第21話ミノタウロスのサーロインステーキ

「えっ…と…マヨネーズを喜んでもらえたのは凄く嬉しいんですが…みなさん、そんなに絶望しないで下さい…コレも是非食べて欲しいんですよ。本日のメインディッシュです!」



「「「「「こ、これはっ…!?」」」」」



 俺はテーブルに鉄製のステーキ皿を置いた。


「【ミノタウロスのサーロインステーキ】です。なので気をつけて下さいね?言葉通り皿も熱くなっていますので」


「どうして…皿が熱いんですか…?」


 ティアさんのそんな質問に答えます。


「それは火の魔法を調節して付与しているからですね」


「なるほど…皿に火の魔法を付与する事で、この皿の上に載せている物はいつまでも熱々で食べられるというわけですか…」


「ティアさんのおっしゃっる通りです」


「流石はハヤブサ様ですね。勉強になります」


「いえ、俺が元いた世界ではこの皿はすでに普通に売っていたんですよね。ただ魔法がなかったので皿に熱を与えてもそのうち熱が冷めていたのですが、魔法がある世界は違いますね?いつまでも皿を熱いままにできますし」


 ホント魔法って便利だよな。冷めないステーキ皿を作れるし。んっ?いつステーキ皿を作ったのかって?胡椒とマヨネーズを錬金した後にケイトさん達にそれらをご馳走したんだけど、ステーキ皿っているよな?って気がついたのでチャチャっと錬金して魔法を付与しました。錬金も凄く便利すぎるわ。



 ──ジュゥゥゥ ジュゥゥゥゥ!



「…確かに…このステーキ皿というものは凄いですニャッ…今もジュージュー言ってるしニャッ…」


 ネネさんがステーキ皿を指差しながら口を開いた。


「…ただそれは皿の話ニャッ…。ミノタウロスのサーロインも部位的には良い肉ではあると認めるニャッ。でも…それだけニャッ。とてもあのマヨネーズに勝ってるとは思えないのニャッ。だからマヨネーズをもっと寄越すのニャッ」


 サラッと最後にマヨネーズを要求してきてるんだが!?そ、そんなにネネさんはマヨネーズの虜になったとでも!?つまるところこの世界で初のマヨラーが誕生したとでもいうのか!?ネネさんの言葉に同意するように他のみんなも頷いているのが見てとれる。


 ティアさんだけは黙ってステーキを見つめている。ティアさんにはコレがいままでのステーキの味ではないと分かったのかも知れないな。



『──マスター。ネネさんに言ってあげて下さい。それはあなたの意見ですよね…?と。今こそこの言葉を使うべき時がきました』


 じゃあ…論破しますね?と、その後に言葉を続ければいいのかよ!?俺はひ◯ゆきさんかっ!?


 


「まあ…とりあえずみなさん食べてみて下さい」


「…自信があるのニャッ?分かったニャッ。食べてみるのニャッ」


 ナイフがスーッとナイフの重みだけで肉に通るのを確認したティアさんが「いつもより…肉が柔らかい…」呟いている。ネネさんはというと、ピクっと一瞬だけその猫耳が動いたのが分かった。たぶんティアさんと同じような事を思ったんだろうな。柔らかいと…。

 


 それもそのはず。下処理として包丁で筋切りしたり、全体にフォークをプスプスと刺したり、包丁の背でトントントン…と、いわゆる肉叩きもしたのだから。かなり大変だった。



 おっと…俺が思い返しているうちに一口サイズに切られたお肉が、フォークでプスッっと刺されてそれぞれの口へと運ばれていく…。


 そして…パクリ──



「…んんっ~~~!?」

「……ウニャァァァァァァァ…!?」


 柔らかいサーロインがそんなに噛まなくても口の中でとろけていってることだろう。そしてなんといっても極めつけはそのお味だろう。肉の旨味を最大限に引き出しつつ、絶妙な味加減に振りかけられた胡椒と塩。三つの味という名の音が奏でるそのハーモニーに、出てくる言葉は一つだろう。


「とっても美味しいですハヤブサ様っ!!お肉がこれほど美味しいなんて…何枚でも食べれそうです!」

「…う、美味い…ニャッ…」

「「「「「…美味しい!」」」」」


「それは良かったです!」


「んっ…♪ホント美味しいわよね…♪」

「…美味…」


 リーンとリカはケイトさんとゼンさんにご馳走した時に一緒に食べているしな。その時もかなり食べてたけど…流石にそれを言うのは野暮ってもんだよな…?


