お隣の女優と体型の話

「いただきます」


 それぞれが手を合わせてそう言うと、本日も僕はいつも通り僕の家で水野さんと夕食を食べ始めた。


 しかし、食べ始めてすぐに水野さんの様子がいつもと比べておかしい事に気が付いた。

 まず、いつも、「美味しい」と言いながら、どんどん食べ進めているのに、今日は、その様な一言が無ければ、食べるスピードがなんだかいつもに比べて随分遅く感じる。


 それに、なんだか元気が無いように感じる。


「水野さん、体調が悪いですか?」


 そう思って、心配になった僕は、水野さんに声を掛けた。


 その言葉に反応した水野さんはゆっくりと顔を上げた。


「ねぇ、隼人君」


「……はい、どうかしましたか、水野さん」


 真剣な表情になりながら僕の名前を呼ぶ声に、やはり何かあったのだろうか、と思い、僕は身構えた。


「……その、優しさとか気遣いとか要らないから真剣に答えて欲しいのだけど…… 私って太った?」


「えっ?」


 その予想外の質問に僕はほうけた様に呟く事しか出来なかった。


 水野さんはそんな僕の様子にもお構い無しで口を開くと、言葉を続けた。


「マネージャーさんにね、少し変わったって言われたの。それって、遠回しに太ったって言っている様なものじゃない?」


 そうでない場合もあると思うが、どうやら水野さんはそう思い込んでいるようだ。


 何の悪気も無しに言ったのだろうが、僕はこの状況を生み出したと言っても過言ではない、水野さんのマネージャーの事を少し恨んだ。


 しかし、改めて見ても水野さんは太っているようにはとても見えない。


 女優だから少しの増量にも厳しいのだろうか。


「特に変わってないと思いますよ?」


「これから夏になって薄着の撮影も増えると、少しの増量も大きいからね。気を付けないと……」


 僕の言葉に水野さんは腕を組むと苦々しい表情でそう呟いた。


 確かにこれから暑くなってくると肌の露出が増えてくる。


 そうすると、少しでも肉がつくと目立ってしまうのだろう。


 僕は改めて水野さんは女優として見られる事にかなり意識をしているのだろう、と思った。


「それなら、今度から栄養の事をしっかり調べながらなるべく太りにくいご飯を作るようにしますよ。とにかく無理は体に良くないですから程々に頑張りましょう」


 何か手伝える事はないだろうか。


 そう思った僕は料理で水野さんに貢献する事が出来ると考え、その様な提案をした。


「ありがとう。隼人君のご飯は美味しくて沢山食べたくなるから、そうしてもらうと助かるよ」


 水野さんはそう言うとこちらをジッと見つめてきた。


 そうして、少し躊躇ためらいながらも口を開いた。


「ところで、その、聞きたい事があるんだけど…… もし私がぽっちゃりしても嫌にならない?」


「どんな水野さんでも嫌にならないし、良いと僕は思っていますよ」


 今度はどうしたのだろう、と思いながらも僕は自分の素直な気持ちを伝えた。


「そ、そっか。嬉しいから、一杯だけおかわりしようかな」


 すると、水野さんはそう言って少し恥ずかしそうにしながら、そう呟いた。


 どうやら今日のご飯を相当気に入ってくれたようだ。


 食べたいなら素直に言えば良いのにと微笑ましく思いながらも、僕は水野さんの茶碗を持ってご飯をよそいに行くのだった。

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