Sideリーン②
本当に醤油という調味料は匂いも味もあたしにとって…ううん、醤油を口にした事ない者からすればとても衝撃的だったのよねぇ…。
「思い出すと駄目ね…また食べたくなっちゃう…」
♢
「コレが醤油の魅力が分かる品の一つ【ユウショウ兎のタレ串焼き】になります!熱いうちにどうぞ召し上がって下さい!」
出てきた料理はユウショウ兎の肉を細かく一口サイズに切って木串に刺したもの。ただし、それにはトロっとした黒い液体がかけられていた。先にソレを頂くのは当然領主であるティア様。そして醤油の交渉相手であるドレインさん。何故かギルドマスターのグレンさんとこれまた何故かのネネさん。本当にズルいと思ったのよね…。いやしいなんて言わないでよね?匂いだけで美味しいとソレは本能に訴えてきてるんだもの…。
「は、ハヤブサ様…コレはどうやって食べればよいのでしょう?」
「はしたないとは思いますがそのままかぶりついて下さい。コレはそういう食べ方をするので」
「あ、はい…で、では…早速…あむっ…はふっはふっ…あふい…んんっ!? けど…んぐんぐ… コレはっ…止まりません!? あむっ…」
あぅぅ…本当に美味しそうに食べるティア様。
「…わたくしも早速…あむっ…ムグムグ……コレはなんとっ!?んぐっ…コレが醤油…も、もう一口っ…むほぅ~~~!?」
くっ…ティア様が一口食べたのを見届けてからドレインさんがソレを口にする。何がむほぅ~よ…。羨ましすぎるわ!?
「…お、大袈裟過ぎますニャッお嬢様は…わ、私も早速一口…はむっ……もきゅもきゅ………………… う、美味いニャッ──!?はっ!?私は何を口走って…」
そこまで美味しいのっ!?ネネさんの語尾というか言葉にニャッがところどころについてるのなんて聞いた事なかったんだけど!?
「あむっ…もぐもぐ…なんじゃこりゃあ!?美味過ぎるだろ!?あの黒いのがこんな味を醸し出すとは!?はむっはぐっ…あむっ……」
美味過ぎるじゃないわよ!?仕方ないのは分かってるけど…あたし達を見捨てるしか出来なかったのも分かるけど…あたし達より先に食べないでよね!?
「ずずず、ズルいです!ギルドマスターはともかくネネも先に食べるのは贔屓だと思います!断固異議申し立てます!」
あたしと同じ事を思っていたグレースさんが声をあげる。言ってやって!もっと言ってやって!
「そ、そうよ!それになによりもソレに託さないといけないのは当事者のあたし達なんだけどっ!?」
あたしもここぞとばかりに言葉を発したけどね。託すって言ってるけど…もうあたし達がどうなるかは分かってるのよね。醤油が万が一駄目でもティア様が助けてくれるって話だしね。それにこの様子からその万が一なんてこないのも分かってる。ただ…あたし達も早く食べたいだけだ。
「…じゅるり…は、激しく同感」
リカも同じようね…。ヨダレ出てるわよ?えっ…?あたしも出てる…?ちょっと!?やだっ!?恥ずっ!?恥ずかしくなったあたしに大丈夫とリカが言った。なんでと聞いたら…机にヨダレを垂らして小さな水溜りを作っているグレースさんがいるから…?それとこれとは別よ!?恥ずかしい事には変わりないじゃない!
「ほら…も、もう焼けますから……はい!焼けましたよグレースさん!リーンさんやリカさんも焼けましたのでどうぞ!!」
あたし達の言葉や迫力にあいつはタジタジになってたわね…ふふっ…
「待ってました!あむっ……はふっはふっ…」
「あ、ありがとう…い、いただくわ…はぐっ…もぐもぐ…んんっ~~~ 美味しいっ」
「…もぐもぐ…」
グレースさんが真っ先にそれにかぶりつき、あたしもそれに続く。口に入れた瞬間美味しさが広がっていくのが分かった。熱かったけどね…。リカなんか無言でかぶりついているしね。
「あ、あの…」
「んっ?どうなされましたかティアさん?」
「も、もう一本いただけますでしょうか?」
「あ、はい」
「俺も頼む」
「…私もお願いニャッ…」
「わたくしもお願いできますかな?」
「はい!分かりました」
ちょっとズルいわよっ!?あたし達なんてまだ一本目なのに…。
「…んぐっ…ごくん…私もお願いします」
グレースさんが早すぎるっ!?
