第10話 命の尊さ
【高槻駅 構内】
朝、高槻駅に向かって、真彩と優衣、颯爽と歩いている。
優衣「午後からは二店舗行きますけど、体調大丈夫ですか???」
真彩「うーん、何だか気分が塞いでます。負のオーラ、感じてます……」
真彩、誰も居ない所を見詰めながら、意識を集中させている。
優衣「えぇっ?……大丈夫ですか???」
優衣、真彩を見詰める。
真彩と優衣の前に、井上沙耶(28歳)と、息子の賢人(5歳)の母子が歩いている。
真彩と優衣、二人を追い抜き、駅構内に着く。
すると真彩、急に立ち止まって、優衣に、
真彩「ちょっと待って貰えます?」
と、言い出す。
優衣、訳が分からなかったが、真彩の様子が変なので、真彩の指示に従う。
そこに、井上沙耶と賢人の親子がやって来る。
そして真彩、沙耶に声を掛ける。
真彩「こんにちは! どこ行かれるんですか?」
と、微笑みながら沙耶に言う真彩。
真彩(心の声)「あっ、変な聞き方しちゃった。不審者と思われるよなぁ……」
沙耶「えっ???」
沙耶、見ず知らずの真彩に不信感を抱き、真彩の言葉を無視して逃げ去ろうとする。
すると真彩、すかさず沙耶の腕を掴む。
沙耶「えっ? 何ですか? 離して下さい!」
沙耶、いきなり真彩に腕を掴まれ、驚く。
すると優衣、機転を利かせて咄嗟にしゃがみ、賢人の目線になり、賢人に優しく話し掛ける。
優衣「ねぇ、君は何ていう名前ですか?」
微笑みながら優しく、ゆっくりとした口調で聞く優衣。
すると、
賢人「……いのうえけんと」
と、直ぐに答える賢人。
優衣「けんとくん? カッコいい名前だねー。けんと君は、何歳ですか?」
賢人「四歳。あっ、昨日五歳になった……」
と言って、片手を出してパーをして、可愛い指で五歳を強調する賢人。
優衣「じゃー、ママの名前、言えるかな?」
と、首を傾げて、優しい笑顔で聞く優衣。
すると賢人、頷き、
賢人「うん。『いのうえさや』」
と、笑顔で言う。
賢人と優衣の遣り取りをじっと見ている真彩と沙耶。
真彩「沙耶さん、ちょっとお話ししません?」
すると、沙耶、
沙耶「……忙しいんで離して下さい!」
と、嫌悪な顔で言う。
真彩、沙耶の顔をじっと見詰める。
そして、
真彩「この手、絶対に離しません。早まらないで下さい。命を大事にして下さい。子どもを道連れになんて、止めて下さい!」
と、真彩、真剣な顔で沙耶に言う。
すると沙耶、
沙耶「えっ?……」
と、驚いた顔をして、真彩を見る。
沙耶、真彩に自分のこれからしようとしている行動を言い当てられ、力が抜け、倒れそうになる。
直ぐに、真彩が沙耶を抱き締める。
沙耶、人目をはばからず、泣き出す。
優衣、目の前で起こっている事態に驚きを隠せない。
オドオドする優衣。
沙耶が泣いているのを見て、賢人も泣き出す。
優衣、賢人を抱き締める。
【真言密教寺院・真正寺】
高槻駅から程近い所にある、真言密教寺院・真正寺の門前に、真彩と優衣、そして、沙耶と賢人がタクシーから降りて立っている。
真彩「ここ、祖父のお寺なんです。母も居るんで、ちょっと休んで行って下さい。心、落ち着きすから」
と言って、沙耶と賢人を案内する真彩と優衣。
× × ×
真正寺の御宝前、不動明王の尊前に正座している真彩と沙耶。
沙耶の姿が見える、ちょっと離れた所で、優衣が賢人の面倒をみている。
目を瞑り、真言を唱える真彩。
密印を結び、み仏と入我我入する。
そして、沙耶の目の前に行き、膝と膝を突き合わせる。
真彩の母親である中村亜希(53歳)が改良衣姿で、二人の近くで一緒に祈っている。
