ある午後について
水萌
ある午後について
学校の帰り道は、寄り道をすると決めている。学校を出て、左。歩いて15分。小さくてこぢんまりとした公園にある、芝生の小さな丘。芝生がついたっていいや。大の字に寝転がり、空を見上げる。
「あーあ何やっとるんやろう、私…」
自分の口からとは思えないほど、自然に言葉が出た。その言葉が、私を必死につなぎ止めていた何かを壊した。涙が一筋頬を伝うと、止まらなくなって、視界が潤んできれいな空に見つけた雲の輪郭が見えなくなった。
15歳。まだまだ子供だと言われる。
子供と大人の境目って何なのだろう。成人年齢は18歳まで引き下がったけれど、あと3年経って誕生日を迎えたその瞬間、みんな自動的に「大人」になる訳ではないだろう。テレビのニュースで報道されるのは、悪いことをした大人ばかりだった。子どもって実はいい子ばかりなのかもしれない、とはもう思わない。お父さんの言った「少年法」も、分かるようになった。
涙をそっと手で拭う。さっき見つけたのは、一面に広がる真っ青な空に浮かぶ、灰色の雲だった。今日、学校であったことを思い出す。朝学校に着くと、自分の下駄箱にあるはずの上履きがなかった。いつも通りのことだ。慣れたからもう、置き場所は知っている。靴下のまま三年生のいる四階に上がり、トイレに入る。その和式トイレのある個室の隅っこに、私の上履きは揃えて置かれている。便器にいれないことがせめてもの優しさなのかも、と初めは考えたが、匂いがしたら誰かにバレてしまうからだろうということに、最近気がついた。この二週間で急速にスピードアップした私への嫌がらせは、たぶんいじめだろうということにも、最近気が付いた。
「もし、気になることがあったら遠慮せずに言ってください」
昨日提出した学習記録帳を開くと、担任からのコメントがあった。みんなの姿をいつも見ています、みんなの声に耳を傾けます、今にも政治家の演説が聞こえてきそうな担任の顔が嫌いだった。自分の考えがいつも正しくて、それを疑ったり見直したりする習慣のない人間には、共通した独特の正義感があって吐き気がする。私の上履きを隠すことを提案したあいつも、担任と同じ匂いがした。
全員死んでしまえ。アリに石を投げると、死んだ。何も悪くない対象に八つ当たりした自分は、一緒に死ぬべきだと思った。何も悪くない私の、上履きを隠すあいつらは、死ぬべきだけど、ずっと生き残ると思った。
ある午後について 水萌 @minam0-coffee
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