混沌非存在03

「何か答えなさいよ! そこにいるあんたが妖刀使いの仲間だって言うことは調査済みなのよ! 妖刀使いに関しては誰よりも詳しいわ。だから答えなさい! 今夜妖刀使いがいるのはどこ!」



 俺は両手を挙げてまずは敵意がないことを示した。いきなり先ほどの光線を撃たれたのでは敵わない。そして俺が彼女に答えを言わない限り、その道を通ることはできなさそうなので、俺は答えた。



「妖刀使いはもういない。いないよ、お嬢さん。妖刀使いは今夜、お嬢さんと同じように奴と戦っていた。きっと今頃は倒して撤退しているだろう。明日も戦うための休息だ」


「嘘を言うな! 妖刀使いはどこだ!」



 彼女は騙されなかった。なかなか強情だった。この街の人間のほとんどは妖刀使いを恐れるが、しかし、この女の子は妖刀使いへ自ら向かうと言う。そして倒そうとしているだと、そう思えた。何か恨みでもあるのだろうか。妖刀使いが恨みを作っていても何も不思議ではなかったが、久瑠美の親代わりに何かあったら娘が悲しむ。それは避けたい。よって俺は今夜妖刀使いに守られる立場だったが、この場は彼女のことを守ることにした。



「俺の言葉が、たとえ嘘だとしてもそれは嘘ではない。お嬢さん、俺の向こうにいるのは妖刀使いではない。そこにいるのは黒い奴だけだよ」


「むう……確かに。あいつがいなくならないと妖刀使いはまともに私の相手をしてくれないわ。あいつが現れる前はあんなに戦っていたのに」



 あんなに? そういえば、いつの日だったか魔法少女が妖刀使いを追いかけて戦っているなんて噂を聞いたことがあった。それは、そこにいる彼女のことだったのか。この街も狭いな。



 魔法少女はしぶしぶ現状を理解したらしく、俺に何か文句を言ってから箒を召喚して飛んでいった。それでは魔法少女じゃなくて宅急便の方で、魔法少女というより魔女だな、と思った。







 ※ ※ ※





 妖刀使いは昼間は久瑠美と遊び、夜になると奴と戦った。魔法少女の女の子も同時刻に戦っていたのを、妖刀使いは目撃したと言った。奴はいつ現実世界を認識に成功して、大災害を引き起こすか分からないと彼女は言った。現状ではダメージは与えられるがそれは退けるにとどまり、倒す、その存在を消し去るまでには奮闘するも至らなかった。やはり何か策を講じなければいけない。そのために俺は奴を見て、死ぬような思いで走って逃げたのだ。特徴は掴んだ。妖刀使いの妖刀が、魔法少女の光線が効くのもわかった。それがあちら側の存在だから、魔力や妖力だから通用したという共通点もわかった。俺たち人間では手出しできない。魔法少女の連絡先は知らないし、向こうは俺たちのことを敵だと思っているから協力は難しそうだ。そうなると俺が何か作戦を立てて、妖刀使いに実行してもらう。それが現実的だった。



 そう考えて、俺は思い出した。そういえば、その類のやつがもう一人いる。俺は名刺ホルダーを探して見つけ、その連絡先に電話をした。




 ※ ※ ※






「お久しぶりです、茨戸さん」


「すまないな、急に呼びつけるようなことをして」


「いえ、セイヤさんの右腕を務める茨戸さんの頼みなら、最優先で聞きますよ」


「そうか。それは助かる」



 俺は奴の話をした。現実的ではないが、現実だと話すと彼はその話を受け入れ、理解してくれた。解決に協力してくれるという。ありがたい限りだった。



「セイヤにはまだ話していないんだ。あまりにも現実離れした話だからね。信じてもらえないかもしれない」


「茨戸さんが、そうおっしゃるのなら私からも話はしません。このチカラが、その黒いミミズにどこまで通用するかわかりませんが、全力を尽くします」


「ありがとう。決行日は決まり次第前もって連絡する。昼間はたまにしか現れないらしいから、夜に行けばその姿を確認できると思う。戦う前に相手の姿を見ておくといいかもしれない」


「はい、わかりました」



 俺はこうして強力な味方をつけることに成功した。少なくとも二体はいる奴に対して戦うことができる味方はこれで二人。数では互角だ。あとは秘策を作るだけ。どうしたら倒すことができるだろうか。せっかくの熱意を、好意を無駄にすることはできない。戦わねば。少なくともこの街の平和と、脅かされる久瑠美の未来の笑顔を守るためには。



 俺は図書館に足を運び、ミミズについて調べ始めた。図鑑や生態が書かれたものを一通り読んでみたが、やはり奴らとは違った。見た目がミミズのようだと言うだけで、ミミズではないのだ。


 

 発生源、つまりすみかを特定してはどうだろう。奴らも四六時中街なかをうろうろしているわけではないみたいだし。



 しかしどうやって突き止めようかと悩んだ。やはりミミズだから土の中だろうか。蛇だとすれば、木の根元とか土の中穴とかだろうか。この世の存在ではないから異次元に潜り込んでいるなんて言われた日には、もうお手上げである。宇宙からの侵略者だと言われたほうがまだ想像できる。魔法少女にでも頼んで地球を侵略しに来た宇宙戦艦をビームで撃ち落としてもらえばいい。



 いい作戦も案も出ずに行き詰まって腕を組んでいると、着信があった。図書館にいたので振動だけだけど。俺は周囲に謝りながら外へ出て、電話に出た。



「もしもし」


「茨戸創。おまえ、いまなにをやっている」



 少年少女のトップからのお電話だった。直接掛かってくるなんて珍しい。百年に一度の出来事だ。



「いや、ちょっと図書館で調べ物を」


「ふっ。それで、お勉強は済んだか」


「まあ、なんとか」


「なら都合がいい。今から言う場所に向かえ。一度しか言わない」



 俺は慌ててそのお言葉を聞き逃すことがないよう、電話の録音ボタンを押した。これは百八あるひみつ道具のうちのひとつ。とっておきの違法改造だ。



 俺はすぐに先程まで使っていた図書館の机に戻り、本を元の棚に戻してその場を飛び出した。彼の命令は絶対遵守だからな。




 

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