そして、真彩と亜希、同時に目を開ける。
真彩「辛かったですね……」
と言って、沙耶の頬に、右手でそっと触れる真彩。
沙耶、真彩の手にビクッとなる。
真彩「この青あざ、昨日、叩かれてテーブルの角で打ったんですね。痛かったですね……」
沙耶、昨日の出来事を真彩に言い当てられ、驚く。
そして、頷きながら涙を流す。
真彩「誰にも相談出来なかったんですね。でも、もう大丈夫ですよ。これからは明るい道へと仏様が導いて下さいますから」
沙耶、初対面の真彩に心を許し、自分の身に起こった色々な出来事を、涙ながらに話し始める。
亜希も真彩の横に来て、沙耶の話を親身になって聞いている。
沙耶が話し終わると、真彩が亜希を見て、
真彩「あの、この人は私の母です。何かあったらここに来て、母を頼って下さい。私も頼ってます」
と、沙耶に微笑んで言う。
亜希「沙耶さん、心が楽になったでしょ? 頬の痛みも治まったでしょ? 真彩が仏様にお願いして、痛みを取って頂いたから。青あざも、もう直ぐ消えますからね!」
と、ゆっくりとした口調で、優しい笑顔で言う亜希。
沙耶「えぇ?……」
亜希の言葉に、驚いた顔をする沙耶。
そして、痛みのあった頬を触る。
沙耶「あっ……?」
真彩「ママ、ゴメン、今から二店舗回らないとダメだから、後、お願い出来る?」
と言って、亜希に合掌する真彩。
亜希「はい、勿論。頑張ってね!」
亜希、真彩に微笑む。
正座していた真彩、立ち上がろうとする。
そして、その時、沙耶の肩に、自分の右手を置く真彩。
真彩「子どもは、自分の所有物じゃないですよ?! み仏様からお預かりした、大事な、大切な存在なんです。忘れないで下さいね。頑張って、最後の最期まで希望を持って生き抜くんですよ! 人生は、死ぬまで修行なんですから!」
真彩が優しい口調で言う言葉を、頷きながら、しっかりとお腹に落とす様に聞き入る沙耶。
沙耶「……はい……すいません……有難うございます」
と言って、三つ指ついて、真彩に礼を言う沙耶。
そこに、ちょっと離れた所でお絵描きしていた賢人が、走ってやって来る。
そして、賢人の面倒をみていた優衣も、笑顔でやって来る。
賢人「ママ、描いたよー!」
と言って、賢人、風景画を描いた画用紙を沙耶に見せる。
沙耶「えぇー? 凄い! 上手ー!」
と言って、笑顔で賢人を褒める沙耶。
すると、
賢人「おばちゃんが手伝ってくれた」
と言って、優衣を指差す賢人。
優衣(心の声)「おばちゃん?……」
真彩(心の声)「おばちゃん……(笑)」
沙耶、優衣に頭を下げる。
沙耶「有難うございます……」
優衣「いやいや、賢人くーん、おばちゃんじゃなくて、お姉ちゃんでしょ?」
と、優衣、面白可笑しく言う。
真彩「まぁ、賢人君にすれば、おばちゃんだよ。ねぇー、賢人くん!」
賢人「うん」
と、賢人、訳が分からず返事をする。
真彩、亜希、笑う。
それに釣られて沙耶も、クスッと笑う。
【真言密教寺院・真正寺・門前】
門前に立ち、タクシーアプリを使って既に手配済みのタクシーを待つ、真彩と優衣。
真彩、腕時計を見る。
真彩「二店舗回れるかなぁ? 空飛ぶ自動車とバイク、早く普及して欲しいわ……」
優衣「あぁ、でも、庶民に普及するのはもっともっと先とかじゃないですか? 色々難しい問題あるから……」
真彩「だね。航空法改正からだもんね……でも、早く空飛ぶ自動車、運転したいわぁー」
優衣「えぇ?……私は怖いから無理です。カナダでヘリコプターに乗った時、死ぬかと思いましたもん。あんな感じだと思うから……」
