すすきのアウトサイドパーク04
成哉が、来た。
これまでにない冷気ををまとって、黒とは反対の暗闇とは対象的な白いスーツで颯爽と、クールに現れた。よく目立つ。汚せないな、あれじゃ。一発ぐらいしか殴るつもりがないのか。
王子様のような姿で堂々と現れ、先ほどまで妖刀使いに助けられた物語の主人公さえも奪い取って我が物とした。独り占めである。部下を引き連れた彼に対し、相手に勝ち目はない。どれだけ強い半グレ組織だとしても、拳銃を持っていても太刀打ちできないだろう。なんと言っても俺の大親友だからな。
「おい! おまえ! こっちに来るんじゃねえ!」
「ほう」
「誰だ! お前は!」
「雁来成哉。リーダーだ」
「か、雁来成哉……!! あのグループのトップか。ちくしょう、なんでお前が、お前なんかが、こんなところに……!」
「理由は二つ。一つは貴様らのメンバーがうちのメンバーに手を出そうとしたからだ。足が速いやつでな。意趣返しに特定したところまでは褒めてやるが、相手が悪かった。さっきそこに転がしたとおり、返り討ちだ。安心しろ、まだ生きてる。もう一つは俺の親友を傷つけたことだ。金属バットで殴ったのか? 可哀想に。脳しんとうだぞ、あれは。以上、仲間への忠義と、その無礼に対する報復を行うためにここに来た」
成哉は瞬間移動した。それは人間業ではなかった。一瞬で間を詰めてジャブを撃った。一撃で相手の意識は奪われた。やはり一発しか殴らなかった。崩れるのを見届けると、勝利の笑みを浮かべながら、彼は悠然と俺の方へと歩いてきた。
のちに創成川リバーサイドボーイズ、ガールズの間で語られ、伝説のひとつとして数えられたことは言うまでもない。
「大丈夫か、茨戸創」
「ああ、助かったよ。雁来成哉」
二人はわざと互いの名前をフルで呼び、握手で俺を引き上げた。その仲を、お互いに確認したのだった。成哉は満足すると、残りのメンバーに声をかけた。
「おい、おまえら。そこの男を運べ。南区の山の中に全裸で転がせ」
ボーイズたちは命令通り男を担いで車に運び、俺と成哉は別の車に乗り込んだ。
「家か? 病院か?」
「一応いつもの病院で。もう、若くないからな」
「出せ」
行きつけじゃないけど、事情を理解している闇病院みたいなところがある。どの世界も考えること、手配すべきものは変わらない。需要があれば作られる。
こうしてテレビの報道を賑わせたひったくり犯は組織の崩壊と共にふたりとも捕まり、さらに組織的犯罪集団が捕まったと報じられた。窃盗、恐喝、特殊詐欺、銃砲刀剣類所持等取締法違反、つまり拳銃持っていた違反などで全員まとめて捕まった。ちなみにあの部長は山ではなく交番の前に全裸で転がされた。所持品は全部ばらまかれて。
また同じような犯罪活動をする組織が生まれたり現れたりしてそれをこの街で始めようものなら、今度こそリーダーが息の根を止めるだろう。この街を牛耳るってのは、支配するグループってのはそれだけ影響力があるってことなんだけど、それだけに運用にはカリスマ性が求められる。まあ、会うたびにその強さに納得して感心するんだけどね。
※ ※ ※
「やあ、おやっさん。元気?」
「よお、情報屋。俺はいつでも元気だよ。お前それより頭、怪我したのか?」
「ああ、大袈裟なんだよなこれ。まあ、ちょっとやんちゃしてね」
「あまり無茶するなよ」
「分かってる」
「それより、この間のは助かった。おかげでひったくりの犯人を捕まえることができた。交番前に転がっていたのも、どうせお前たちの仕業なんだろう? ありがとうな」
「たいしたことはしていないよ。それに、あまりいろんなことがバレると注意とかされてしまうからな。そういうのはもう、ゴメンだ」
「俺で良ければいつでも叱ってやるぞ」
「はは」
おとなになると、確かに誰かに叱られることはなくなるかもしれない。言動は全て自分の責任となるから、怒られることはなくなる。非難とか批判とか、懲罰とかそういうのが待っているだけだ。そういう意味では怒ってくれる人がいるというのは、ありがたいことなのかもしれない。あの日成哉は友人として怒って参上してくれた。今日は人生の大先輩としておやっさんが怒ってくれるのだという。幸せ者だな、俺は。
おやっさんとはそれで別れた。今日は娘の様子を見に行く日である。いくらあの面倒見の良い妖刀使いが面倒を見ているとはいえ、それで久留美が俺の娘でなくなるわけではない。今日も顔を出して、それであの笑顔を見てやるのだ。それがたぶん今の俺が生きる意味で、理由で、頑張ろうと思うはずだからな。
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