お隣の女優とオープンキャンパスの話 三

 食券を出すと数分でトレーに載った唐揚げ定食とオムハヤシライスが出てきた。


 僕と水野さんはお礼を言ってトレーを受け取ると、空いている席を見つけ、そこに腰を下ろした。


「あっという間に出て来ましたね」


「うん、それにとても美味しそう」


 僕がその提供の早さに驚いている横で、水野さんはもう待ちきれないと言った様子だった。


 そう言えば、お腹が空いていると言っていた事を思い出した僕は水野さんに、「食べましょうか」と、声を掛けた。


 そせて、僕と水野さんは手を合わせると、「いただきます」と言って、食事を開始した。


 水野さんは早速オムハヤシライスを一口食べると、「美味しい!」と言って、顔を綻ばせた。


 そのまま食べ進める水野さんを横目に、僕も唐揚げに口を付けた。


 そして、僕はその味に驚いて身を固くした。


「……隼人君、どうかしたの?」


 唐揚げを一口食べてから何も言わなくなった僕の事を見ながら水野さんがそう言って不思議そうな表情を浮かべる。


「……この早さと値段でこの美味しさはすごいです」


 僕の物言いに興味が湧いてきてたのか水野さんは、「そんなに驚く程美味しいの?」と唐揚げを見ながらそう尋ねてきた。


「はい、正直に言って、家で作る事が馬鹿らしくなる程です」


「そんなに? ねぇ、もし良かったら一口頂戴?」


 水野さんのお願いに、「良いですよ」と言って、皿を差し出すと水野さんは、「ありがとう」と言って、唐揚げを一口食べた。


「うん、確かに美味しいね」


 やはり水野さんもそう感じるよな、と思いながら自分の料理の腕に落胆していると、水野さんは、「でも……」と言って、言葉を続けた。


「私は隼人君の唐揚げの方が美味しいと思うし、好きだけどな」


「ほ、本当ですか?」


「こんな事で嘘なんかつかないよ」


 そう言って苦笑いを浮かべる水野さんを見ながら僕は温かい気持ちになった。


「……ありがとうございます」


「どういたしまして」


 微笑みを浮かべている水野さんを見ている内になんだか恥ずかしい気持ちになってきた僕は、「さ、冷めないうちに食べてしまいましょうか」と声を上げると、食事を再開させたのだった。


「水野さん、この大学はどうですか?」


 食事を終えて一息つくと、僕は水野さんにそう言って声を掛けた。


「うん、模擬授業も楽しかったし、構内も良い雰囲気だよね」


 微笑みながらそう言う水野さんを見て、僕は安心した。


「隼人君はどう思った?」


「僕はまだあまりオープンキャンパスに参加していないですけど、水野さんと同じで好印象でした」


 僕の言葉に頷いた水野さんは、「後は隼人君と一緒に通えたら良かったんだけどなぁ」と、呟いた。


 その言葉に驚いた僕は思わず、「えっ」と、声を上げた。


「だって、同じ大学に通う事になったら、授業が終わったタイミングで美味しいご飯を作ってくれそうだし」


 その水野さんの言葉にそういう意味か、と思った僕は、「別に同じ大学に通わなくても料理を作りますよ」と、微笑みながら言葉を返したのだった。


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