第4話 変わらぬワガママ◆レイモンド視点

「貴方が、レイモンド様ですか?」


 そう言って目の前に現れたのが、俺の婚約相手らしい。見た目は、なかなか良くて好みだな。けど、真面目そうでめんどくさそうだ、というのが最初の印象だった。


 俺が楽しんでいるところを何度か邪魔してきて、かなりダルい女だった。


 だから、婚約を破棄してくれと言ってきた時は、迷うことなく受け入れた。こんな女と、この先何十年も一緒に居るなんて面倒くさすぎる。婚約を破棄するのは、俺にとっても都合が良かった。


 それからしばらく、時間が経過して──。




「これだけじゃ足りない! もっとくれよ」


 俺は父に食ってかかった。いつもなら簡単に金を出してくれるのに、今日は渋い顔をしやがる。これだけの金じゃ、満足に遊ぶことができない。女たちを喜ばせることだってできやしない。


「そんな余裕はない。今は、とにかく空いてしまった穴を塞がないと。そのために、優秀な人材を集めて、仕事を与えて、成果を出してもらわないといけないんだ。その人材を雇うために、とにかく資金が必要なんだ! 無駄遣いしている場合じゃない」


 無駄遣いじゃないぞ。楽しむために必要なんだ。そう思ったが、口には出さない。父は、ため息交じりに長々と説明する。でも、俺にはピンと来ない。


「なんで俺達が、そんな苦労しないとダメなんだよ」


 俺は愚痴りまくった。だって、ラザフォード家には資金があるんじゃないのか? 領地の経営は順調だと聞いていたけど。


 なんで急に、そんな我慢して節約するようなことをしなくちゃならないのか。そう思っていたら、父が怒り出す。


「もとはといえば、お前が浮気なんかするから変なことになったんだろうが!」

「だからアレは、浮気じゃなくて友人だって。友人と遊んでいるだけなのに、周りが過剰に反応しているんだよ」

「周りは、誰もそんなふうには見ていない!」


 ちゃんと説明しているのに、父は聞く耳を持たない。俺の話を聞いてくれない。前まで、そんなんじゃなかっただろう。




 ラザフォード家の財政状況や、父の様子が前と比べて変わっていた。


 この変化は、婚約を破棄したせいだと思う。そのせいで、ブラックウェル家がウチを支援するのを止めたとか。急に支援を止めるなんて、困るよな。


 エレノアという名前だったかな。ブラックウェル家の令嬢がいきなり俺の目の前に現れて、よくわからない書類にサインさせやがった。あれのせいで変なことになったということ。サインするべきじゃなかったか。


 ブラックウェル家の妨害で、ラザフォード家の財政状況が厳しくなった。


 どうするべきか。ちょっと考えてみれば、答えは簡単だ。婚約さえ元通りにすればいいんだ。そうすれば、ブラックウェル家の支援も元通り。ラザフォード家の資産や領地は、以前の豊かさを取り戻せるはず。すべて前の状況に戻ってくれるだろう。


 俺は決意した。エレノアを見つけ出し、婚約を元通りにするようにお願いしよう。彼女との結婚生活は面倒そうだけど、家のために我慢するしかないか。金が無いと、色々と楽しめないからな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る