ダンジョン管理人の憂鬱〜匿名で美少女ダンジョン配信者を救助したら、失踪した元最強配信者だと疑われてバズってしまった件〜
あかね
第1話 旅人の傷跡
「はいどうもー! Dトラベラーズです! 今回はなんとーー」
あぁ、クソッ……またこの夢だ。
俺の目の前で景気のいい挨拶と小洒落たポーズを決める5人の若者達。
空に浮かんだドローン型カメラに向かって笑みを浮かべながら楽しそうに言葉を交わしている。
「やっぱさー! 新しいダンジョンができたって聞いたらこのDトラベラーズが挑まないなんて嘘っしょ!」
「俺たちに攻略できないダンジョンなどない! ってな!」
笑いが起こる。
もう一台のドローンが表示する画面には無数のコメントがものすごい勢いで流れていた。
"わこつ"
"わこつ"
"待ってました!"
"DT最強! DT最強!"
"【¥5000 今日も最高の攻略期待してます!】"
時折派手な色がついた大きなコメントが現れるが、それは彼らに対する投げ銭ーーつまりお金を払って打ち込まれたものだ。
それを見た若者達は嬉しそうにお礼を言いながら丁寧にそのコメントを読み上げている。
ああっ!
気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪いっっっ!!!
視界が歪む。
場面が切り替わる。
気づけばそこは天井と入り組んだ壁に支配された地下空間。
若者達は各々で用意した武器や防具を身につけ、自動音声に読み上げさせたコメントに反応しながら勇猛果敢に進み続ける。
やがて彼らは一つの大きな扉を見つけた。
そして世界が加速する。
恐ろしい勢いで視界が変わり続ける。
目まぐるしく変化する世界。
それでも彼らが先へ進んでいく。
いつもこうだ。どれだけ止めたって彼らは前へと進み続ける。
そしてやがてそれは一つの光景へと収束する。
「――――――ッッ!!」
「――――ッ!」
「――――――――――――――――ッッッ!!!」
無数の悲鳴。飛び散る血飛沫。荒れ狂う咆哮。
この世の地獄を体現した光景。
やめろ。やめろ。やめろっ!!!
「あ、ああッ! あああああアアアアァァっっっ!!!」
世界が白に染まる。
俺の叫びが響き渡る頃には、その世界は崩壊していた。
♢♢♢
「――――はっ! げほっ、はぁっ、はあっ……」
起き上がった彼が最初に視認したのは、大量の汗が染み込んだ白い掛け布団だった。
どうやらまた悪夢を見ていたらしい。
服がびしょびしょで体が重い。目覚めは最悪だ。
「ここは……仮眠室か。あぁクソ、思い出しちまった……だりぃ……」
気だるそうに起き上がる男ーー
しばらくして戻ってきた彼は、緑を基調とした制服に身を包み、ダンジョン管理人という仕事を請け負う者の証であるバッジを胸元に着けている。
大きなあくびをしながら伸びをした碧は、体がほぐれる独特な感覚で脳が溶けそうになるのを感じながら倒れるように前へと進み始めた。
「おっすー……異常ないか?
事務室で書類作業をしていた茶髪の男、
「ん、おはよーさん。今の所は大丈夫だぜ。んで、よく眠れたか?」
「
「ははっ、そりゃツイてねえな」
「そもそも
碧は今日、夜勤に加えて仕事を休んだ同僚の代わりに昼間の仕事を担当するべく、家に帰らず職場の仮眠室で休憩をとっていた。
碧の自宅はここからだと少し距離がある。
それならばいっそ泊まり込んだほうが楽だと言う判断だった。
「まーしょうがないだろ。
「まあな。んで、今ダンジョンには誰か潜ってんのか?」
「おっ、そうそう! お前、"リンベルサウンド"って知ってる?」
「ん……ああ、最近話題の女の子3人組のダンジョン配信グループだろ? めっぽう腕が立つって噂の」
「そうそう! 今朝その3人が潜って行ったぜ! いきなり下層から挑戦するってよ!」
「……は?」
その言葉を聞いて、碧の表情が一瞬で変化した。
碧はすぐさまポケットからスマホを取り出し、ダンジョン配信特化サイトである「D Lives」のアプリを開き、検索欄に"リンベルサウンド"と打ち込んだ。
すると一番上に「"旅人の傷跡"攻略配信!」と銘打ったライブ配信が始まってから既に4時間が経過していた。
旅人の傷跡と言うのは、碧達が管理している神奈川県の端に存在するダンジョンだ。
数百年前に初めてダンジョンが出現して以降、世界各地に不定期で新しいダンジョンが生成されているが、この旅人の傷跡は6年前にできたばかりの比較的新しいものだ。
「でもさ、下層だけなのにまだ帰ってこないんだよな。確かここのRTA記録って3時間半だろ? それなのにあの子達が行ってからもう4時間以上経ってる」
「……お前、そいつらを下層から行かせたって言ってたよな。そいつらのDレートは?」
「2000以上だ。ここはDレート1750以上なら下層から挑戦できるからな。はっきり言って余裕だと思ったんだが……」
それはダンジョン攻略における実力を評価した値であり、主に攻略したダンジョンの難易度やタイムなどから算出される。
初期値は1000であり、一般的に1500を超えると中級者、2000を超えると上級者と言われる。
(……マズいな。最悪のパターンが予想できちまう)
碧は止めていた手を再度動かし、彼女達のライブ配信画面を開いた。
そこに映し出されていたのは、明らかに通常のダンジョンとは異なる異様な光景だった。
ヒビのある赤みを含んだ壁。それらに這うように脈打つ太い植物の根のようなナニカ。廃墟のような劣悪な足場。
本来旅人の傷跡では見られない異質な空間に、彼女達は若干戸惑っているようだった。
「ちょっと……やっぱり引き返そうよ、リン。魔物もあり得ないくらい強いし、このままじゃ……」
「なーに言ってるのよベル子! ここ絶対秘密の隠しエリアだって! つまり誰も見つけていないお宝が眠ってる可能性大! ここで帰る選択肢なんてないっしょ!」
「それでやられちゃったら意味ないでしょ……ほら、ネオンも言ってやってよ」
「ふえっ!? あ、えっと、その……ボクはまだいける、かな?」
「しまった……そういえばこの子戦闘狂だったわ……」
"明らかにヤバそーな場所だよな。ワクワクしてきた"
"引き返したほうがいいんじゃない?"
"は? 引き返すとかあり得ねーだろ"
"ベル子ちゃんの意見も聞いてあげて……"
"演出に決まってんだろ エアプは黙って見とけよ"
この環境下で前へ進もうとしている二人と引き返すべきと提言する一人。
コメント欄は賛否両論だ。
だが悲しきかな。この世界で意見が分かれた時は基本的に多数決で物事は決定される。
最初は抵抗していたベル子も、最終的に折れてそのまま先へ進むことを決めたようだ。
「チッ……バカ共が!」
「あっ、おい! どこいくんだよ碧!!」
「悪い! ちょっとだけ残業してくれ! 早く行かねえと取り返しのつかないことになる!!」
「はぁっ!? お前何言って――」
これ以上会話している暇はないと、碧は部屋を飛び出して行ってしまった。
竜生は困惑しながらも「しょうがねえヤツだな」とため息を吐きながら、"リンベルサウンド"の配信画面を開いた。
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