暗殺者、気づけば世のため、人のため

第1話

地面に投げ捨てられた数多の死体の上に、一人の青年が立っていた。

青年の名は、アルフレート・ハンス。

ただし、この名はもう誰にも呼ばれていない。

なぜなら....



「依頼は達成できたか、レイ?」

「あぁ、全員殺してきたさ」


アルフレート・ハンス、またの名をレイ。

フィナラズという国で暗躍する凄腕の暗殺者であった。


──────────────


俺は、小さい頃から何度も「死」というものに触れてきた。

物心ついてすぐに両親は殺され、俺は親戚に引き取られたものの、その親戚も何者かによって殺され...挙げ句の果てに、残った奴らは俺のことを「呪いの子だ」と遠ざけようとした。


そして、その瞬間...俺の表の世界での居場所は消失した。

行き場もなく、路地裏で座り込んでいた俺はそこでもとんでもない光景を目にした。


俺の存在に気づいていないのか、大通りから男女二人が入ってきたと思えば、男は俺の目の前で女を殺したのだ。

もちろん、この二人の間に何があったのかなんて俺に知るよしもないが....


「おい、お前...見てたよな?」

男が気づけば、こっちをにらみ近づいてくる。

「い、いや...俺は何も見てな───」


俺はなんとか逃れようとしたものの、男はなんの躊躇いもなく殴りかかってくる。

自衛の術などなく、ただ攻撃を食らい続けるだけ。

だんだん、視界は暗くなり...俺は死を悟った。

でも...


「ひっ!? あなたはっ!!」

突然、男の攻撃が止まったと思えば...近くの建物の上から誰かが飛び降り、目の前に着地する。

「なにがあったのか知らないが、そんな小さい子を殴って...全く情けないやつだな」

その「誰か」は、そう冷たく言い放ちながら被っていたフードを脱ぐ。

その顔を見て、俺を殴っていた男の顔が青ざめていく。


「なんであなたがここに...」

「たまたま、通りかかっただけだ。まぁ、部下の仕事を覗くのもいいかと思って見に来たわけだが...馬鹿なことしやがって」


俺のことをつかんでいた男の手は緩み、俺と謎の人物から少しづつ距離を取っていく。

「もう、俺のすることはわかるよな?」

「ひっ...」

何を察したか、男は大通りに向けて走り出す。

そして、それを追うように謎の人物もゆっくりと歩き出す。


...歩いていたはずだが、なぜか二人の距離は縮まっていく

「くっ! あと少しなのにっ!!」

「お前のことを、もう俺らの組織は求めていない。 じゃあな」


「ぐああああっっっっ!!」

男が大通りに出る直前...いや、直前でも何でもないか

時間にすれば、男が走り出してから十秒もなかったはず。

謎の人物は、本当に一瞬で...殺したんだ


どこから取り出したのか、謎の人物は短剣で男を刺していた。

恐怖からか、俺の体は全く動かず...気づけば、俺の足下にまで男の血が流れてくる。


「ごめんな、怖がらせて...お前、家族はいるか?お詫びに送っていこう」

謎の人物がこちらへ歩いて来る。

しかし、俺の頭には恐怖の二文字以外何もなかった。

そんな状況で冷静に判断など出来るはずもなく...


「いや...来るなっ!!」

今考えれば、命知らずの行為だったな...と思うが、俺は咄嗟に、助かるために殴りかかってしまった。

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