困ったときの人頼み

 カタカタカタッターン!部屋の中でキーボードを叩く音が響く。いくらパソコンが使えるオーロラでも手のサイズ的にこんな素早くタイピングすることは出来ない。操作をしているのは俺だ。オーロラは細かく砕いた煎餅を口にしながらニュース番組を見ている。勿論、温かいお茶も忘れていない。

 さて、俺はというとネットで装備品について調べていた。俺なりに新しい装備を見繕うと思ったのだが……


「どうしたものかなぁ……」


 絶賛悩み中。冒険者用の装備はネット通販でも問題なく取引されているし、金額的にも問題はない。ただ、調べているうちにどうしても目につく一文があるのだ。「装備品はネットで買うより、実際に店舗に出向き、オーダーメイドで作ったほうが百倍いい!」とかなんとか。中古品を使っていた俺が言うのもなんだが、その考えは良く分かる。薬草採取と罠猟だから何とかなったが、中古品でアオオオダイショウに挑んでも即リタイアだろう。いや、少し凶暴な木々鹿にだって正面でやり合えばやられていたかもしれない。

 装備1つで大事故を引き起こしかねない。だからこそ、頑張って調べてるわけなんだけども……芳しくない。うん、一人で探すには限界がある。であれば、頼れるところを頼るだけだ。持つべきものは友――それも冒険者組合に所属している武道さんに早速相談だ!


「えーっと『求ム、装備買える所』っと。あ、返信早」

『そう来ると思ってうちの提携店で調べとる。近場で品数少ないんと、ちょっと遠方やが品数揃っとるとこ。閉店後に入れてもらえるように頼んでみるわ』

「何だあの人神か?」


 確かに尼崎さんと話しているとき、装備について話していたけれど、武道さんその時現場にいなかったよね?尼崎さんあるいは友風さんに事前に聞いてたな?どっちにしろありがたい話だから乗らせていただくわけだけど。

 となると、近場か遠方かの二択だけど……、選ぶまでもなく遠方だろう。選択肢は多い方がいいからね。その旨を返信すると、これまたすぐに「了解、頼んでみるわ」と返してくれた。んじゃ待ってる間に常備菜でも仕込んでおくかなーっと。ブロッコリーがあるな……揚げびたしでも作るか。




 昼ごはんの時間だ。今日はちゃちゃっと袋麺をつけ麺風にアレンジ。ふんだんにトッピングも載せればお店と遜色ない出来だ。オーロラも美味しそうに食べている。


「お、武道さんからだ」

「――?」

「えーっと何々?『交渉うまくいったで!その代わりうちで購入した件をTwitterなり配信で宣伝してほしいらしいけど大丈夫か?』か。それぐらいだったら大丈夫っと」


 そんなメッセージと共に、交渉に成功したお店のHPのURLが送られてきた。それぐらいはさして問題はない。ラウンダーズの千葉さんが販売しているマンガ肉も宣伝みたいなものだしね。視聴者も別に気にしない……一部気にしてあーだーこーだいう人もいるかもしれないが、構わないでしょ。

 という訳で遠方のお店に行くことに。俺もダンジョンに早めに潜りたいから出発は明日の21時となり、その際に武道さんが俺の車で俺の家まで来て、俺の家にある武道さんの車で出発することに決まった。そういや、俺だけで勝手に決めちゃったけど、オーロラはどうするかな?


「オーロラ、明日夜に俺の装備を買いに行くんだけど、オーロラも付いてくるか?」

「――!」

「OK、一緒に行こうか」


 既につけ麺を平らげ、一服ついていたオーロラは、行く気満々のご様子。しかも、行く予定のお店を聞くが早いかパソコンへ飛んでいき、店舗のホームページを開き事前調査を始めたではないか。あの、俺の装備買うつもりなんですけど……?いや、オーロラが欲しいものあるなら買うけど。ファッションショーのスパチャのお金沢山あるし。


「というか、オーロラ。調べるのは良いけど、俺が食べ終わったら皿洗うの手伝ってよー?」

「――!」


 うーむ、何だかお母さんになった気分だ。性別的には間違いはないんだけども。

 そうだ、今日の配信ではこのお店に行くことは絶対に言わないようにしなきゃな。下手したら営業妨害になりかねない事態を引き起こしそうだ。まぁ気を付けていれば大丈夫だろう。

 それにしても何だろう、年甲斐もなくワクワクしてしまうなぁ。思えば大きな装備店とか行ったことなかったか。いい装備と巡り合えればいいんだが。

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