「…あ、あたしも…いい?」
「…もう一本…」
まだあたしは一本目を食べてる途中なんだけどまだまだ食べたいからそう言っちゃった。リカはグレースさんと同じく食べ終わっている。
「…とりあえず材料の兼ね合いとこの後の話もありますので後2本ずつで終わらせてもらいますね?」
「「「「「「「ええっ!?」」」」」」」
あいつのその言葉にどれほどあたし達が絶望した事か…。まあ、それだけでもあたしとリカの賠償金がどうなるかは分かっちゃうわね。醤油は賠償金と見事にドレインさんに認められてあたし達は奴隷堕ちから救われたのよね…。それを聞いた瞬間リカと抱き合って喜んで、その場に居たグレンさんやグレースさん、ネネさんも一緒に喜んでくれて…
「あいつに…真っ先にお礼を言わないといけなかったのにね…」
お礼を言おうとしてたらティア様とドレインさん、それにあいつがなにやら大事な話があるという事でお礼を言うのは後になってしまった。
「あいつ…あたし達を奴隷落ちから助けてくれただけじゃなくて…あのくそ貴族にあたしとリカに手を出さないようにもしてくれたのよね…ちゃんと言いなさいよね…全く…馬鹿なんだから…」
大事な話の中にはあたしとリカの事も含まれている事にあいつがドレインさんに対して目配せしたのが見えたから気がつけた。リカもたぶん気がついてると思うのよね。まあ、あいつがあたし達に余計な気を回さないようにしてるみたいだから気がついてない
暫くしてあいつがあたし達の方に近付いてくるのが視界に入った。
「…大切な話は終わったみたいね?ちょうどあんたに話があったのよ…」
「…私もある…」
リカもあたしと同じように口を開いた。
「ちょうど俺もお二人に話があったんです。席に着いてもいいですか?」
「待って?席に着く前に一言いいかしら?」 「…一言だけ…」
あたしとリカは慌てて立ち上がり…
「あ、はい」
「ありがとう。お陰で奴隷落ちしなくてすんだわ」
「…ありがとう…」
恩人に…あいつに頭を下げた。本当はもっときちんとお礼を言わないといけなかったのにね?
「ああ…お礼はいいですよ?なんか照れくさくなってしまうので…」
あいつは本当に照れてるみたいで可愛かったわね…ち、違うっ!?今のはなしっ!?
「本当は頭を下げるだけじゃあ足りないんだろうけどね…」
「…ホントリーンが迷惑掛けた…お礼はリーンが体で払う…」
本当リカには参るわよね?なんであたしが体で払わないといけないのよ!?でも…本当ならそれくらい求められても不思議ではない。賠償金の額も額だしね…。それに…別にあいつなら…っ…!?今のもなしよ!!!思考がおかしいわ!
「アンタ本当に何言ってるのっ!?いい加減親友辞めるからね!?」
「…じゃあ…私が体で払う…?」
あっ…分かった…。リカのせいよ…間違いないわ。
「そこから離れなさいよ!?しかもなんで疑問系なのよ!?」
「本当に二人は仲がいいみたいですね?息もピッタリなようで…」
「…相棒…」
「幼馴染だしね…。ただ…リカは奴隷落ちしようとした時もそうだけど、自分だけ助かろうとしたのによくもまあ相棒だなんて言えるわね?」
「…照れる…」
ホント…照れる要素なんかないからね?思い返してたらイライラするわね…?ホントなんでリカと親友やってんだろう…。まあ、本気で言ってないのが分かってるからかな…?本気で言ってないわよね!?言ってたらホントに親友辞めるべきね!
「照れる要素なんてどこにもないわよ!リカに構ってたら話が進まないわね…席に着きましょうか」
そう言って席に着いたあたし達。あいつの様子から何か話があるのは予想がついた。ちょっとだけ…エッチな事言われたらどうしようと思ったのはあたしだけの秘密だ…。
「それで…話があるのよね?」
「…私にも…?」
「ええ。先に言っておきますが嫌なら断ってもらって全然構いませんので」
嫌なら…?やっぱり…エッチな…
「…嫌なら…?…やっぱり体…?」
リカもそう思ったのね…。良かったわ。あたしだけじゃなくて…。ま、まあ…普通はそう思うわよね?
「違います!」
「あんたはそこから離れなさいよ!」
あいつはすぐに否定したけどね。あたしも咄嗟に声を張り上げたもんだからタイミングが被ってあいつの声と重なってしまった。
重なるって…なんだかエッチな言葉よね…。
いけない!?今のもなしよ!?絶対にリカの影響だわ!
と、とにかくあいつは次にこう言ったのよね。
「リーンさんとリカさんにしばらくでも構いませんので専属で依頼を受けていただけないかなと思いまして」
「「…依頼…?」…」
あたしとリカは一度顔を見合わせたのよね。依頼ってなんだろうって…。
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