お隣の女優と夏の予定の話 二
僕の言葉に、水野さんは微笑みながら、「ありがとう」と嬉しそうに呟くと、そのまま顎に手を添えて、「そうしたら、夏祭りにも行ってみたいな」と、僕の事を真っ直ぐ見ながら言った。
それは、僕に連れて行け、と言っているのだろうか、と思った僕は、「……夏祭りですか」と、慎重になりながら言葉を返した。
僕の質問に水野さんは頷くと、「折角の高校二年生の夏なのだから、青春っぽい事をしたいなって思って」と、楽しそうに言った。
先程の、『夏休み中は忙しくて誰とも予定が合わせる事が出来ない』という発言を聞いた身としては、どうにかしてあげたいと思ったが、水野さんは女優だし、それに人気もかなりある。
人混みに居たらすぐにばれてしまうのではないだろうか。
しかし、すぐに、反対に人が多いと案外ばれる事はないのか、と僕が真剣に悩んでいると、水野さんが、「あっ」と言って、何か思いついたかの様に声を上げた。
「夏祭りだったら浴衣も着たいね」
たった今ばれるばれないの心配をしていた僕は水野さんの発言を聞いて、浴衣を着たら似合い過ぎてすぐにばれてしまう、と思った僕は慌てて首を横に振りながら、「浴衣は駄目です」と、水野さんに言った。
そんな僕の言葉に水野さんは怪訝そうな表情を浮かべると、「えっ、どうして?」と僕に尋ねてきた。
反射的に否定の言葉を言った僕は水野さんの質問に動揺した。
まさか、浴衣が似合い過ぎるから駄目だとは、流石に恥ずかしくて言えない。
しかし、他に良い言葉が浮かばない僕は水野さんの疑問に答える事が出来ずに黙ってしまった。
僕のその様子に水野さんは何かおかしいと思ったのか、僕に詰め寄ると先程よりも強い口調で、「どうして、浴衣を着てはいけないの?」と、再度尋ねてきた。
その圧力に負けた僕は顔が熱くなるのを感じながら、「……その、水野さんが浴衣を着ると似合い過ぎて目立ってしまうと思ったからです」と、小声で答えた。
水野さんは僕の言葉に一瞬、驚いた様な表情を浮かべたが、「そうか、隼人君は私の浴衣姿が似合うと思ってくれているんだ。嬉しいな」と言って、顔を綻ばせた。
そして、水野さんは僕の言葉で気分を良くしたのか、満足した様な表情のまま腕を組むと、「でも、そうか、隼人君がそこまで言うなら浴衣を着るのは止めておこうかな」と、明るい口調で言った。
その言葉を聞いた僕は、いつの間にか夏祭りに行く事が決まってしまっていると思いはしたが、僕自身が水野さんと夏祭りに行ける事を楽しみに感じ始めているのと、何よりここで余計な一言を言って水野さんの機嫌を損ねる必要はないと考えた僕は、「そうですね。それが良いと思います」と言って、頷き返したのだった。
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