第19話肉の次は野菜

 肉を扱っているおっちゃんのところを後にした後はすぐ近くにある野菜を扱う店へと赴いた。


「いらっしゃい!色んな野菜が入ってるから見ていってくんな!って、リーンちゃんとリカちゃんじゃないかい!?珍しいね?二人がこの店に足を運ぶなんて」


「ああ…うん。彼の付き添いでね」


「こんにちは。先日からこの町に御世話になってるハヤブサです。これから宜しくお願いします」


「はい、こんにちは。こちらこそ宜しくね」


「野菜を見せてもらってもいいですか?」


「どんどん見ていってくんな!リーンちゃんとリカちゃんはさっきも言ったけど滅多に足を運んでくれなくてねぇ」


「お、おばちゃん!?それは別に言わなくてもいいじゃない!?」


「…野菜嫌い…」


 もしかして二人とも…リカはまんま言ってるしな。


「リーンもリカも野菜苦手なの?」


「…うっ…」

「…野菜なんか食べずに私は生きる…」


 肉だけじゃあ栄養が偏るだろうに…。リカは変な信念を掲げないようにね?まあ、気持ちは分からんでもないけども…。先日野菜を使った料理が一品あったんだけど、食べられない事はないんだけど美味しくはなかったんだよな。


「まあ、こんな調子でね?困った事に二人とも野菜をあんまり食べないみたいなんだよねぇ」


「す、少しは食べるわよ?」


「…邪道…」


「気持ちは分からないでもないけど、体の為にも野菜は食べないとね。病気を予防する効果もあるって聞くしなぁ」


「「「…えっ?」」」


「うん?」


 三人が驚いてる…?なんかおかしな事でも言っただろうか?


「あんた本当かい!?野菜を食べたら病気を予防するって!?」


 この世界じゃあ違うのか?


『──いえ、知られてないだけですね。この世界は病気になっても魔法で大体どうにかできるのでそういう効果があるって事を調べる人がいないし、結論として最終的に必要ないってことになってしまうんですよね。まあ、病気にならないのが一番ではあるんですけどね?』


『魔法が全てを解決してる感じか…?』


『──全てではないですけどね?病気を治す魔法は全員が使える訳ではないですし、使えなくても教会に行ってお金を出せば治してくれます。そんなに高くないですしね。ただ…今から私が言う通りに話して下さい』


 了解。言われた事を口にするよ。



「ええ、本当ですよ?でも野菜に秘められたものはそれだけじゃあないんです」


「それだけじゃあないっ!?」


「野菜に含まれている栄養素によりますけど、美白効果があったり「「「あるのっ!?」」」うおっ!?は、はい…ありますよ?」


「ほ、他にもあるのかいっ!?」


「美白効果…そんなものが野菜に含まれているなんて…」


「…くっ…」


「え、ええ。ありますね。保湿効果だったり、透明感効果や小顔効果だったり…要はそういった栄養素が内側から体に働きかけるみたいな感じです。魔法で言うとバフをかけるのと似ているかもですね」


「そんなにあるのかい!?」


「も、もっと…早く聞きたかったわ…」


「…肉だけ食べるという…し、信念が揺らいでしまう…」



 まあ、どこの世界も女性は美に対して意識が高いだろうし、その為なら何でもって感じに思ってしまうか…?いつまでも綺麗で若々しくいたいのは全女性の願いだろうしな…。女性だけじゃなく最近は男性もそうだったよな?メンズスキンケアという言葉も耳にしていたしな。



「まあ、そんなわけで野菜を取るに越した事はないんですよね。と、いうわけで店の野菜を全部いただいてもいいですかね?」


「全部かいっ!?」


「マズイですか?」


「い、いや…マズくはないさ。ちょっとビックリしてねぇ…。全部買ってくれてありがとうね。あんた若いのによく知ってるねぇ。時間がある時でいいから私に色々教えてくれないかい?そしたら野菜ももっと売れるだろうしね。ちゃんとサービスするからさぁ」


