周りを見渡すなら、一歩前に

星咲 紗和(ほしざき さわ)

本編

日々の生活は、驚くほど単調なものになりがちだ。毎朝、決まった時間に目覚まし時計に起こされ、顔を洗い、同じ道を通って職場や学校へ向かう。そして、同じような会話を繰り返し、帰宅してまた次の日がやってくる。人はこのように、慣れ親しんだルーティンに身を委ねることが多い。しかし、ふと「このままでいいのだろうか」と考える瞬間がある。なぜなら、私たちは周りの風景や人々を、常に同じ視点で見てしまいがちだからだ。変わらない風景の中で、変化を求めることが時に難しいと感じることがある。


私がこのことを強く実感したのは、自分自身が「障害」を抱えて生きてきた経験からだ。私は発達障害や統合失調症を持ち、過去には孤立し、いじめを受けたこともある。日常の中で周りと同じ目線で物事を見ていると、自分自身の違いに目が向いてしまい、理解されないことに悩む瞬間が多かった。自分が抱える苦しみは他の人にとって見えにくいものであり、それを説明するのも簡単ではない。そんな中で、一歩前に踏み出して周りを見渡す勇気が必要だった。もし、同じ目線に留まり続けていたら、自分も他人も理解し合えないままだっただろう。


「一歩前に出る」という行動は、文字通りの物理的な動作だけではなく、精神的なステップでもある。自分の目線を少しだけ高く、あるいは低くすることで、見える景色が驚くほど変わることがある。例えば、私はトゥレット症候群と吃音を持つ友人と出会ったことで、自分の世界が一気に広がったように感じた。それまで、私は自分の悩みや苦しみを一人で抱え込んでいたが、彼女との出会いによって初めて「共感」というものがどういうものかを実感した。彼女もまた、自分の病気や症状によって日常生活で困難を抱えており、私とは違う苦しみを持っていた。しかし、お互いに違う視点を持ちながらも、その違いが理解と共感を生んだのだ。


一歩前に出て周りを見渡すと、今まで気づかなかったものが見えてくる。たとえば、何気なく通り過ぎていた人が、実は私と同じように苦しみや悩みを抱えているかもしれないという視点も得られる。同じ風景でも、違う場所から見ればまったく違う意味を持つことがある。それは、ただ自分の目線を変えるだけでなく、心を少しだけ開くことによってもたらされるのだ。


私がこの考えにたどり着くまでには、少し時間がかかった。長い間、私は周りと違う自分を責め、なぜ自分だけがこんなにも苦しい思いをしなければならないのかと感じていた。しかし、トゥレット症候群の友人との関係が深まるにつれ、私は次第に「自分だけが苦しんでいるのではない」と気づくようになった。彼女もまた、社会の中で理解されにくい部分を持ちながら、日々を生きていた。お互いの障害や困難を共有し、励まし合う中で、私は自分が少しずつ変わっていくのを感じた。


ある時、彼女と一緒にカフェで話をしていたとき、ふと彼女が言った。「私たち、周りの人から見ると、恋人みたいに見えるんじゃない?」と。実際、周囲の人々は時折そういう目で私たちを見ているようだった。しかし、私たちはただの親友であり、深い信頼関係を築いているだけだ。お互いの障害や症状を理解し、支え合うことで、特別な絆が生まれていた。彼女と一緒にいると、周りからどう見られているかはあまり気にならなくなった。重要なのは、私たちがお互いにどれだけ支え合い、助け合っているかということだ。


この経験を通じて学んだことは、自分の目線を変えることの大切さだ。同じ場所に留まり、同じ視点から物事を見るだけでは、本当の意味での理解や共感は得られないかもしれない。一歩前に出て、少し違う角度から周りを見渡すことで、見えてくるものがある。自分の位置を少し変えるだけで、全く新しい世界が広がることがあるのだ。


一歩前に出ることは、時に怖いと感じるかもしれない。慣れ親しんだ場所から動くことは、不安や恐れを伴う。しかし、その一歩を踏み出すことで、自分自身の視野が広がり、今まで気づかなかったものに気づくことができるのだ。私にとってその一歩は、障害を持つ友人との出会いであり、お互いに支え合う中での学びだった。そして、これからもその視点を大切にしながら、さらに新しい視点を求めて前に進んでいきたいと思う。


結局のところ、周りを見渡すならば、少しでも前に進んでみることが重要なのだ。立ち止まって同じ視点で見ているだけでは、今までの世界しか見えない。しかし、少しだけでも前に進み、違う角度から物事を見ることで、新たな発見や理解が生まれる。そして、それが私たちの人生をより豊かに、より深くしてくれるのだと信じている。

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周りを見渡すなら、一歩前に 星咲 紗和(ほしざき さわ) @bosanezaki92

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