俺のカメラを投げたのは。
千田伊織
第1話 出逢い≠良いモノ
先輩が空を飛んだ。
「きみ、ちょっとそれ貸して」
俺はただそのカメラがちょっとホンモノらしく見えたからだろう、そう思って、ネックホルダーを首から外して手渡した。
「何
彼女はふてぶてしい態度で、カメラを無造作にいじくり回す。
「橋から見える景色を……川を正面から撮りたくって」
真面目に返答したのに彼女は生返事だけをしてカメラの窓を
「あはは、面白い。思ったよりちゃんと『カメラ』だ」
「そりゃカメラなので……」
彼女は川を正面から覗き込む。
そして危なっかしくも小さな手でカメラを空に掲げる。
「ねえ、これって大切?」
「これ、ってカメラの事ですか? 大切ですよ。初めてバイト代貯めて買ったやつなんで」
彼女の猫のような口元がニヤリと歪んだ。
「そっかぁ」
彼女は覗き込むのをやめて、それから大きくカメラを振りかぶる。
「えっ」
──ぼちゃん
気づけばお気に入りのカメラは川に飛び込んでいた。
「……」
突然のことに驚きすぎて声が出ない。
「なんでこんなことするんですか」
困惑の表情のまま尋ねると、彼女はまるで正義の上の行動だという風に自信満々と答えてくれた。
「きみをカメラから救うためだよ」
これが彼女との出会いだった。
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