「はい、いいですよ」


 おばちゃんにお金を渡し、買った野菜をアイテムボックスへと収納。今度はその足で魚をと思ったんだけど一週間に一回しか店が開かないらしい。仕入れの関係みたいだ。海まで距離があるみたいだね。そんなわけで錬金ギルドへと向かう事に…。







「今度はどこ行くわけ?」


「錬金ギルドに行こうかな」


「…何を錬金する…?…」


「野菜を美味しくいただくものかな」


「そんなのあるのっ!?」


「…ホント何者…」


「聞いてると思うけど俺は別の世界の人間なんだよね」


「「…えっ?」」


 あれ?この反応…もしかしてティアさん言ってなかった…?


「…だから私達が知らない事を色々知ってるわけね?」


「…別の世界…」


「まあ、魔法はないし、魔物もいない世界だったから…」


「…そう。向こうに家族は…」


「…リーンっ!!…」


 珍しくリカさんが大きな声でリーンさんの名前を呼ぶ。


「ぁっ…ごめん…あたし…」


「…リーン気にしないで?リカも気を遣ってくれなくても大丈夫だよ?ありがとうね?家族はいないし、その事はもう割り切れてるからさ」


「…だったら…なんで…そんな顔…」


「………」



 顔…?顔がどうかした──


『──マスター!錬金ギルドを通り過ぎちゃいますよ!』


 あ、ああ…。悪い。教えてくれてありがとうなサチ?


『──いえ…』




「──さあ、チャッチャッっとアレを錬金して、二人に野菜を美味しいと言わせるからね?」


「…うん」


「…分かった…」




 いつも通りケイトさんに錬金室を借りる事を伝えてリーンとリカと錬金室の中へ。



『──まずは胡椒から錬金すると致しましょうか』


『了解。指示を宜しくな?』


『──イエッサー!まずはアイテムボックスからコクショウの実とハクショウの実を取り出して下さい』


『野菜売りのおばちゃんから買った品の中にそれらがあるんだな?』


 アイテムボックスからコクショウの実とハクショウの実という名前を思い浮かべながら取り出すと出現したのは黒い実と白い実だ。なんだか大きさも形もクルミに似ているな。

 


『──ちなみにコクショウの実はそのまま食べるとライチに味が似ていて、ハクショウの実はロンガンに味が似ています』


『ライチは分かるけど…ロンガン…?』


『──タイで一般的なフルーツですね。日本では種が竜の眼に似ている事から竜眼と呼ばれていますね』


 へぇ~。そんなフルーツがあったんだな。


『──はい。まずはそれぞれから成分を【抽出】して下さい。すると粉ができます。それらを混ぜ合わせて、【錬金】すると…あら、不思議♪胡椒が出来上がります♪』


 了解。


「【抽出】!」



「…相変わらず見事ね」


「…流石は私達の師…」


 褒められるとむず痒くてなんだか照れてしまうな。まあ、サチは俺の力だというけれど、やっぱりサチの力だと思うんだよな。


「抽出したこれらを鉢でよ~く混ぜ合わせてっと…そして…【錬金】!」


 混ぜ合わた粉が光輝く。光がおさまったら…

  

「よし、胡椒の完成だ!」


「こしょう…?こしょうって言うの?さっきと見た目はあんまり変わらないみたいなんだけど…?」


「…匂いは…?」


 んっ…?匂い…?


「リカ!?待っ──」


「…すぅ~~~…は、はっ…」


「どうしたのリカ?はって何?」


 リーンがリカの顔を覗き込む。それは非常にマズイのでは…?


「…はくしゅん!はくしゅん!はくしょん!…」


 

 リーンの顔を目掛けて何度も発射されたリカのくしゃみによって…リーンの顔がどうなったのかという事は多く語らなくても分かるだろう…?


 まあ、持っていたハンカチで顔を拭いてあげたまでは良かったんだけど…何故かリカと一緒に俺まで怒られてしまったのは理不尽な気がするのは俺だけだろうか…?

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