002. 現状の把握



――。




――――。




――――――ゲホッ。






……。



……生きている……これは……土?



横たわり、頬に感じる感触を確かめるのも束の間。






 ゲホッ――……ゴボォッ。






体の内から水が逆流し、口・鼻を通って体外へと排出される。




 ……くるしい……!




口腔、鼻腔への刺激で涙が溢れ出る。




 ゴホッ……ゲホッ!




体が気道から水を取り除かんとして咳嗽がいそうが止まらない。






 ――






――。



――……ケホッ。



……瞼を覆うものがまた湿り気を帯びている。




――




――――。




……まだ体のあちこちに痛みはあれど、少しだけ落ち着いてきた。






……。



……!



……そういえば咥えさせられていたものが外れている。



手首を固定していた縄は水により湿り、



締め付けは多少強くなっているものの少し解けかけている。






背中をよじり、後ろ手を必死に縄から抜け出そうともがく。



縄が擦れて痛みを感じるが、


暗闇で身動きが取れない恐怖に無我夢中で抵抗する。



渾身の力を入れて腕を伸ばしたり引き寄せたり、


あるいは捩じったりと息を切らしながら試行錯誤を繰り返す。




 ――




やっとの思いで右の手を抜くことができた。



手首が縄との擦れでズキズキと痛む。




左手に残った縄はそのままに、


すぐさま両手を使い、瞼に覆われていたものを頭方向へと追いやる。




涙と川の水とでじっとりとしているが、ざらざらした触感の布のようだ。


頭から取り外して膝の上に置き、両手で顔を拭う。











……恐る恐る瞼を開く。











――暗い。






いや、厳密には薄日が差しこんではいるが、密集した背の高い木々が陽の光を阻んでいる。


体に染みついた湿り気のある土と、そこいらに生えている草木の匂いが鼻を抜け、


遠くでは大きな川の流れる音と、姿こそ見えないが何某なにがしかのさえずる声が聞こえる。






見たことのない景色。



嗅いだことのない匂い。



聞いたことのない音。






――されたことのなかった仕打ち。






自身が受けたことをまた思い出し、


手が震え、嘔吐する。






 ――




体の震えが止まらない。


水で体が冷えたからなのか、恐怖による体の震えからなのか分からないが


歯はガチガチと音を鳴らし、両の腕で自身を抱き、ひたすらに丸くなる。




涙が止まらない。


嗚咽が止まらない。




あの仕打ちは本物であったという事実が。


今この見知らぬ場所にいるのが現実であるという真実が。






 ――






ひとしきり泣いた後、上半身をゆっくりとあげてみる。


鼻水をすすり、腫れぼったくなった目を拭い、ふと目線を下げる。






……腰に巻いてある縄が痛い。


おそらく吊るされるために巻かれていた縄。


他の個所に比べてここだけがやたらときつく縛ってある。



縄の先を辿って見てみるが、吊るされていた先は落ちた衝撃で折れて流されたのか、何もない。



ひとまずは左手に残っている縄を取り外し、また体の力を抜く。




あちこちが痛み、体は水に濡れて泥だらけ。


手首は赤くなり、少し出血も見られる。




……ここ、どこだろう……




――ガサッ




その音に、思考を始めかけた体がビクンと強張る。




――ガサッ、ガササッ




こちらに近づいてくる。




――――ザッ






藪の中から音の主が姿を現した。



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