Sideリーン③
「はい、依頼内容は定期的にユウショウ兎の討伐、及びその肉と血を手に入れてもらう事になります」
「ユウショウ兎…ゴクッ…」
「…美味だった…」
急にあのタイミングでユウショウ兎の名前を出されたら思い出すのはユウショウ兎のタレ串焼きの味に決まってるじゃない!?ねぇ、そう思わない!?
──なんて思っているのも束の間…あいつが次に放った言葉はあたしとリカにとんでもない衝撃を与える事になる。胃が痛いわ。
「定期的にって言ったのはユウショウ兎の血が醤油の材料になるからですね!」
「ちょっ!?あんたっ…!?」
「…っっっ!?…」
分かる?あの醤油というとんでもない調味料の材料になるものをあたし達に惜しげもなく与えたのよ…?この知識を持っていくとこに持っていけばとんでもない事になるのよ?それこそ一財産築けるんだからね?錬金ギルドとか…ドレインさんみたいな商売人…もしくは王宮勤めの魔法士とか…。それだけ知識は高いのよ。それを出会ったばかりのあたし達に教えるのよ、あいつ…。まあ、そんな事しないけどね。
「別にお二人になら問題ありませんよ」
「そ、そうなの…ね…」
「……………ズ…」
それに…いかにも二人の事は信頼してるみたいに言われっちゃって…なんだか…人生で初めて口説かれてるような気がしないでもなかったわね…。ホント…馬鹿っ…なんだから…。リカはたぶんだけど、その言葉はズルいと言いたかったのね…。あたしもリカ風に言うならそう言うだろうしね。
「先程の話に戻りますが、専属で定期的な依頼になりますけど…どうですかね?」
「っ!?それで…専属なのね…」
「…言った事あながち間違いなし…」
あいつ専属になれってくれって…意味分かっていってるのよね…?あたしとリカは話し合う事に…。
「どう思う?」
「…悪い話じゃない…」
「…だよね?」
「…会って間もないけど…彼は信用できる…」
「リカが言うならそうなんでしょうね…」
リカはこう見えてもそういう時の直感は冴えている。
「…それに専属なら…醤油が毎日…他にあるかも知れない…」
「あんた食へ物につられてるんじゃないわよ!?」
「…よく好きな人の胃袋は掴めと聞く…私は掴まれてしまった…」
「…た、確かに…」
「…いやらしい視線も不快な視線も感じないのも好感触…」
それはそうね…。もしかして同性愛者だったり…?いや、それならあたし達を専属にしないわよね…?
「…宿生活からもおさらばできるし…」
「それね…いつまでも宿やギルドの冒険者用の部屋を借りたりするのも…いやよね…」
「…なによりも好ましい…」
「んなっ!?もしかして…惚れたわけ!?チョロ過ぎない!?」
「…これは運命…リーンも悪くないって本心は思ってるでしょ?…」
「あ、あたしは…」
「…リーンもチョロい…」
「くっ…あんたには言われたくないわ…じゃ、じゃあ…とりあえず返事してみる?」
「…するべき…」
あたし達はあいつに依頼を受けるように伝えた。
「か、勘違いしないでよね!?せ、専属で定期的に依頼をもらえるから食いっぱぐれがなくなるから…それで…し、仕方がないから受けてあげるだけなんだからね!?」
「…勝ち組…」
いや…まあ…それはそうでしょうけど…それを口にするのはどうかと思うわよ、リカ?
そんなわけで…あたしとリカはあいつの専任になる事を決めた。決めた途端早速依頼をぶち込まれるとは思っていなかったけどね…。リカはあたしに任せようとしていたものの、お礼に醤油を使った別の料理を作ってもらえると分かった途端掌返ししてたけどね…。ホント…リカには参るわね…?絶対いつか話し合わないとね…。
早速依頼をこなす為にギルド出収納の魔法具を借りようとしていたら…
「リーンさんすいません!その腰元のウエストポーチを借りても?」
「えっ?ええと…まあ、いいけど…ポーションが2個入ってるだけよ?」
あたしはウエストポーチを外して渡す。その時手が触れたことなんてなんとも思ってないんだからね!?
『──ウエストポーチに付与をかけます』
出た…今度は付与よ…?あたしの胃の痛みは治まるのかしら…?しかも収納の魔法よ?そんな事できる錬金術師なんてこの世界で数えられるくらいだとあたしは思うわ…。何度ビックリさせたいのかしら…。まあ、あたしのウエストポーチが魔法具になったのは素直に喜ばしい事なんだけどね…。
「ほ、ホント…あんたは色々とその…凄いわね?」
そんななか、あたしが搾り出すように言えたのはそんな言葉だった。本心でもあるんだけどね?しかも依頼が終わった後のふわとろの親子丼の美味しい事、美味しい事。とろとろっの卵が口の中を幸せで満たしてくれたわ…。
食事を終え、あいつと別れた後はあたし達は一度宿屋へと戻る事に…。
「…色々あったわね…?」
「…同意…」
そんな事を思い返しながら宿で借りてる一室のドアを開けると…部屋の中にはティア様とネネさんの姿が…なんでお二人がこんなところにっ!?
