?」
真彩、悠斗を見る。
真彩「話なんてないです! もう、ここに来ないで! さようなら!」
悠斗、ハンドルを抑えていた手を離す。
そして真彩、スタータースイッチをONにして、エンジンを掛け、ふかして去って行く。
悠斗(心の声)「……ホントにもう……ゴンタだなぁー……なんて強情なんだ……」
真彩の後ろ姿をじっと見詰める悠斗。
しかし、
悠斗「ふっ……」
と、不敵な笑みを浮かべる悠斗。
【高槻レオマンション・806号室】
真彩、家に帰り、夜景を見ている。
真彩「雨にも負けず、風にも負けず、雪にも夏の暑さにも負けぬ丈夫な体をもち、慾は無く、決して怒らず、いつも静かに笑っている」
涙が頬を伝わり、言葉に詰まる。
真彩「東に病気の子供あれば行って看病してやり、西に疲れた母あれば行ってその稲の束を負い、南に死にそうな人あれば行って怖がらなくてもいいと言い……」
涙が沢山流れ、言葉に詰まる真彩。
真彩「みんなにでくのぼーと呼ばれ、褒められもせず苦にもされず、そういうものにわたしはなりたい……」
真彩、しばらく沈黙。
真彩「I should not have been born? 私を産んだお母さん、教えて下さい……」
真彩の目から、より一層、涙が溢れ出る。
【MZCマンション・509号室】
MZCマンションは、会社の独身男性寮で、509号室は、悠斗の部屋だ。
近くに大きな一戸建ての実家があるのだが、住所が一緒だと、社長の息子というのがばれてしまうので、ここに住んでいる。
悠斗が社長の息子であるというのは、一部の人間しか知らない。
独り暮らししているお蔭で、料理、掃除の腕が上がった。
棚の上に、額に入った写真が立て掛けてある。
家族で撮った写真と、真彩を後ろからハグして撮った写真や、真彩との仲睦まじい様子の写真が飾ってある。
写真の真彩を、じっと見詰めている悠斗。
悠斗「真彩‥‥‥」
【高槻レオマンション・806号室】
インターホンが鳴る。
TVモニターを見ると、母親である亜希が画面に映っている。
真彩「あぁ……」
× × ×
ドアを開け、亜希を迎え入れる真彩。
真彩「こんな遅くにどうしたの? バイクで来た?」
亜希「うん、バイク」
そして、リビングに行くと、亜希、テーブルの上に、保冷バッグから取り出したタッパを置く。
亜希「晩御飯、ちゃんと食べた?」
真彩「今、ビールとカシューナッツ食べた……」
亜希「やっぱり。そんな事だと思った。真彩の好きなスモークサーモンとアボカドのサラダ作ったから、ちょっとでも食べたら? 明日の朝でも良いけど……」
真彩「有難う……ママ……」
亜希「秘書さんから聞いたよ。今日、大変だったんだってね?……」
真彩「あぁ、別に大変だった訳じゃないよ……」
亜希「そうなの?」
真彩「唯、こっちの必死さを、涼しい顔してる連中に知って貰いたかったから……」
亜希「わざと言ったんだね?……」
真彩「うん。仕掛けた……」
と言って、頷く真彩。
亜希「でも、言った本人が傷付いちゃった訳だ……」
真彩「自分と同じ境遇の人が沢山いるのに、大勢の前で、この世に生まれて来ちゃーいけない子だなんて言っちゃって……反省してる。自分は良いんだけどさ……」
そう言うと、真彩、口をつぐむ。
すると、亜希、真彩を抱きしめ、頭を軽くポンポンする。
亜希「もうー、そんなに落ち込まないの! でも、これからは言葉をもうちょっと選んで言った方が良いね」
真彩「うん……」
亜希「悠斗も心配してたよ?!」
真彩「?……」
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