『──ですね。折角美味しいものを食べて幸せな気分になってますので』


 だよな。俺も一口パクリ…。うん、美味い!ミノタウロスって魔物なんだよな?元いた世界で牛肉って言って出されたら分からないぞ?


『──分からないでしょうね。現にマスターのクラスメイトも牛肉と思って食べてるみたいですし。ただ調味料がない分、味が物足りないとも思っているみたいですね』


 そうだよな。そのうちクラスメイトに会えたら調味料を分けてあげないとな。いや、その前にドレインさん経由で広まるのが先だろうか?



『──何人かはマスターが直接手渡す機会がありそうですけどね』





 まあ、そんなこんなでメインディッシュの【ミノタウロスのサーロインステーキ】はみんなにとても好評だった。ティアさんを含めた侍女の人達が五枚を平らげ、リーンが三枚、リカが六枚、ネネさんに至ってはなんと八枚だ。一体全体体のどこに入っていくのかという感じだ。みんなしっかりとくびれているし…。


『──くびれているなんて…マスターも見るところはちゃんと見ているんですね♪』


 いやいや…普通に分かるだろ…?


『──このスケベ♪いえ、こういう場合はむっつりスケベでしたかね♪』


 そんな目で見てないから!マジで。だから…そういう事いうなよな?それを分かっててまた言ってるだろ?



『──はい♪』


 楽しそうに返事するんじゃないよ…。とにかく…胡椒での味付けも気にいってもらえたみたいでなによりだ。


『──マスター』


『どうした?』


『──まだ終わってないみたいですよ?』


『…へっ?』





「…うにゃぁぁぁぁぁぁ!?」


 突然ネネさんが大声で叫んだ。


「きゅ、急にネネはどうしたのです…?みんなビックリしてますよ…?」


 ティアさんがネネさんに尋ねる。ネネさんは目を見開いて震えているようだ。マジでどうしたんだ…?


「…た、大変な事に気がついてしまったのニャッ…」


「な、何にっ…気がついたのですか?」


「…この一口に切ったステーキ…」


「そ、それが…?」



「…こうするのニャッ!」



──ベチョッ!



「「「「「「…なっ!?」」」」」」



「…そしてコレをパクリニャッ!あむっ…」



 ば、馬鹿な…いや、確かに美味いと思うし、合うとは思うけども…



「…うみゃぁぁぁぁぁぁい!?美味いニャッ!神ニャッ!神が降臨したのニャッ!?」 



 ネネさんがした事といえばとてもシンプル。一口に切ったステーキにマヨネーズをつけただけ…本当にマヨラーが誕生してしまったのかもしれない…いや、この瞬間に誕生したのだろう。



「ほ、本当ですか!?」


「あたしも…」


「…無論私も…」


「「「「「私達も!」」」」」


 次々とネネさんの真似をしてステーキにマヨネーズをつけて食べる面々…。



「「「「「「美味しい♡」」」」」」



 そんな風に喜んで食べる面々に俺は絶望を突きつけなければならない。ただでさえかなりの量を食べているんだ。すでにカロリーが高過ぎると言っても過言ではない。カロリーが高過ぎるという事は…



「あのですね…みなさん…」


「どうしました?ハヤブサ様?」


「何か言いたい事があるみたいね?」


 ティアとリーンが俺の言葉に言葉を返してくれた…。


「何事にも限度というものがあってですね…」


「だから…何よ?もしかしてあんたも食べたいの?よ、良かったら…あたしが…た、食べさせてあげようか…?」


 俺に向けてフォークに刺したステーキを差し出してくるリーン。いや、そうじゃあないんだ。


「ハッキリ言います。太りますよ?」


「「「「「「……ぇっ…?」」」」」」



 俺はこの時のみんなの表情を忘れる事はないだろう。幸せから一気に絶望に堕ちたのだから…。ネネさんなんか『…そんニャッ…』とか言って握っていたフォークを落としているしな。



 な、何事も限度って大事って話だよな…うん。


『──ですね』



 

 


 






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