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2日後の放課後。――言うまでもなく、水曜日で部活なんてモノはない。
教室の中で、私と瀬川杏奈、そして菅原慶次の3人は、幽霊屋敷について分かっていることを話していく。いわば「作戦会議」のようなモノを行っていた。
瀬川杏奈は話す。
「――あれから、私と梓ちゃんの2人で『内海紫帆里』っていう子に接触したのよ」
「内海紫帆里? 2年C組の不思議ちゃんか? 確かに、アイツならオカルトについて興味を示していそうだが……。それで、紫帆里はなんて言っていたんだ?」
「確か、『あの屋敷は霊力が強い』とかどうとかこうとか言ってたかしら? まあ、早い話が『呪われてる』ってことだと思う」
「呪いなぁ……。今時、『呪いには呪いをぶつける』なんて言うけどな。――呪いで戦うバトル漫画の受け売りで申し訳ないが」
「慶次くん、良いのよ。私もそれは思っていたし」
「梓、そういうモノ読むんだ……」
「私がそういうモノを読んで、何が悪いのよ?」
こう見えて、私はサブカルチャーに精通している。そういう話をするとみんなからは「意外だ」って言われるけど、漫画から映画まで――その趣味は多岐に渡る。ただ、豊岡という場所は田舎であるが故に、「映画館」というモノがないのだけれど。
まあ、昔はそれなりに大きな映画館があったらしいのだけれど、いつの間にか閉館してしまった。故に、豊岡という街はパチンコ以外の娯楽が貧しいなんて言われている。――だから、みんなは大学になったらこの街を捨てるのだろうか。
かくいう私も、立志舘大学という京都の難関大学に進学したいと思っている。その夢は両親も応援しているし、私はその期待に
そんなことを考えつつ、作戦会議は続いていった。
「それで、今日はどうするのよ? 幽霊屋敷」
「オレはパス。現時点で行ったって、どうにもならねぇし」
菅原慶次がそう言ったので、私も――同調した。
「私も遠慮しておこうかな。慶次くんが言う通り、今のまま屋敷に行っても、碌なことにならないし」
「確かに、2人の言う通りね。――ここは、一旦作戦を練り直そう」
瀬川杏奈がそう言ったところで、作戦会議はお開きになった。
*
とはいえ、そのまま帰るのはつまらない。私はなんとなく図書室へと向かった。
図書室には小説の他に、いわゆる「専門書」と呼ばれるモノも多数あった。流石にオカルト関連の専門書はないけれども、なんとなく『戦時中の日本について』という本を手に取った。
私たちのご先祖様って、どういう訳か――「戦争」というモノをしていたらしい。それも、アメリカという大きな国を相手に戦っていたという話は何かで聞いたことがある。アメリカ相手に戦争を仕掛けたって、何かが変わる訳じゃないし、むしろ、失うモノの方が多いと思う。実際、終戦のきっかけを作ったのは――広島と長崎に落とされた原子爆弾だったし。
それはそうと、豊岡という場所も――やはり、空襲の被害がなかった訳ではないらしい。事実、この高校の真下にも、
私は、『戦時中の日本について』という本を借りることにした。貸出期間は1週間だから、来週の水曜日に返せばいいだろう。そう思って、貸出カードにハンコを捺そうとした。――あれ?
カウンターの前に、「白い服の幽霊」に似た子がいる。でも、彼女は白い服を着ていた訳じゃなくて、普通にここの高校の制服を着ている。――見間違えだろうか?
私は、なんとなく彼女に話しかけた。
「あなた、もしかして……幽霊?」
当然だけど、彼女の答えは私の望むモノではなかった。
「違うわよ。――私は『
神崎友美恵と名前の響きが似ているなと思いつつ、恐らく別人なのか。私は彼女に対してそう思った。
とりあえず、私は貫抜雪衣から「貸出」のハンコを捺してもらい、図書室を後にした。――多分、彼女は幽霊騒ぎと無関係だろう。
*
家に帰って『戦時中の日本について』の続きを読んでいく。――当たり前だけど、「あの時豊岡で何が起こっていたか」なんて記述はなかった。
でも、私はどうしても内海紫帆里の言葉が引っかかっていた。彼女の言葉を信じるならば、あの屋敷は「軍部の実験場」であり、そこで何らかの実験が行われていたのだろう。
あまり気にしても仕方がないので、私は――両親に対して普通に振る舞うことにした。
普通に夕飯を食べて、普通にお風呂に入って、普通に勉強をする。そして、眠くなったら寝て、スマホのアラームが鳴ったら目を覚ます。
もちろん、高校生活も普段通りに振る舞って、部活も普段通りに行う。そういう日常を過ごしながら、土曜日がやってきた。
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