「お二人が借りてる部屋に勝手にお邪魔してしまい申し訳ありません」
「い、いえ…」
「お疲れのところ申し訳ないのですがリーンさんとリカさんにお話がありまして、すぐに終わりますので宜しいでしょうか?」
「「…は、はい」…」
「ありがとうございます。話というのは他でもありません。ハヤブサ様の事です。リーンさんとリカさんにはハヤブサ様の護衛も兼ねて本当の意味で専属になって頂きたいのです」
「「……えっ?…」」
「わたくしの屋敷にお二人の部屋もそれぞれすぐに用意しますし、冒険者ギルドの専属依頼とは別に側仕えの給金も支払う事に致します。いかがでしょうか?」
「ええと…あたし達にとって…破格ともいえる待遇だと思います…」
「…同感」
「ですが…どうしてでしょうか?」
「どうしてと言われますと?」
「そちらにいらっしゃるネネさんとは何度か冒険者ギルドで一緒になった事もありますので面識はありますが…その…あたしが言うのもなんなんですが…そんなに簡単に信用していいんですか…?」
「ハヤブサ様がなにより信用していますし、それにわたくしには神託というスキルがあるのですが、女神様からもお二人がハヤブサ様にお仕えするのに問題ないというお言葉をいただいております。」
「「…め、女神様から!?」」
「はい」
「ティア様は…その…め、女神様から直接お言葉を…?」
「はい。ありがたい事に…その…頻繁に頂戴しております」
直接お言葉をいただけるだけではなくて、頻繁にっ!?す、凄すぎじゃない…?うちの領主様…。でも…同時にどうしてだろう…って、あたしは思ったのよね。だから聞いてみる事にしたのよね。
「…ティア様」
「なんでしょう」
「一つ質問させてもらっても宜しいでしょうか?」
「わたくしが答えられる事なら」
「何故女神様がその…あいつ…じゃなかった…ハヤブサの事を気に掛けていらっしゃるのですか?」
「それは…わたくしも気にはなっていたのですが…め、女神様のご意思に異議があるのではと思われるとアレなので…聞けていません。いえ、聞くわけには参り──」
『な~に、ティア♪ティアはそんな事が聞きたかったの?リーンも同じように気になるのね♪』
「「「「め、女神様っ!?」」」」
その声はリカ、それにネネさんにも聞こえたようだ。心の中に直接話かけられてきている感じがする。感じというよりもそうなのだと思う。当然あたしにも女神様の声が聞こえてるんだけど…こ、これが女神様のお声なのかと感動してしまった…。世界中の人がそう思うんじゃあないかしら…。それに…それによ…あ、あたしの名前を呼んでくださるなんて…なんて恐れ多い…。あたし達が緊張しないように…ふ、フレンドリーに話し掛けて下さってるし…。
『そうねぇ…。それはまだ内緒かな♪今はその時じゃないと思うしね。そのうち直に話すわね?まあ、とにかく…リーンとリカにはあの子に仕えてもらいたいのだけどどうかしら?私が言ったからといって強制ではないからね?リーンとリカならいいかなって思っただけだしね♪』
「つ、謹んで…お、お受け致します…」
「…お受け致します…」
『ネネも色々思うところがあると思うけど宜しくお願いするわ』
「…はい」
『それじゃあみんなあの子を宜しくね!』
「「「「は、はい」」」」
『時にティア』
「は、はい。な、なんでしょうか!?」
『今日のティアとても良かったわよ』
「こ、光栄です」
『特にあの子の身元や身分はカシオペア公爵家が保証するとか言った時なんかドラマを観てるみたいだったわよ?』
「ど、ドラマ…ですか?」
『ああ、ドラマって言っても分かんないわよね?まあ、とにかく今日のティアは最高だったって事よ♪』
「きょ、恐縮です…」
♢
ま、まあ…そんな感じであたしとリカはその翌日の朝一番に屋敷に向かう事にしたのよね。あいつに仕える為だ。決して女神様に言われたからだとか、イヤイヤで仕えるんじゃないわよ…。出会って本当に間もないけど、あいつの人となりというか、悪いやつじゃないのはもう分かってるからね。女神様に何故か気に掛けてもらってるみたいだし…。
そうそう…メイド服を着る事になるとも思っていなかったわね…。あたしにこんなヒラヒラした服似合うかしら…?走ったらスカートの中見えそうだし…気をつけないと…。
それになにより…あいつはあたしの格好をどう思うだろうか…?可愛いとか思ってくれるかしら…
「今のな~~~し!?何考えてたのあたし!?あたしはそんなチョロくないわよっ!?」
『いや、チョロいわよね?』
…………気の所為よね…?今…女神様の声が聞こえたような…と、とにかくあたしはリカとともに屋敷の食堂へと向かった。あいつはすでに起きて食堂にいるみたいだしね…。
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