真彩「あぁ、そう言えば、ヘリ降りたら顔面蒼白だったから、ビックリしたわ……」
優衣「社長は、ジェットコースターとか苦手なのに、よく平気でしたね?」
真彩「あぁ……確かに。ジェットコースターは絶対無理だし、メリーゴーランドとかコーヒーカップでさえ、気持ち悪くなったからなぁー……」
優衣「アメリカのディズニーランド、ディズニーワールドでも、乗り物、限られてましたもんね」
真彩「あぁ、懐かしいね。自分で車を運転する様になってからはマシになったんだけど、それ迄は大変だったからなぁー」
優衣「ですね……」
真彩「酔いは、三半規管と視覚のミスマッチって言われてるからねぇー。耳と目の情報がマッチしない時、酔っちゃうんだよね……」
優衣「なのに、何でヘリコプターが大丈夫なのか、不思議……」
真彩「うーん、空、飛びたいって思ってるからじゃない?」
優衣「えぇー、という事は、スカイダイビングとか、ハンググライダーとか、出来るって事?」
真彩「うん。でも、友達に誘われてハングライダー遣りに行こうと思って計画してたら、両親と悠斗に大反対されたから、誘い、断った。残念だった。遣りたかったのに……」
優衣「あぁ……大事に大事に育ててる可愛い娘に、もしもの事があればっていう親心ですよね」
真彩「でも、そんなこと言ったら、アメリカと日本、何十回と往復してるのに? バケーションの時なんか、小型飛行機、何回も乗ってるんだけど……」
優衣「あのねー、パラグライダー、スカイダイビングとは、危険度が違いますよ! 飛行機は、最も安全な乗り物って言われてるんですよ! アメリカだったら、自動車の死亡事故が0.03%なのに対して、飛行機は 0.0009% だって、この前、話したでしょ?!」
真彩「そうだけどさぁー……あれっ? 何でこんな話になっちゃった?」
と言って、首を傾げる真彩。
優衣「社長が、空飛ぶ自動車に乗りたいって言うから……」
真彩「あっ、そっか……」
優衣「それにしても、良かったですね。二人の尊い命を救いましたね!」
真彩「うん。歩いてる時、あの方のご先祖様が訴えて来たんだよね。救けてあげて欲しいって……」
優衣「えぇ?……そうだったんだ……」
真彩「お酒飲むと暴力振るう旦那と別れて、生活苦で、生きる事に疲れたって」
優衣「わぁ……」
真彩「昨日は賢人君の誕生日で元旦那が尋ねて来たんだけど、お酒飲んでて暴力振るわれたって。普段は良い人みたいだけど……」
優衣「アル中DV男ですか……最悪じゃないですか! 別れて正解ですよ」
真彩「うん……」
優衣「あぁー、腹立って来た。そんな男、許せないです。女性を何だと思ってるんだ!」
真彩「暴力は絶対ダメです。許せないです」
優衣「でも、流石ですね」
真彩「んん? 何が???」
優衣「小さい頃からお寺で修行して来た人は違うって事」
真彩「えぇ? 私はそれが生活の一部だったからね。朝起きてママと一緒に読経して、真正寺に行って、ママがお祖父ちゃんの手伝いしてるの見て、ママの真似してたら自然と修行してたって感じ」
優衣「それで得度受戒して、神通力? 霊能力あって、ホント、凄いです。尊敬です」
真彩「いや、誰でも修行したら神通力、得ると思うけど……」
優衣「いやいや。あのねー、いくら修行しても、凡人には無理なんですよ! 貴女は選ばれし人なんです!」
真彩「そうかなー???」
真彩、首を傾げる。
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